娘が「ねえねえ、お母さん。ケーキ食べたい」と言ってきたので、

条件反射のように、わたしは「いいわよ。そのかわり、おとなりへ行って、人間がすてた薪のはしっこをひろってきてちょうだい」と言ったら、

娘は満面の笑みをうかべて「『ひなどりとねこ』だ!続きもお話しして!!!」と目を輝かせた。


 じゃあ、続きは、いっしょにケーキを作りながらにしようか。


 というわけで、材料をそろえたり混ぜたりしながら、わたしは『ひなどりとねこ』を語った。
両手がふさがっていても、なにも持たずに語れるから、ストーリーテリングってこういう時すごく便利だ。

『ひなどりとねこ』というのは、ミャンマーの昔話。

 あるとき、ひなどりが「ケーキが食べたい」と母鳥に言うと、母鳥は「おとなりへ行って薪を拾っておいで」と答える。言われたとおり、ひなどりがおとなりへ薪を拾いに行くと、とちゅうでネコに会ってしまう。ネコはひなどりを食べようとするのだが、あとでケーキをあげるから、と約束して、ひなどりは逃してもらう。
家に帰ったひなどりが母鳥にこのことを伝えると、母鳥は大きなケーキを焼いてくれた。
 ところがひなどりは、あんまりケーキがおいしいものだから、ネコの分までぜんぶ食べてしまう。
しばらくすると、約束のケーキをもらいにネコがやってきたので、ひなどりと母鳥はあわててツボの中に身を隠す。
 ケーキがないことを知ってネコは激怒。ここで見つかってしまったら、ひなどりたちは食べられてしまう。見つからないよう、壺の中で息をひそめるひなどり母娘。
 ところが、ひなどりはクシャミをしたくなってしまい…。

という話。

 この、くしゃみをしたいひなどりと、くしゃみをすれば見つかってしまうからガマンなさい、とたしなめる母鳥とのやりとりがおかしくて、この場面になると子どもたちはいつもクスクス笑う。

 はじめはキッチンで娘だけに語っていたつもりだったのだけど、リビングでごろごろしていた上の息子たちもいつからか聞いてくれていて、それがうれしくてわたしはますます興に乗って語りつづけた。

 最後はひなどりがガマンしきれなくなって大きなクシャミをしてしまい、そのいきおいでツボが割れるのだが、分かっていても子どもたちがこの場面で大笑いしてくれるのが、楽しくてうれしい。

 「くしゃみでツボが割れるって、どんなくしゃみ」
次男が笑うと、
 「くしゃみは時速300kmらしいよ」
と長男が、またややこしいことを言い出した。
 「でも、どっちかっていうと、くしゃみの風圧とかよりも、共振周波数で割れるほうがありえるんじゃないか」
 「うーん、キョーシンシューハスウを利用するとなるとどーたらこーたらだし…」
 「ガラスとちがって壺の方がなんちゃらかんちゃらだからウンタラカンタラで…」

 どんな話でもすぐに理系にもっていく数学バカの長男のせいで、楽しくてかわいい「ひなどりとねこ」の話がどんどん論点がずれていく。

 「そもそも鳥がつくるケーキだと、大きさ的にネコの分まであるのかっていう問題が…」
 「それならまずこの鳥の種類を特定するとことからはじめないと。人間の家に住みついてるってことは、人里に近い鳥で…」
 「前からこの話を聞くたびに、これはシジュウカラかなって思ってるんだよなぁ。ツピーツピーって感じがこの話のひな鳥っぽい。でもそれだと小さすぎるか…」(←これは衝撃だった!わたし、何年も前からこの話を何度も語ってるけど、このひな鳥がなんの種類かなんて考えたこともなかった!!)

 『空想科学読本』を愛読している息子ふたりは、おかしな方向で盛り上がっていた。


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 「はいはい。ケーキ焼けたよ」
すっかりシラけたわたし、あらねつのとれたケーキをテーブルに運んだら、
 「おれが切ろうか」
と、次男がナイフを持ってきてくれた。


 ところが「わたしも切りたい」と娘が言い出し、ああ、なんだかめんどくさいことになったなぁ、と内心ため息をついていたら、
 「それなら、こんどは『二ひきのよくばりこぐま』を語ったらいいんじゃない」
と長男がよけいなこと言う。


 もちろん娘はパッと顔をあげて、
 「あっ! よくばりこぐま、聞きたい、聞きたい!!!」
と言い出すしまつ。


 「ちっ、めんどくさいことを…」
わたしは思わず顔をしかめてしまったけど。
同時に、なんだかうれしくなってきた。

 日常の中にお話がとけこんでいるのって、ちょっと楽しい。
プレーンのバニラアイスにちょこっとトッピングをふりかけたような、なんだかトクした気分。

 できたてのケーキはおいしかったし。
 子どもたちとのバカバカしい話は楽しいし。
 気分は春爛漫⭐︎


 せっかくの春だし(関係ない?)また何か、新しいお話をおぼえようかな♪
 

 

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