つまらないことが気になるタチである。
気になり始めると、いろいろ考える。
情報が少ないと、想像でいろいろ考える。
つまり妄想である。

という訳で、"Black Jack" という名前に関しても、私はいろいろ妄想している。

手塚治虫は、コミックスのカバーに記された端書きで、

「ブラック・ジャックとは、金属製(昔は革製だった)のコップのことですが、海賊の旗-あのがい骨をぶっちがえたマーク-の意味もあります。お金をふんだくり、荒っぽくメスで切りきざむというわけで、海賊に見立てたのです。」

と書いているが、実は私はこれではピンとこない。意味を説明されなければ分からないようでは、通り名として失格な気がするからだ。
(マンガのタイトルとしては合格である)


さて、"Black  Jack" は英語であるため、国内でいきなり名乗るには、あまりふさわしくない。というか、馴染まない。他人がつける通り名としても考えにくい。

だから、"Black  Jack"とは、まず「海外でそう呼ばれ始めた」と考えるのが、私的には自然である。というか、「ありそうな話」である。

数ある「Black  Jack」エピソードの中のどこかで、
彼は「免許を剥奪されてから、海外での仕事を請け負うことが多くなった」
という説明があったが(どこだったか、本当に思い出せない。私の妄想の一部かもしれない)、その過程で、外国人につけられた通り名なのだとすれば、とても合点がいく。

そして、BJが "Black Jack" と呼ばれるようになった成り行きに関しては、仮説が2つ考えられる。

まず、"Jack" は、男の名前だが、辞書を読んだりあれやこれや考えるに、日本語でいうところの「太郎」みたいな言葉なんだと思う。
「切り裂きジャック」とか「ジャックと豆の木」とか、一方で「桃太郎」とか「ものぐさ太郎」とか、の言い回しを考えてみるとよい。

つまり、雄猫が "Tom" と呼ばれるように、世間一般の、無名では無いにせよ、特にご立派な名で呼ぶほどではない、十把一からげの男達を "Jack" と呼ぶのである。多分。

で、一つ目の仮説だが、

手塚眞監督「ブラック・ジャック21」
episode.2 BJ 父親との再会

ピノコ「先生」
BJ「なんだ?」
ピノコ「黒男って誰よのさ?」
このエピソードで、
BJは、ピノコに、"Black Jack" →「黒男」と翻訳させている。

日本語の名前で使われる「男」も「夫」も、他の漢字と合わさって、「太郎」と同じ働きをする。つまり、 "Jack" だ。
「黒+男」= "Black Jack" というわけだ。


しかし私は、最近思い着いた第2の仮説が気に入っている。
"Jack" が、一般的に「男」をあらわすなら、"Black Jack" は、単純に、「黒衣の男」という意味なのだ。
あの黒服野郎って感じで(蔑称とは限らない)外国人に呼ばれ始め、自分でも名乗るようになった(最初は海外で、次いで国内でも)。と考えれば、たいへん自然な成り行きに思われる。

呼ばれ始めたきっかけが第2の仮説で、実は第1の仮説にもはまっていた。なんていうのが、私の好みかな。

………………

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:09 もらい水

手瀬間「あなたは一体?」
BJ「私の名は Black Jack」
手瀬間「まさか、あの?」
こんな風にカッコよく自分の名を名乗り、さらに、相手がそれを聞いて驚く、いわば水戸黄門の印籠のようなシーンは案外少ない。
「私の名は Black Jack」でも
「私は Black Jack」でもいいから、
こんなカッコイイ場面をもっと見たかった。