室町期の美濃国刀工の特徴その2 

 

 前回に続いて今回も室町期の美濃刀工を見てみます

 

 鎌倉末期から南北朝初期にかけて美濃国での刀剣需要に

応じて大和国から移住した刀工兼氏が志津派を形成したの

が始まりで、大和国からは千手院、善定、寿命等の刀工が

それに続いた。

 美濃刀工と大和物との関連が強い事が知られ、作風にも

それが現われている事を無視することは出来ない。

 

 室町初期の美濃刀工は前期直江志津刀工の後代と思える

刀工と関刀工が見られるがその作刀は少ない。

 

前回は、室町初期の美濃物一般の特徴を述べました

 

 室町中期以降の美濃刀工、中期から末期にかけては美濃刀の全盛期

あたり刀工数、作刀数、共に大きく発展し鍛刀の中心地は関の地にな

り関に発祥した鍛冶座の組織によって大量の需要にも応じている。

関七流と称される各派が生まれ数多くの刀工が誕生し、中でも現存作

の多い著名工が美濃刀の作風を確立した。

 

〈室町中期、末期の美濃物一般の特徴〉

 

寿命、善定派後代、兼常、兼元、兼定、兼房、氏房、兼貞、

正利、岩捲、等。

 

○刀姿 打刀で身幅頃合い、やや反りの付くもの。身幅広く

    鋒延び先反り強いもの鎬幅はやや狭く総体平肉は少'ない。

 短刀 平造り身幅尋常反り少なく小振りなもの。

    寸延びで先反り強いもの。諾刃造り短刀、

 槍  大身、短寸、薙刀と多くの物が存在する。

 

○地鉄 板目肌が流れ柾肌交じる物多い。小杢状に詰んだも

    のも刃寄り、棟寄りのどこか柾肌が交じるもの。

    映り立ち棟寄りが白気調となる物多い。

    鎬造りの場合鎬地に柾が出る。

 

○刃文 匂い出来の互の目乱れ、尖り刃交えるもの。

    尖り刃三本形状(兼元、初代は三本杉整然としない、

    後代は揃う。

    互の目丁子乱れ匂い締るも焼き頭沸粒立つ、

    兼房 大互の目腰開き調匂い沈み心

    兼定 匂い出来直ぐ刃匂い締る直ぐ刃尖り刃で節がつく

       (兼常、兼定、稀れに兼元)。短刀で尋常な直ぐ刃、

       来物を写す(兼定、兼元)。その他腰刃を焼く物、

       失筈刃交じる物、匂い出来互の目がちの皆焼等。

    鋩子 湾れて地蔵返り、やや大丸状で返り長く焼き下げる。

 

 

◎刀 濃州関住兼常

 

 

○刃長 二尺二寸三分、反り五分、元幅九分二厘、先幅六分二厘、

○元重 二分四厘、先重一分六厘。

○刀姿 鎬造り、行の棟。約一寸五分摺り上る、総体優美な刀姿、

    鎬高く一見大和風浅い笠木反り。地鉄、小板目肌詰み

    裏柾状に流れるが綴密で目立たなく精美、地景あらわれる。

○刃文 匂い主調の直ぐ刃、ところどころ小乱れ、小足入る。

○鋩子 直ぐ先、大丸短く返る。健全な映りあらわれ、

    関物として最良の地鉄。

 

 

◎刀 兼房

 

 

○刃長 二尺三寸六分、反り六分、元幅一寸一分、先幅八分、

    元重二分五厘、先重一分九厘。

○刀姿 鎬造り、行の錬、身幅広く堂々とする刀姿、

    表裏二筋樋を茎に掻き通す。地鉄、小板目肌少し流れ柾肌を

    交じえ極めて精綴。

○刃文 匂い口締る大互の目乱れ、兼房乱れの典形。

    刃中やや小沸付き沸足太く入る。

 

 

◎刀 和泉守藤原兼定作

 

 

○刃長 二尺四寸一分五厘、反り七分、元幅一寸五厘、先幅六分六厘、

    元重二分八厘、先重一分七厘。

○刀姿 鎬造り、行の棟。元幅広く笠木反り強い。鎬幅狭く少し高い。

○地鉄 小板目肌詰む、鎺元肌やや大模様。

○刃文 匂い口締る互の目乱れ、腰開き調、互の目の頭角張り、

    尖り刃交じる、足鋭く入る。元から映り刃に添って立っ。

○鋩子 乱れ込み先掃けて返る。

 

 

◎短刀 兼定

 

 

○刃長 七寸七分、反り少し内反。元幅七分九厘、元重二分強。

○刀姿 平造り、少し内反り、真の棟。短寸の極めて格調ある刀姿。

○地鉄 大模様の板目肌、表裏共中程まで柾に流れる。刃縁棒映

    り立ち棟寄り白気る。刃文、匂い口の締る直刃、

    ところどころ小足入る。元の辺心もち浅く湾れる、

○鋩子 フクラから先やや深く小丸に返る。

 

 

◎刀 兼元

 

 

○刃長 二尺一寸四厘、反り五分五厘、元幅一寸四厘、先幅八分、

    元重二分二厘、先重一分四厘。

○刀姿 鎬造り、行の棟、元幅広く、表素剣と梵字、上に二筋樋、

    裏護摩箸と梵字、上に棒樋を彫る。

    身幅の割りに重ね薄く平肉乏しく鋭利の感ある。

○地鉄 板目流れ柾交じる、総体白気映り立つ。

○刃文 三本杉、互の目乱れ尖り刃入る。

○鋩子 湾れ地蔵返り。

 

 

◎短刀 若狭守氏房 元亀三年八月日

 

 

○刃長 八寸八分強、反り僅か、元幅八分八厘、元重二分。

    平造り、真の棟、元幅少し広く平肉少ない造り。

○地鉄 板目柾に流れる、刃寄り柾、刃肌柾状。

○刃文 匂い主調の湾れ小互の目小乱れ足入る。

    表裏共元の辺小互の目乱れ腰刃風になる。

○鋩子 小丸に少し長く返る。

 

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   季刊春霞刀苑・新解刀剣鑑定法(犬塚徳太郎著)を参照しました。