室町期の美濃国刀工の特徴 そのⅠ
前回に続いて今回も室町期の美濃刀工を見てみる
鎌倉末期から南北朝初期にかけて美濃国での刀剣需要に
応じて大和国から移住した刀工兼氏が志津派を形成したの
が始まりで、大和国からは千手院、善定、寿命等の刀工が
それに続いた。
美濃刀工と大和物との関連が強い事が知られ、作風にも
それが現われている事を無視することは出来ない。
室町初期の美濃刀工は前期直江志津刀工の後代と思える
刀工と関刀工が見られるがその作刀は少ない。
〈室町初期の美濃物一般の特徴〉
寿命派、善定派、兼吉、兼安、兼歳
○刀姿 前期同様の太刀姿のもの。稀に反り強く腰反りがかったもの。
身幅頃合い浅い笠木反り一見して打刀姿の物。
短刀、身幅頃合い無反りで重ね厚いもの等。
○地鉄 板目に柾が流れて交じる、鍛錬の粗な物が多い。
短刀の地鉄は精良なものを見る。
地映りが現らわれて白気て見える。
○刃文 匂い出来の細直ぐ刀、表裏どこかに尖り刃が入るもの。
互の目の連れた刃、匂い出来で刃縁細かく掃けて大和調
が強い。
○鋩子 直ぐで大丸風、乱れて地蔵風に返るのも。
◎短刀 濃州住兼吉 鷹永十年八月日
○刃長 九寸一分弱、反りなし。元幅八分、平造り、行の棟。
寸法の割りに細身、重ねは厚いやや内反りの刀姿。
表裏に棒樋。
○重ね 二分強。
○地鉄 板目、流れ柾交じり、棟寄りに映りごころ。
○刃文 匂い口締る細直ぐ刃、匂い細く締り気味で刃中の働きはない。
○鋩子 直ぐ先小丸に返る。表返り喰違い状。
◎刀 濃州関住兼常
○刃長 二尺二寸三分、反り五分、元幅九分二厘、先幅六分二厘、
元重二分四厘、先重一分六厘。
○刀姿 鎬造り、行の棟。約一寸五分摺り上る、総体優美な刀姿、
鎬高く一見大和風浅い笠木反り。
○地鉄 小板目肌詰み裏柾状に流れるが綴密で目立たなく精美、
地景あらわれる。
○刃文 匂い主調の直ぐ刃、ところどころ小乱れ、小足入る。
○鋩子 直ぐ先、大丸短く返る。
○その他 健全な映りあらわれ、関物として最良の地鉄。
室町中期以降の美濃刀工、中期から末期にかけては美濃刀の全盛期
あたり刀工数、作刀数、共に大きく発展し鍛刀の中心地は関の地にな
り関に発祥した鍛冶座の組織によって大量の需要にも応じている。
関七流と称される各派が生まれ数多くの刀工が誕生し、中でも現存作
の多い著名工が美濃刀の作風を確立した。
次回に続く
季刊春霞刀苑・新解刀剣鑑定法(犬塚徳太郎著)を参照しました。