金原ひとみ『マザーズ』をやっと読んだ。

子育ても遠い日のことになりつつありますが、読んでいて辛かったことがあれもこれもと甦ってきて、何回も泣きそうになりました。あるシーンでは実際に泣いた。

ドラッグ漬けの作家・ユカ、モデルで不倫中の五月、ユカの高校時代の同級生で今は専業主婦の涼子。この三人の母親が子どもを預けているのが無認可のセレブ保育園で、保育中の子どもをウェブカメラで視聴できるなんてのは、実際にやっている保育園もあるのかもしれない。
三人の母親のどれともわたしはシンクロしないけど、子どもを保育園に預けながら働くことにまつわる様々なことはやはり共通して経験したことだ。ほんとに、いろいろ余計なことまで思い出して、なんであんなことに耐えてまでわたしは働き続けたり子どもを育て続けてきたのだろうと、それはもちろん過ぎてしまえばなんてことのない話ではあるのだけれど、渦中のときは本当に孤独だったし絶望的だったし自棄だったりしたなあ。ああ、よく頑張ったよ、自分。

という具合に、小説を読んでいるというよりは自分の昔のことを思い出しては戦慄していた感じもあるんですが、『マザーズ』の凄いところはそういう誰彼に共通する「闇」の部分をかなり露悪的に描いてしまっていることだと思う。虐待をしてしまったひとは(実際にしなくても、そういう感覚は多くの母親が経験している)涼子に、不倫をしていたひとは(あるいは夫との関係に絶望した経験をもつひとは)五月に自分を重ねて読むだろう。まあさすがにドラッグに溺れたひとは少ないかもしれないけれど、ユカの抱えている闇も容易に想像できる。

不満があったのは、三人とも「男(夫)」への依存が強過ぎるところ。ひとりくらいシングルマザーとして生きていく選択をしたっていいのに。ユカや五月には経済力はありそうだから、それだけではひとりでは生きていけない何かが、今という時代にはあるのかもしれない。そういう意味でも現代的な小説なのだろう。
 
<今の仕事を始めてすぐに央太と結婚した私は、央太と暮らしていく中で、そうして少しずつ価値観を変えていった。私には、央太の要素が大量に溶け込んでいる。だから私は央太を他人だと思えない。彼は私の血のようなものであって、彼と別れたとしても、その血は永遠に体内を巡り続けていくだろう>

これはユカの言葉だけれど、こういうのを読むと「若い」なあと思う。もちろん、著者の若さでもあるのかな。

あと、わたしは金原ひとみの文章は好きではないかもしれない。描かれている内容よりはるかに文体が理屈っぽい。そのギャップは面白いけれど、泣き喚いているのに論理的なことを言っているようなもどかしさがときどき読書のスピードを緩めてしまった。これ一作しか読んでないんですが、ほかの作品を読むかどうかはまだわからない。