新政権に期待すること | 片平敦オフィシャルブログ「気象予報士・片平敦の 風まかせお天気日記。」Powered by Ameba

新政権に期待すること

今月(9月)末で、和歌山県の「潮岬測候所」が無人化されます。

これで近畿地方からは、航空測候所を除いて
すべての「測候所」がなくなることになります。

(「気象台」は各府県に少なくとも1つずつは残っています)


気象予報士・片平敦の 風まかせお天気日記。


気象予報士・片平敦の 風まかせお天気日記。
(3年前に訪れた潮岬測候所。

 いろいろと親切に職員の方に教えてもらったいい思い出です)


本州最南端の「台風の砦」として、
1913年から96年間も続いた“有人観測”が
この9月でその長い歴史に幕を下ろすわけです。
(注:無人の観測は今後も続きます

 有人の観測がなくなる、という意味で、です)


また、1958年から51年間にわたって続けられてきた
「生物季節観測」も断絶することになります。
(サクラの開花、とか、セミの初鳴き、とか、
 来年からは正式な気象観測のうえでは、
 「いつ」なのか、二度と記録が残らないことになります)


  晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ


公務員の人数を削減して予算を削る、という大きな社会の流れの中で、
気象庁だけその流れに逆行して良い、というわけではありませんが、
ほかにもっと削れるところはないのでしょうか。


もちろん、維持するのにどれだけのお金がかかるのか、

しっかりと考えたうえでの結論なんでしょうが、

「全国の測候所が来年には全てなくなる」と知っている国民がどれだけいるでしょう。


ほかの大きな省に比べればそれほど大きくない、
年間たかだか600億円の予算をさらに削って、
地域の季節情報(環境情報)や目視観測を減らすべきなんでしょうか。

それについて、国民のみなさんはどう思っているのでしょうか。


いったん観測をやめてしまえば、それが復活することはまずありません。
これまで先人が一日も欠かさず観測し続けた貴重なデータの継続を、
この世代で断絶させてしまうことが、本当にいいことなんでしょうか。


もちろん、福祉や年金や雇用や景気対策など、
ほかにももっともっと「今」困っている人に手を差し伸べるのも必要です。
それは優先して今まさに行わなければならないことだと思います。


だけど、一体どれだけの金額をかけるかは分かりませんが、
「高速道路無料化」や「子ども手当」にかける莫大なお金と同様に、
同じくらい大事な、将来を見据えたお金のかけ方も忘れてはいけない気がします。
(僕は自家用車も乗らないし、子どもも今のところいないので実感があまりわかないのもありますが…)


  晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ


次の気象衛星「ひまわり」が飛ぶかどうか、
その予算がつくかどうかでさえ一悶着あったこの国……。


ちまたでは「気象庁なんて民営化すればいいんだ!」なんて声さえ聞きます。
一体どこの民間企業が全国1,400か所のアメダスを維持管理する費用を出せますか。
そんなことになったら天気予報だって、きっと全部有料化されてしまうでしょう。


気象業務は、一定の品質を保ちつつ行うのは、国にしかできない仕事なんです。
(地方自治体が行うという手もありますが、
 財政再建団体になる所もあるなかで、共通の品質は保てないと思います。
 住む県によって、命に関わる防災情報に不公平が出るのはあってはならないです)


今回の選挙では、どの政党も、それほど「防災」については
マニフェストに書いていなかったのが、僕の中では一番の残念な点です。


新政権が「あ、これも削れそうだ」なんて言って
簡単に気象業務の予算も削っていかないか、心底、心配しています。

ただでさえ苦しい気象行政、
「痛みを伴って削った」という看板として目立つだけに、
これ以上の削減は気象情報の利用者に大きな影響を出しかねないと僕は感じています。


……アメダスが半分になったらどうしよう。
……気象庁の天気予報がすべてコンピュータの自動計算だけになったらどうしよう。
……気象台が各地方に1か所ずつになったらどうしよう。


極端な話、こんなことまで心配になってきてしまいます。


気象庁が予報も観測もやめたら、予報会社や放送局によって、

天気予報が「当たる」ところと「当たらない」ところが出てくるはずです。

それが「競争原理」のなかでは大事かもしれませんが、

少なくとも、こと防災情報に限っては、不平等が出てはいけないと思います。


新政権が防災や環境についてどんな政策を持っているかわかりませんが、
しっかり一つひとつの重要性をよく見ていただいたうえで
削るべきところは削り、残すべきところは残す、と判断してもらいたいです。
くれぐれも軽はずみなことをしないでいただいて、
じっくりしっかりと考えてから行動に移してもらいたいと痛切に願います。


  晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ 晴れ


今回は久しぶりに長く、そして熱く書いてしまいました。
ムズカシイ話を長々と書いてしまい、
読んでて疲れちゃった、という方がいたらごめんなさい。


ただ「政権交代か否か」というところだけが争点になってて、
もっと細部を細かく見られなかったのか、
今回の選挙や今後の政権について思いのままをつれづれに書いてみました。


【参考】 チーム森田の「天気で斬る!」 2009/7/12

  「測候所廃止を考える」

   http://blogs.yahoo.co.jp/wth_map/58184254.html