『井出の恋』 | オレンジサンセット岡田オフィシャルブログ「徒然雑草」by Ameba

『井出の恋』

井出は細くて身長が低いがヤンキーへの憧れが強い。
決してイケてるとは言えないが色んな意味で目立つ存在ではあった。

そんな井出には好きな女子がいた。
クラスのマドンナである若田部さん。

中3の三学期。
受験戦争終戦後の一番宙ぶらりんな時期に、井出はみんなをスケートに誘った。
誘ったメンバーには、僕もいたし、若田部さんもいた。
合わせて男女8人。
男は自分含めイケてる面々ではないのだが、なにしろ中学生生活の中で唯一の宙ぶらりん期間。普段では断られること必至のイケイケ女子4人がメンバーに入っているのだった。

井出がみんなをスケートに誘ったのには理由がある。

井出は、幼稚園の頃から小6までフィギュアスケートをやっていた。
で、みんなは未経験。
若田部さんに良いところを見せようと目論んでいたのだ。


その目論み通り若田部さんは、氷上の井出の華麗な滑り姿を見て、上手いだの凄いだの、井出に夢中なのだった。

井出はみんなに滑り方を伝授し、井出の教えが上手いのか、みんなの覚えが早いのか、ある程度は滑れるようになった。

「鬼ごっこしよ。」

誰かが言い出して、鬼ごっこが始まった。
井出は、わざと若田部さんに捕まえられてみたり鬼から逃げる若田部さんをかばうように鬼にわざとタッチされてみたりして、ひと通り良いところを見せて、そろそろ帰る時間やな。となり額に汗を滲ませながら、スケート靴を脱ぐのだった。



「あ~楽しかった。」

満足げなみんなは、家の最寄り駅まで着いて、夕日沈む中、それぞれの方向へ帰っていった。

その日の22時頃。
ポルノグラフィティの曲を聴いていると井出から着信。

「もしもし~」

「岡田、今日ありがとう!めっちゃ楽しかったわ~。」

「こちらこそ。」

「ほんでやねんけど俺な、若田部さんに今から電話で告白しようと思うねん!どう思う?」

難しい選択だなと思った。
以前から恋愛相談はうけていたのだが、今日が告白の日になるとは。


「実際、今日の井出、良いところは見せられてたと思うねん。でも今日は二人で遊んだわけじゃないやろ?しかも若田部さんとちゃんと遊んだん初めてやろ?今日のこれを階段の一段目として、何度か二人だけで遊んでからのほうがいいんじゃないん?」

彼女出来たこともない田舎童貞が、井出にそれっぽくアドバイス。

井出も奈良県産の純童貞、僕に耳を傾け確かにと納得。

「その作戦で行くわ!」

その後からは、若田部さんのどこが好きだのどこが可愛いだのを聞かされて、むしろ若田部さんの方が自分のことが好きなのではないか?と井出が言い出したところで、終話。


うまいこと作戦が成功すればいいなー。
作戦が成功して、2人付き合ったら大ニュースやな。
そう思いながら布団に寝転びポルノグラフティの曲の続きを。



30分後、井出から再び電話が。

「ふられた~!泣」

「はあ?」

「ふられた~。友達としてならいいって。」

「なんで告白してん!!」

「我慢出来んくて。」

「我慢せえよ。」

「ごめん。」

作戦使わずして井出の恋散る。