札幌地下鉄大通駅からススキノ方面へ向かう地下街入り口前にある立ち食い蕎麦屋が好きだ。

真っ黒、なのに薄口という不思議なつゆによくからむ蕎麦は抜群のうまさだ。

ぼくはいつも天玉そばをたのむ。

たまごがつゆにとろけて、とろーりあまく、そばの香りをも引き立てる。


大雪極寒の中をあちこち営業で歩き、しばれた手を蕎麦の器であたため、凍えた身体を内臓から蕎麦であたためる。そんな感覚が好き。

真冬に出張で来るなんてことはあまり無いから尚更そのような境遇の際〝冬、北海道に来てる!〟というある意味贅沢の極みだと、ちょー冷えちょー温むその落差を楽しむのである。

Sと、どMが、共存してるんだな、これ。変態かな。


よく立ち食いで、つゆが熱すぎる店があるが、ここはいつ食べても〝ちょうどいい〟

いつも温め。それが毎度の「ほっ」を生むのだろうか。いわゆる「安心感」だ。

安心感を求めて、札幌地下街の立ち食い蕎麦屋に人が群がる。

ぼくは大体営業途中に。

朝食の人もいれば仕事終わりの人もいるだろう。これからススキノで仕事なんて女性や店と店との間に腹をふくらます人もいる。

家族でおそばをすする。パチンコで負けたと立ち食いを胃に流し込み、また街へと消えてゆく人。

いろんな人が大通の地下の立ち食い蕎麦屋を経由する。

ぼくもこの仕事で札幌へ来るようになりもう18年にもなるだろうか。

4回の来札で1回は、そう平均してそれくらいはこの立ち食い蕎麦屋で天玉蕎麦をすすり、周りの会話をおかずにすすりしてきた。

札幌地下街にある立ち食い蕎麦屋。そこに、何故だろう、様々な人生をみてしまうのはぼくだけだろうか。


ぼくは蕎麦が大好き。

しかし蕎麦でも〝荒い蕎麦〟は苦手になる。腹にたまり、苦しくて辛い。

札幌地下街の、ここの蕎麦はうまい。まるで暖炉にこめる火種のように軽い。うまい。

人がいる限り、そこにはドラマが生まれる。

札幌地下街の街角、ぼくの好きな立ち食い蕎麦屋である。