季節も変わり、暖かい春になって来た。

芽吹いたつぼみが、あらゆる所で花開いてくる。

一番心踊る季節だ。


そして、生き物が活発に動き出して来る。

 

家にいてはもったいない。

外に咲くお花を見に行こう。

新しく運動靴も買った。足どりも軽い。

 

近くの散歩道はランニングをしている人や自転車も通る道だ。


道の両側にある花壇には花の上を蝶々がヒラヒラと飛び回っている。


家の中で、とじこもっていた人達も外に出て歩き出して来た。

 

歩いていると沢山の人にすれ違った。そんな中、手をつないで歩く老夫婦を見た。


若い時、手をつないでいた夫婦も長年連れ添うと、手をつないで歩くなんて、ほとんどなくなる。


だから、その姿はほほえましく羨ましくも思えた。

 


そう言えば、私も夫と手をつないで歩いた事があったなぁと思い出していた。

 


還暦が過ぎた頃、私達は京都に行った。


観光客でいっぱいの人だった。

人混みの中をかき分けて、歩かなければならなかった。


人、人、人、で前が見えない。

回りは人だらけだ。

景色を楽しむ事も出来なかった。

 

私は歩くのが遅くなってしまい、夫を見失って立ち止まってしまった。


不安になってる私を、夫は見つけてくれて、離れないように私と手をつないでくれた。


夫の手の温もりが私を安心させてくれた。


あの時、私は少女のように、嬉しかった。

 

もし今、夫が生きていたら、あの老夫婦のようにもう一度手をつないで歩きたかったなと見つめていた。。

 

今は、手をつなぐといったら、もみじのようなかわいい孫の手だ。

それはそれで嬉しいものだ。

 

 

散歩していると、近所のおじさんに会った。

 

私「こんにちわお散歩ですか?」

 

おじさん「うん、ぼくね 毎日朝夕と二回歩いてるんだ。歩けなくなったら奥さんが困るからね。奥さんに迷惑をかけたくないんだよ。」

 

おじさんは90才位の人 シャキッとして背筋はピンとしている。

奥さん思いの素敵な人だ。

奥さんは幸せだなと思い見ていた。

 


そんな事を思いながら、花壇のお花を立ち止まって見ていたら、見知らぬ人が声をかけて来た。


「お花たくさん咲いて、きれいですね。」

 

ずーっと前から友人だったように話しかけて来た。私の顔に笑みが浮かんだ。


お花を見ながら又、京都の事を思い出していた。


ほのかに花の香りがするような思い出の風呂敷が、私の心を包んでくれた。

 

夫が亡くなって一人の散歩は寂しいと思っていたけど、ゆったり流れるこのひとときが心地よく、私の心は和んでいた。

 

 

 

 

 

 

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