夫が亡くなって、一年が過ぎた。

夫が行っていたヘアカット屋さんで娘は髪を切ってから、ずいぶん髪が伸びている。

 

 

私「娘ちゃん、髪伸びたね 切らないの?」

 

 

娘「父さんはね、私が小さかった時私の髪の毛を、いつもきれいにしてくれたの。

そしてね、髪は女の命って言いながらツヤツヤになるまで、ヘアブラシでといてくれたの。」

 

 

私「あぁ、そうだったね。その光景覚えてるよ。

あの時流行っていたセーラームーンの真似をして、腰まで伸ばしていたね。」

だけど一年生になる時、じゃまになるからって、バッサリ短く切ったよね。」

 

 

娘「実はね私、ヘアドネーションをしようと思って伸ばしてるんだ。

父さんの行ってたヘアカット屋さんで、父さんは 私の髪をカットするのをずっと見ててくれたから、簡単に切るのは イヤダなって思ってたの。」

 

 

私「何?ヘアドネーションって」

 

 

娘「髪の毛を寄付するの。

そして、この髪の毛でウィッグを作るんだって。

困ってる人のために 役に立ちたいと思って。

父さんも髪の毛が無くなって、とても気にしてたしね。」

 

 

私「そんな事を考えてたんだね。

私 考えもしなかったわ。

そう言えば、病院の面会スペースの壁にウィッグの事の張り紙があったわ。」

 

 

娘「美容院はヘアドネーションをしてくれる所としていない所があるから、調べないとね。

切った髪の毛が15cmか30cm以上無いとダメらしいよ。」

 

 

私「そうなんだね。娘ちゃんは、まだまだ伸ばすの?」

 

 

娘「私は30cmにしたいから、もっと伸ばすわ。」

 

 

私「だったら、まだ伸びるまで何ヵ月もかかるね。」

 

 

娘の髪の毛が、役立つ日が早く来ると良いなと思った。

娘の髪の毛でウィッグが出来て、それを使用してくれる人が 幸せな気持ちになってくれたら、もっと喜ばしい事だ。

 

 

夫は眉毛が薄くなって来た時、とても気にしていた。

私に『おい、その眉墨で眉毛書いてくれ』と言った。

私は冗談だと思い、笑った事がある。

 

そして、抗がん剤治療で、髪の毛が無くなった時も、気にして手で頭を隠しながら孫と話していた。

 

 

そこに、ありたい物が無いのは、その人の心にショックをあたえる。

なった人じゃないと、本当の気持ちは分かってあげられない。

 

 

だから娘の優しい気持ちが、とても嬉しかった。

 

 

 

 

 


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