専門医からみた病院の感染対策の「アレッ?」 -2ページ目

皮下点滴ってご存知ですか?

「点滴は血管にするもの」って皆さん思っていませんか?
実は、皮下(皮膚の下のたるんでいる部分)に点滴する方法もあります。
皮下大量注射といって、1960年代に小児科をされていた先生ならご存知の方法です。
私はまだ生まれていません。ニコニコ
このころは、まだプラスティックの針(血管留置針)はなかったので、金属の針を使っていました。ガーン
また、使ってよい注射薬のエビデンスが少なかったためか、トラブルも多かったそうです。

さて、この皮下注射(Hypodermoclysis)は近年にわかに注目されています。
なぜかといえば、「高齢化」と「緩和医療の普及」のためです。

「おじいさん血管が細くてねぇ。点滴難しいんだよね。漏れやすいし・・・」ロケット
みたいな言い訳を聞いたり、したりありませんか?

ちょっと前なら、「じゃぁ、CV(中心静脈)確保しようか」などと、腕前を競ってみたりしたものです。(筆者も経験あり)

しかし、CVを入れるのは合併症の危険があり、管理中に感染症を起こしたりと、治療なのか病気の原因を作っているのかわからないこともあります。
もちろん、現代はこれらが十分に考慮されていて、合併症が少ないように工夫も努力も監視もされているので、必要な患者さんには行われるべき治療です。
だからこそ言いたい。「CVは本当に必要な患者さんだけにしたい」
みんなそう思っているのでしょうが、方法がなくなることもしばしば。
末梢血管はもう取れないし、すぐに胃管を入れることはできない、胃ろうを作りたいが、使えるまでには数日必要・・・。
たった数日の間のことなのですが、「つなぎ」の医療がもっと必要なのが現状です。
さらに、終末期の医療ではわざわざ侵襲の強いCVをいれたり、1日に何回も針を刺しなおされたりするのは患者さんにとって本当に幸せなのか・・・。

そこで一つの方法として「皮下点滴」が登場します。
皮下点滴の利点は
1.血管がとれなくても補液ができる
2.抜かれても、怪我がすくない。だから抑制しなくてもいい
3.必要な分しか吸収されないから過剰輸液にならない
4.薬剤によっては皮下注射でも使える
5.ロックしておけば1週間近く(筆者は96時間としたいと思っています)挿入していられる

でも、いいことばかりではありません。欠点は
1.あくまで脱水治療である。(高カロリー補液の代用はない)
2.1000mlくらいまでしか補液できない
3.急性期の治療には使えない
4.日を追うごとに吸収が悪くなる
5.もちろん炎症が起きないとも限らない
6.日本の薬剤の添付文書には「皮下に点滴」とは書かれていない

どこにするのか
主に行われるのは胸壁(胸骨の横あたり)と腹壁(臍の周り)です。

実際に行う場合は、患者さん(あるいはその家族)の方と医師がよく話し合って決めなければなりません。
もちろん、同意書の取得は必須です!!
(薬剤としては、適応外使用となるため、また医療としてのコンセンサスが日本では確立されていないと判断され可能性がある)
日本の病院の50%以上で認知されるようになれば状況は変わるでしょう。

私がこの治療法を知ったのは約3年前のこと、「へぇー。本当にできるならいいかも」と思い、でもなかなか行える機会がなく、ずっと暖めていました。

皮下点滴療法は、日本の医療の隙間を埋める治療のひとつとなりうるか!!多分なるでしょう。

以下に、皮下点滴関連のサイトを紹介します。

Hypodermoclysisのプロトコール(英文)
http://www.palliative.org/PC/ClinicalInfo/Clinical%20Practice%20Guidelines/ClinicalPracticeGuidelinesIDX.html
→ 「hypodermoclysis」をクリックするとダウンロードできます。

長野県の相澤病院 鳥谷部 俊一先生のサイト
http://www.geocities.jp/pressure_ulcer/sub528.htm





「尿の管(くだ)」は何のためにある?

尿の管(くだ)は、病院では通常「バルン」と言いますね。まぁ言い方はともかく、「尿管留置カテーテル」のことです。
感染対策の話になると、とかく「尿路感染の防止」の話ばかりになりますが、根本的には「なぜ入れるのか」をしっかり理解しておく必要があるのではないでしょうか?
先日「日本環境感染学会総会」という大きな学会に行ってきましたが、やっぱり疑問が大きくなってしまいました。
挿入の基準が守られているかを確認していないと、感染予防に成功したかどうか判断するのが難しくなります。
「挿入手順」とか「バックの管理」はその次の話です。
中心静脈カテーテル(CVカテと呼ばれるもの)もそうですが、すべてのカテーテルは入れないに越したことはない。
すべてのカテーテルは、「異物」であり、挿入されている限り「感染」は生じるのですから。
うちの病院でもサーベイランスを行うことにしていますが、感染防止のための教育をする前に、「挿入の適応」から教えなければならないかな?

米国疾病予防センター(CDC)のガイドラインではカテーテル使用の対象となる基準を設定しています。

1)尿道の閉塞を解除する必要がある場合
2)神経疾患による膀胱 機能不全によって,残尿が見られる場合
3)泌尿器科的手術や,泌尿器周囲の手術が行われる場合
4)重症患者において正確な尿量が知りたい場合のみが その対象となる。

患者が自排尿可能な場合や失禁患者を看護する目的でカテーテルを留置することは避けなければなりません。
日本ではどうでしょう。本当に正確な尿量が知りたい場合ですか?神経因性膀胱の診断はついていますか?
床ずれの治療目的で尿管カテーテルを挿入してよいとは、決して書かれていません。

もう一つ、忘れてならないのは患者さんと家族への説明。
「カテーテルを入れるのだから感染はあって当然」という事実を挿入する際にどこまできちんと説明しているかです。
米国の院内感染の40%は尿路感染で、その80%が尿管カテーテルが要因となっているという事実。
いかに器材が進化して、ケアが充実しても、尿路感染をゼロにすることは出来ないことを話すことが大事です。
日本人には、どうも言い訳がましく聞こえてしまうようですが、「入れないという選択肢」もきちんと話しておく必要があるでしょう。

オムツにすることが患者さんの苦痛か否かはケースbyケースですが、尿管カテーテルが苦痛であることはかなりの確率で高いといえます。もちろん、尿管カテーテルを入れてはいけないとは思いませんし、必要な場面はいくらでもあります。
このような患者さんに尿路感染を起こさないようにしっかりと管理しなければなりません。

今一度、挿入するべきか否かを良く考えて、「介護する側の苦痛をなくすため」のカテーテルが挿入されないことを祈ります。


漂白剤は難しい!?

漂白剤は難しい!!

家庭での感染症の予防で、塩素消毒が必要な病原体(例えばノロウィルスとか)がありますね。
病院に勤めていると意外とルーズになりがちなのですが、「ハイター」=「塩素系漂白剤」と思い込んでませんか?

一般に売られている漂白剤には実は2種類あります。

1.塩素系漂白剤
2.酸素系漂白剤

この2つは似て非なるものと考えたほうがよいです。
病原体には、酸に強いものと弱いものがあります。例えばノロウィルスは前者であるために、前者で消毒することは基本的に
できません。

薬理学的な詳しい話は別のところで調べていただくとして、ここでは簡単な違いと見分け方をお教えします。
まぁこれくらい知っておけば十分でしょう。

【塩素系と酸素系の簡単な違い】
両者とも漂白剤ですが、塩素系は次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)(→アルカリ性)酸素系は過酸化水素(H2O2)(→弱酸性)を用いたものです。
勿論、これらは商品化されていますが、安定性に問題があるために、一般向け商品ではさらに工夫がなされています。
例えば、ミルトンタブレットでは、ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム(アルカリ性)が主成分ですが、水と反応すると次亜塩素酸になるので塩素系漂白剤です。また、粉末洗剤に使われる過炭酸ナトリウム(弱アルカリ性)は水と反応すると過酸化水素を発生するので酸素系漂白剤です。

次亜塩素酸ナトリウムも過酸化水素も要は活性酸素群です。活性酸素といえばなんとなく怖い感じがしますが・・・。
次亜塩素酸は還元作用、酸素系は酸化作用を利用して、色素分解を行います。この過程で殺菌効果を発揮するのですが、
前に述べたように病原体には酸・アルカリに対する忍耐力が違うので、目的とする病原体によって使い分ける必要があります。

【消毒作用と濃度】
A. 次亜塩素酸ナトリウム
次亜塩素酸の消毒作用は強力ですが、病原体によっては低濃度でも十分な効果があります。さらに、塩素ガスを発生するために、人体毒性を考慮しなければなりません。よって、必要最低限の濃度で調整することが懸命です。
たいていの病原体は500ppm(0.05%)で十分ですが、B型肝炎ウィルスや芽包菌では1000ppm(0.1%)以上の濃度が必要となります。
B. 過酸化水素
通常(国産の)家庭で通常使われる洗剤や漂白剤の過酸化水素は、低濃度(おそらく2%以下に調整)です。この濃度では一般細菌や真菌、一部のウィルスに有効です。ですから、完璧を求めなければこれで十分ということになります。
但し、過酸化水素も高濃度になれば高水準消毒薬(すべての病原体に有効)になります。
ちなみに業務用(ハウスクリーニングに使うもの)は数十%、医薬品(オキシドール)は2~3%の過酸化水素です。
FDA(米国食品医薬品局)が認定している高水準消毒薬の過酸化水素は6%以上なのでオキシドールでは薄いので注意してください。

【人体への毒性】
次亜塩素酸の方が人体毒性は強いといえます。ただし、必要濃度を守り、消毒のあとで十分に水で流せば問題ありません。むしろ、きちんと消毒できるという点では、非常に優れています。
過酸化水素も決して毒性がない訳ではありませんので、使用には十分注意が必要です。

【塩素系と酸素系の見分け方】
簡単な見分け方は「まぜるな危険」の表示があれば、塩素系漂白剤です。ただし国産だけですけど・・・。
あと、薬局で入手できる塩素系漂白剤のほとんどは液体です。(例外はミルトンタブレット)

漂白剤は非常に似た名前が多いので、よく見て購入してください。

【補足】
ノロウィルスの消毒で一躍有名になった次亜塩素酸ですが、吐いたものに直接使用しないでください。
吐いたものには「胃酸」が含まれています。胃酸によって酸性に傾くと塩素ガスが発生しやすくなります。

漂白剤も意外と難しいのです。