幼馴染である保乃ちゃんが、今日は好きなことをなんでも叶えてくれると、言った。
「ひぃちゃんの誕生日やもん!
保乃にできる事なら、なんでもするで!」
朝っぱらから、人の家に来ては、まだ頭の回らない頭が考えたことはただ一つだった。
私の彼女になって。
流石にそんなことは言えないな、そんなことを思い、自分自身に失笑しかけた時、目の前にいる保乃ちゃんは顔を真っ赤にした。
あれ、口に出てた、?
「え、あ、え? 保乃で良いなら、良いけど…。
もっと他の願い事やと思ってたから、びっくりした、
あ! そうや、プレゼントあんねん!持ってくるな!!」
朝からドタバタと騒がしい保乃ちゃんは人の部屋に入ってきたと思ったら、今度は出ていった。
私より私の誕生日を待ち望んでいたみたいで、可愛らしいと笑みが溢れるが、今の状況に「えっ」と大きく声が漏れる。
待て待て待て、保乃ちゃん、今、なんて言った…?
良いって言った!?
寝癖のついた髪の毛に、手櫛を通しながら、頭を起こす。
嘘やろ、、やらかした、
長年、保乃ちゃんに片想いしていたのだけれど、まさかこんなあっさりと彼女になってくれるとは思わなかったし、きっとあの様子だと、本気にされていない。
冗談半分だと思われてしまったら、もうこの先真面目に告白しづらいではないか。
何をやってるんだ、森田ひかる、!!!
頭を掻き乱すと、お待たせ!と保乃ちゃんが顔を出した。
「ひぃちゃんぬいぐるみ好きやから」
保乃ちゃんが抱き抱えて持ってきたのは、私と同じぐらいあるサイズのクマのぬいぐるみ。確かに嬉しいのだけれど、さっきのことはどうなった??
「あ、ひぃちゃんのお願い全部叶える気やから、なんでも言ってな! ふふふっ 今日はひぃちゃんの彼女になったるわ!」
ウキウキと頬にエクボを作る保乃ちゃんが言った。
やっぱり、本気にされていないようだ。
身支度を終え、朝ごはんを済ますと、張り切っている保乃ちゃんと街へ出向いた。
私の欲しかった新刊と、欲しかったゲームを買ってくれたのちに、ゲームセンターでぬいぐるみも取ってくれて、ついでに「彼女やからな!」と手も繋いでくれて。
なんだろう、この複雑な感情は。
わいわいといつものように遊んで、お買い物して、あっという間に日がくれた。
家までも帰路もしっかりと、手を握ってくれてはいるのだけれど、保乃ちゃんはどんな気持ちで、彼女を引き受けてくれたのだろうか。
「ひぃちゃんが彼女欲しいって、なんか意外やった」
「…そう?」
「そういうの興味ないんかなって思っとたから」
「保乃ちゃんは、興味あるん?」
「えー、あるけど、んー…、欲しいとは思わんかな」
「そうなんだ」
撃沈した。この先、保乃ちゃんに気持ちを伝えることはないだろう。本格的に振られるなら、このままの関係でいた方が、マシだと思う。
「ひぃちゃんは、好きな子とかおるん?」
「…居ったけど、脈ないみたいやけん、今は居らんかな」
保乃ちゃんの足が止まる。
握っている手が、若干強張ったのは気のせいだろうか。
「じゃあさ、…保乃とこのまま恋人でおらん?
なんてな、今日楽しくて、ひぃちゃんが彼女やったらなーって」
「……なぁ、それ私が本気にしたらどうすると?」
「どうするって、冗談やって」
スッと手を離す。まだ家は見えないが、一人になりたかった。
少しだけ、私の恋心を弄ばれた気がしてしまって、腹が立った。
「ひぃちゃん、?」
「保乃ちゃんが冗談でも、私は本気なんよ。
本気で、保乃ちゃんが好きで、やけん彼女になって欲しいって、ずっと思っとったのに…。なんで期待するようなこと言って、冗談とか言うん、
…今日はありがと、もうここでいいけん、またね」
あーあ。言ってしまった。
このまま、関係が悪くなってしまうのだろうか。
来年の誕生日は、祝ってくれないのだろうか。
自分の失態から、産んでしまった溝が悔しくて仕方ない。
涙を滲ませると、後ろから手首を握られた。
「待って、ひぃちゃん…!」
「ごめん、彼女になってとか言ったの私なのに、ごめん、ちょっと一人になりたい」
「……保乃もひぃちゃんの彼女になりたい、!!」
「え、?」
「保乃も、ひぃちゃんのことずっと好きで、でも保乃たち幼馴染やからって、我慢しとって……。
今日だけでも彼女になれて、嬉しかった。
ひぃちゃんが傍に居ってくれるから、恋人さんとか要らんって。
保乃じゃ、嫌ですか……、」
まさかの告白に、空いた口が塞がらない。
「保乃ちゃんが良いです、」と小さく言えば、思い切り抱きしめられて、「ごめんな、」なんて言葉と共に「好き」だと言われた。
今日以上に、最高な誕生日はこの先ないと思う。
【完】