あぁ、もう最悪だ。

 

 今日は由依さんとデートのはずだったのに、どうして風邪を引いてしまったんだ。  


 おまけに大丈夫ですなんて強がってしまって


 「はぁ…」


 私の口からため息が吐き出されると、続いて咳がやってきた。喉が痛い。頭も痛い。寒気もするし、どこか心細い。


 いつも以上に由依さんに会いたいと思うのは、確実に心が風邪で弱っているせいだろう。


 ベット側の、サイドテーブルに手を伸ばす。


 スマホで画面を確認すれば、「お大事にね」のメッセージで終わってしまったトーク画面が浮かび上がっていた。


 きっと由依さんのことだから、会いたいと言えば、会いにきてくれるだろうし、看病だってしてくれると思う。


 それでも会いたいと言い出せないのは、どうしてだろうか。かろうじて残っているメンタルが、弱っているところを見られたくないと、言っているようだった。


 喉が渇いた。


 冷蔵庫に水を取りに行こうと立ち上がると、スマホが鳴った。何事かと思うと、由依さんからの着信で、嬉しい気持ちのまま着信を受ける。



 「どうしたんですか?」


 「今日もおばさんたち、お仕事でしょ?」


 「そうですけども…」


 「今、ひかるの家の玄関まで来てる。

 

 開けて〜ゼリーも買ってきたよ」



 慌てて玄関までドタバタと向かえば、しっかりとそこに由依さんがいた。



 「由依さん……っ、」



 由依さんを見た瞬間に、ぐわっと目頭が熱くなって、飛びついた。会いたかったし、溢れる安心感に涙が頬を伝う。



 「どうしたの? あっつ、熱結構あるみたいだね」


 「…会いたかったんです、」


 「ふふっ LINEでそんなこと言ってくれなかったじゃん。まぁ、強がってんだろうなとは思ったけど、お邪魔していい?」



 由依さんを家にあげると、早速ベットに寝かされた。


 せっかく由依さんがきてくれたのに、寝ろなんて酷い。お喋りぐらいさせてくれたっていいじゃないか。


 それでも、横になりながら私に向ける優しい瞳をする由依さんが好きで好きで仕方なくて、次第に瞼が重たくなってくる。



 「由依さん…」


 「ん?」


 「手、握っててください」

 

 「うん、ゆっくり休みな」


 「由依さん…」


 「ん?」


 「大好き」



 最後の言葉は、しっかり由依さんに届いただろうか。夢ではなくて、現実で口にできたことが、あまりないから、届いていてほしいな。

 

 夢から覚めると、由依さんの頬が心なしか赤かった。




【完】