小刻みに色々な人を追い越してきたが、
もたつきながら前を歩いている老婆の背中に、
歩くスピードを合わせてしまった。
駅まで何分とかからないが、予め調べておいた電車には間に合わないだろう。
右手に持ったカバンは、重みを増した。
「運がつきた」と思った。
全て計画通りに事は運んだ。
多くの人々が与えられたポジションで有機的に連動し、
見事な働きを披露してくれた。
美しく完璧だった。
しかし、ここにきて、老婆の歩みがその形に亀裂を入れた。
諦めを感じながら、鞄を抱え地下鉄に乗る。
まばらな車内は心地よく冷房が効いていた。
中づりの週刊誌の広告では、
ライブに良く行っていたバンドの解散の情報が書かれていた。
地下鉄を降り、彼らとの待合わせ場所に着いた。
時間は1分の遅刻だった。
人気のない路地裏では残酷な光景が広がっていた。
これから始まる惨劇が脳裏に浮かんだ。
タバコを取りだし、ライターで火を点けた。
さっきまでガス欠だった筈だが、一発で点いた。
始まりはこれからだ。。