騒がしい商店街を抜けて、細い歩道を歩く。
小刻みに色々な人を追い越してきたが、
もたつきながら前を歩いている老婆の背中に、
歩くスピードを合わせてしまった。

駅まで何分とかからないが、予め調べておいた電車には間に合わないだろう。
右手に持ったカバンは、重みを増した。
「運がつきた」と思った。

全て計画通りに事は運んだ。
多くの人々が与えられたポジションで有機的に連動し、
見事な働きを披露してくれた。
美しく完璧だった。
しかし、ここにきて、老婆の歩みがその形に亀裂を入れた。

諦めを感じながら、鞄を抱え地下鉄に乗る。
まばらな車内は心地よく冷房が効いていた。
中づりの週刊誌の広告では、
ライブに良く行っていたバンドの解散の情報が書かれていた。

地下鉄を降り、彼らとの待合わせ場所に着いた。
時間は1分の遅刻だった。

人気のない路地裏では残酷な光景が広がっていた。
これから始まる惨劇が脳裏に浮かんだ。

タバコを取りだし、ライターで火を点けた。
さっきまでガス欠だった筈だが、一発で点いた。

始まりはこれからだ。。
薄く明るい色の空に浮かぶ、清潔感のあるパキッとした白い色の雲。
その下にさらに煙突の煙のような、暗い灰色の雨雲が軽めにどんよりと流れている。

さっき、向かいの路地に入っていった3人組は、どう見てもおかしかった。
平日の昼下がりにハッピに草履履き、これからお神輿でも担ぎそうな勢い。
さらに、肩で風を切り、とてつもなくハイテンション。

確かに先週末には近所で祭りがあったが、それから何日も経っている。

こんな、静かな住宅街に不釣り合いなシチュエーション、
少し心を踊らされ、気づかれないようについて行ってしまった。

「今月のノルマはギリギリだけど、少しくらいいいか。。」

外回りでいつも、通り慣れた路地の奥には、いつも通りの公園。
そのベンチの周辺に先ほどのハッピの人たちと同じような恰好の連中が、
7~8人たむろしている。

しばらく、素知らぬ顔をして見ていると、
彼らの掛け声は大きくなり、段々テンションが上がっていった。
どこからかお神輿が運ばれてきて、それを担ぎながら、
威勢の良い動きがはじまった。


しばらく見ていると、見慣れない動き。
足並みをそろえて、腕の振りをそろえて、頭の振りをそろえて、
ブロードウェイのような踊り。。

「なんじゃ、こりゃ・・?」

もちろん、お神輿も本物ではなく、偽物の軽いものだろう。。
でも少し、楽しかった。
どこかのアンダーグラウンドなクラブで踊っている集団だろう。。
コミカルで、小気味の良いキレのある動き。
洗練されて、ショーとしてはお客さんから金の取れるものだった。

しばらく見入っていると、日が陰り、パラパラと雨が落ちてきた。
それでもダンスは続いていた。

「その調子。。」
と思いながら見守っていると、案の定、
彼らの一人の肩からお神輿が滑ってバランスを崩した。
担いでいる人が、あっちへ行ったりこっちへ来たり、、。
マンガのような動きでお神輿は地面にめがけて落ちていく。

そこで一人、ヘッドスライディングで体を投げ出した。
お神輿はその上に鈍い音を立てて落ちた。

人々は集まり、しばらく動かない彼を抱き起した。
彼は、痛みと引き換えに賞賛の嵐を手にした。

雨は、少しずつ上がりはじめた。

やっと、今月のノルマが達成した。
しばらく、煮え切らない政治や経済で困っていた、
我が「ヒーロー制作所」にも、明るい陽射しが差し始めた。
先週のロスタイムのヘディングシュート以来の実績となった。































風通しの悪い小屋、ところどころヒビの入った窓には埃がたまっている。

山の奥の無人駅、向かいの道路の工事の音が室内に響いていた。


「あのう、よろしいですか?」


不意を突かれて、必死にタバコを地面で消した。

即座に、「禁煙ですよ」と言われた時のために、

「こんな誰もいないところで、少しぐらいいいじゃないか」と

こちらの態度の5種類が頭の中を駆け巡る。


息苦しくて不快。

日差しは6月とは思えないほどの強さ。

一歩外に出ると壮快な空気が満ちているのはわかっているけれど、

昨日の夜通しの疲れで、眠気と気だるさが、

電車がここについてからの3本目のタバコに火をつけたところだった。


アタフタしないように気をつけながら、

「素知らぬふり」の方向で頭の中の作戦会議は結論を出し、


「いいですよ。」

と、背中で攻撃的な空気を出しながら、曖昧に答える。


「突然、ブシツケで失礼ですが、只今、アンケートを行っておりまして。。」

と、土地の方言交じりの言葉で、

定年退職前後の、小奇麗な役所の制服を着た男性が屈んで顔を近づけてきた。

手には、クリップ付きのプラスチックのボードと鉛筆を持ち、

顔には、優しく素朴で、真っ直ぐな笑みを浮かべている。


その笑顔に、今、自分の取った態度を心の中で詫びた。

私は振り返り、その初老の男性の話に耳を傾けた。


一通り話を聞いたが、

ただ、話相手が欲しかったようだ。


男性は、ここの土地の役所の嘱託社員であるらしいが、

「アンケート」とは、コミュニケーションのきっかけで、

何も調査していなかった。

彼の息子の話、病気の話、地元の蔵元の話、女性の話、

様々な話題をゆっくりとしゃべっていた。


地下鉄に乗り、目的だけを追い、直線的に生活している、

私に寛ぎを与え、少し婉曲した生き方も良いのかも、、

とほっとさせてくれた。



都会でもお目にかかれない先進的なルール、

「禁煙区域違反切符」を切られ、

「罰金」を払ったことを除いては。。