§ルートX 45
(結局、『美緒』が根暗で引きこもりで引っ込み思案で大人しくて・・・でも、時として激しく『美月』や『嘉月』に敵対して家族の黒い歴史を世間に晒そうとする・・・・・変な子だってことは良くわかっただけで・・・・・・・さらに『美緒』という人物がわからなくなってしまったのよね・・・・・・)
蓮に『美緒』について理解できたか聞かれても、キョーコは結局返事をすることが出来なかった。
悶々とキョーコが考え込んでいると、飯塚が万を辞して現れた。
ラスボス登場のような雰囲気に、スタジオが凍りつき皆一斉に飯塚とキョーコを代わる代わる見つめた。
「・・・最上さん」
考え込んでしまっていたキョーコに蓮が声をかけると、キョーコは勢いよく顔を上げた。
「!?・・あっ!・・・は、はじめまして!!もが・・じゃなかった・・・・き・・京子と申します!!」
飯塚の前に歩み出て、綺麗なお辞儀を勢いよくするキョーコを飯塚は一瞥くれただけだった。
「・・・・あなた・・・」
「はい!?」
「・・『美緒』を理解できてるんでしょうね?」
「!?」
それは飯塚が今まで『本郷 美緒』役の者達に訪ねてきた質問で、今まさに蓮から答えを求められていた言葉だったためキョーコは驚いて蓮を振り返った。
「どうなの!?」
「あ・・・そ・・れは・・・」
戸惑うキョーコに、蓮は小さく頷いて返した。
「はっきりしなさい!理解できてるの!?出来てないの!?」
飯塚の大きくビリビリと響く声に、キョーコは一度首をすくめるとやや小さな声で返した。
「・・・・理解・・・・できていません・・・・」
キョーコの答えに一同、大きなため息をついた。
「そう・・・ならお帰りなさい、ここ(現場)に来たということはその役を理解してオファーを受けたということ・・・突然決まったことはなんの言い訳にもならないわよ」
飯塚の放った言葉で、その場が水を打ったように静まり返った。
「・・・そうかも・・しれません・・・」
キョーコの返事に、周りの空気も『またか・・・』というものに変わろうとしていた。
だが
「ですが・・・もう少しで謎が解けそうなんです!!」
「・・・・・・・はあ?!」
突然そう叫んだキョーコに、飯塚が目を剥いてすっときょんな声を上げると今までにない空気に変わり皆が驚いた。
「もう少しで・・・こう・・・喉に刺さった小骨が取れそう・・といいますか・・・『美緒』の本当の姿がわかりそうっていうか・・」
「な・・・何を言ってるの!?ここに来ている時点で、その小骨も『本当の美緒』とやらも解決していなくてはいけないのよ!?」
「そうなんでしょうけど・・理解していたと思っていた姿が・・ここに来てどうやら違うということに・・気づいてしまって・・・・」
「はあ!?」
今までにない展開で、飯塚だけでなくスタッフや共演者全員がキョーコの言動に呆気に取られているのを蓮は面白そうに眺めていた。
(・・・本当に・・君って子は・・・)
今までの子達とは違う、飯塚と言い渡っている姿に蓮は早くキョーコが『本当の美緒』を見つけてくれたらと心の中で応援した。
「~~っとにかく!ここに来たのなら『美緒』を理解してるかどうか試させてもらうわよ!?」
「え!?」
少し強引な事の運びに、キョーコが青ざめるとすかさず蓮が間に入った。
「待ってください、飯塚さん・・・まだ監督も回復していないですし・・せめて監督が戻ってくるまで待っててもいいんじゃないですか?・・彼女を起用した理由も知りたいですし・・・」
そう蓮に言われると、飯塚は渋々頷いた。
「わかりました・・・ただし、緒方監督が戻ってきたらすぐに!テストを始めますからね!?」
物凄い剣幕で睨まれたキョーコは、若干腰を引けつつも頷いて返した。
「はい!それまでに『本当の美緒』を探してきます」
「・・・ふん!」
キョーコから思いっきり顔を背けた飯塚は、助監督にいつになったら戻ってくるのかと当り散らされているのを見てキョーコは気の毒だったなと思いながらも首の皮一枚つながったことに安堵した。
(・・・いえ・・・全然よくないんだけど・・・)
現状は最悪なままでいることに、キョーコは大きなため息をついた。
「・・キョーコちゃん・・」
「あ!コ・・・敦賀さん、先程はありがとうございました!」
「あ・・・いや・・・」
小声で声をかけてきた蓮に、キョーコは後輩の仮面をつけて頭を下げた。
それに蓮は少し寂しさを感じながらも、頭を切り替え先輩に戻ることにした。
「・・・・最上さん、『美緒』のわからなくなったところって・・どこかな?」
「・・・・その・・・なんで・・・・美緒はこんなにも憎しみに囚われているのかな?・・って・・根暗で引きこもっていて・・大人しくて引っ込み思案・・・・・そんな彼女が突然、嘉月や美月を口撃したり家族に影ででも表立ってでも厭味や時として行動で攻撃するのに・・・これじゃあまるで・・・・・・まるで、気が強いお嬢様みたいで・・・」
すると蓮は、ポン・・とキョーコの頭に手を乗せた。
「うん、やっぱりキョーコちゃんはすごいね」
「・・・へ?・・・」
「それがわかっているなら大丈夫、君が『美緒』だ」
「へ!?」
すると蓮はニッコリと笑って、呼びに来たスタッフの元に行ってしまった。
「え・・ええ~~!?・・・」
確信が持てないキョーコは置き去りされてしまったことで呆然と蓮の背中を見送ると、入れ替わりで社がやって来た。
「蓮がああ言うならきっとそうなんだと思うよ?」
「そ・・そうなんでしょうか?」
「うん、キョーコちゃんは何が不安になっているの?」
「・・・違和感・・でしょうか・・・?」
「違和感?」
「・・・はい・・・でも・・漠然と・・・・・」
社にそう返そうとしたキョーコは、ある一点を見つめて固まった。
「キョーコちゃん?」
起動停止したキョーコの目の前に手をかざして、フルフルと振って見せると突然その手をキョーコに掴まれた。
「わかったかもしれません!」
「へ!?」
「ちょっと行って来ます!!」
「え!?どこに!!?」
「戻ってきますから!待っててください!!!」
「えええ!!?キョーコちゃん!!?」
突然勢いよく掴まれた手をキョーコに振り回されて目を白黒させているうちに、社の前からキョーコは姿を消してしまった。
スタッフと打ち合わせしている蓮を遠めに眺めて社はただただ青ざめるしかなかった。
「・・・・どう説明したら・・いいんだよ~・・・・・・・」
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