§ルートX 番外編
知ってた。
コレは私に災厄しか呼ばないことも、後悔しか呼ばないことも・・・
「・・・・・また・・・やっちゃった・・・・・・・」
眩しい朝日が窓辺から零れ落ちる中、キョーコは割れるように痛い頭を抱えた。
この痛みは覚えがある。
「・・・・ふつ・・か・・・よい・・・だよね・・・」
ベッドの脇に転がっている缶ビールやチューハイの空き缶や、ワインの空瓶そして・・・
「し・・・下着が・・見当たらない・・・」
何も身に着けていない状態でベッドにいることもできずに、キョーコは痛む頭を押さえながらキョロキョロしたがやはり近くにはなさそうだった。
「・・・う・・・んん・・・」
その時、ゴソゴソするキョーコの横で小さく呻いて寝返りを打った蓮に視線がいった。
神が自ら作り給うたような美しい造形に、思わずため息がこぼれる。
すっと伸びた鼻筋に、地毛の眩いブロンドの髪がかかりその隙間から覗く長い睫がその宝石のような瞳を羽のように隠していた。
引き締まった唇が、柔らかく甘いことをキョーコは嫌というほど知っているが何度味わっても飽きることなんてない。
低く優しく響く声を発する喉仏さえも綺麗だと思えるのは、恋愛時の盲目故なのだろうか?
深い彫りがつい触りたくなる鎖骨に、布団から出ている筋肉が程よくついた腕も骨ばった手首や細いのに決して女性的ではない長い指も見つめれば見つめるほどこれ以上に美しいものなどないのではないかと思えた。
「それに比べて・・・・・」
キョーコは布団をめくり、自分の体を確認するとため息をついた。
「コーンはこんなののどこがいいのか・・・」
ぼそりと呟いた言葉に返答など期待はしていなかった。のに
「何もかもだけど?」
「ふぎゃ!?おっ・・起きて!?」
(ふぎゃって・・)
蓮は吹き出しそうになるのを堪えながら、驚いているキョーコを抱き寄せた。
「ん~キョーコちゃんの肌は病みつきになるんだよね~」
ふにゃっと顔を弛ませて、細い肢体に甘えてくる蓮にキョーコは困ったように眉根を寄せた。
「それはそうと・・・コーン、昨日私にお酒飲ませましたね?」
しかし蓮は、聞こえていないかのようにキョーコの肌に頬をすり寄せた。
「さらさらだし、柔らかいし、甘くていい匂いがするし・・」
「お酒はもう飲んだらダメって言ったのはコーンじゃない?!」
「・・・・・・・・・・・・・」
昨晩は久しぶりに一緒の食事を摂ることができた。
しかし、キョーコはお酒を嗜んだ記憶などなく飲んだ覚えがあるとするならばデザートの時に飲んだリンゴジュースだ。
それは蓮が撮影で訪れた先で頂いた物らしい。
「・・・・・・アイスワインだったらしくてね?気が付いたら一緒に結構飲んじゃって・・・こうなったら全部開けちゃおうって」
昨晩の出来事をバツが悪そうに伝える蓮を、キョーコはぐぐっと睨み付けた。
すると蓮は視線をそらしながら唇を尖らせた。
「俺の前だけならいい」
「は?」
「すぐに大虎になるし、真っ赤になるし、目も潤んじゃうし・・・可愛くなるし・・色っぽくなっちゃうから・・・こういう状態になっちゃうんだし?」
開き直った蓮に、腕を掴まれるとキョーコはあっという間に組み敷かれた。
「コッ・・コーン!?今日しごとっ」
「昼過ぎから・・・キョーコちゃんも15時からだろ?・・・というか、最近忙しくなりすぎなんじゃないか?昨日だって一口でだいぶフラフラになってたし・・・疲れてるなら夕飯は作らなくても・・」
蓮がほっそりとしたキョーコの頬をそっと撫でながら言うと、キョーコはブンブンと首を振った。
「それは嫌」
あまりにもはっきりと断られ、蓮は面食らったように目を丸くした。
「だってっ!・・・・だって、楽しいんだもん・・・コーンが食べてくれるのを想像しながら食事を作っているときが一番好きなんだもんっ!私のストレス解消だもん!癒しだもん!!」
力説しているうちに感極まって半泣きになりだしたキョーコに、蓮はオロオロしながら宥めた。
「ご、ごめん!いつも大変かと・・いつもありがとう!そしてずっと俺のために作って?」
「えへ・・・うん!」
キョーコはうっすらと滲んだ涙を指ですくいながら、嬉しそうに笑うと蓮もほっとしたように微笑んだ。
「でも・・・今のやり取り社さんが見てたらげんなりさせそうだな・・」
「あ・・あはは・・・一応、自覚はあったんだ」
苦笑するキョーコにつられ、蓮も笑いながら口を滑らせた。
「・・・・この間、キョーコちゃんとの電話を聞かれてすごく飽きられたから・・・」
「!・・・き・・きかれ・・・ちゃったの?」
「うん・・この間の」
こくりと頷いた蓮に、キョーコは青ざめた後に真っ赤になって布団を勢いよく引っ張るとその中にすぽっと隠れてしまった。
するとキョーコはくぐもった叫び声を上げ始めた。
「%”#&(’!!?@~~!!!」
そんなキョーコを、蓮はさも慣れた風であやし始めた。
「うんうん、あれはまずかったね・・・でも、キョーコちゃんの方の声は聞こえてないから大丈夫・・」
「%*‘#$%!!!!」
「大丈夫、ちょこっと内容聞かれだけど社さんフラつきながら部屋出てくれたから半分ぐらいしか・・」
「!!!&%@#!!??」
「平気平気、社さんも慣れてるし・・・ほら、俺のお姫様?顔を見させて?」
「・・・・・・・ズルイ」
ぴょこ・・と顔を出したキョーコに、蓮は満足げに微笑んで瞼に唇を軽く触れさせた。
「知ってる・・・キョーコちゃん、愛してるよ」
「・・・・私もですよ?久遠」
オフの日の恒例を一通り終えた二人は、また社に怒鳴られるように呼び出されるまで仲良く過ごすのだった。
end
・・・・という本編全く関係ない、ただのいちゃいちゃ話でした。