§ルートX   56 | なんてことない非日常

なんてことない非日常

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駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

 §ルートX    56





  「京子さん、夕食の前にシャワー浴びますか?」



百瀬の質問にキョーコはしばらく反応できなかった。



「京子さん?」



何度目かの声かけで、ようやく意識を戻したキョーコを百瀬が不思議そうな顔で覗き込んだ。



「さっきから・・・何かあったんですか?『ウッドスティック』で・・・」



先ほどまでいたレコーディングスタジオで、レイノに会ってからキョーコは思考の殻に閉じこもっていた。

それはレイノに会ったということよりも、レイノとの会話で思わず自分が発してしまった言葉にあった。



『真似されただけでファンを取られるなんて、不和もたいしたことがない』



『そんなことないわよ!!』



(私・・・どうして・・・あんなこと・・・・)



咄嗟にショータローを庇う発言をした自分の言葉が自分で信じられなかった。



(アイツは私を使うだけ使ってゴミのように捨てたのよ!?オンボロの踏み台扱いだったのに・・・・)



ベッドに腰掛けたまま、膝の上に置かれた手をぎゅっと固くした。



「京子さん?」



「え!?ええ!!夕食楽しみ~!!」



「え?・・ええ・・・だから、その前にシャワーをって・・・・」



「へ?・・・・・」



困った顔をしている百瀬に、キョーコは慌てて謝りながらも部屋についているユニットバスではなくこのホテル自慢の大浴場に行ってみること告げると部屋を出た。



(・・・・・これ以上部屋で陰鬱として考え込んでたら、百瀬さんに余計な心配かけちゃう・・)



バスタオルと、バスセットを抱えロビー階までエレベーターで降りると案内板に沿って大浴場を目指した。


途中、ロビーの前ではチェックインをしている人々を眺めながらキョーコはふと嫌な予感がした。



(・・・・・・・・・・・・・・ま・・まさかね~?)



これ以上嫌な考えが頭の中に沸いてこないように強く頭を振ると、急いで大浴場を目指すのだった。




*************




「・・・はあ・・・・・」



蓮は、着信の訪れない携帯画面を眺め大きく息をついた。



「蓮さん・・・辛気臭いため息は駄目だぞ~」



それをすかさず社に注意されると、蓮はふてくされた。



「今、休憩中だからいいじゃないですか・・・」



「・・・スタジオと違って、ギャラリーも多いんだから・・・ちゃんと『敦賀 蓮』は保っててもらわないと・・」



屋外の撮影は、多くの一般人が覗きにきている状態だった。

あまり気の抜けない休憩もそこそこに、蓮はうんともすんとも言わない携帯を社に預けると立ち上がった。



「この調子だと予定よりも早く終われそうですから・・・これで休憩は最後にします」



「え?!で、でも・・・・」



それはさすがにキツイのではないかと心配する社に、蓮は安心させるように笑った。



「大丈夫です・・ですが、すみません・・社さん」



「え?なにが?」



「沖縄観光と食い倒れツアーは、また今度にしてください」



「・・・・・お前・・俺をなんだと・・・・まあ・・・ちょっと残念だけど、蓮くんがこれ以上へそを曲げるのは困りものだからな?」



「・・・曲げてませんよ・・へそなんて・・・」



「いや、絶対曲げてる」



「曲げてません」



「いやいやいや、曲がってますよ?こ~んなクネクネと」



「・・・・・俺のへそはそんな変幻自在じゃありません・・・・じゃあ、向こうへ行く手続きをよろしくお願いします・・明日朝一番の便で行けるようにしますから」



蓮の言葉に社は、もう冗談を言うことなく頷いた。



「ああ、わかった・・・・お前も心の準備しておけよ?」



「は?」



「仕事の段取りを縮めても、キョーコちゃんの所に飛んでいく恋に支配された男にキョーコちゃんがドン引きしないとも言い切れないからな~」



「・・・・・・・・・・・・・」



社の言葉を聞いていたはずの蓮は、何も聞かなかったかのようにセッティングされた場所に向かってしまった。

そんな蓮の背中に社は大きなため息を投げつけるのだった。



*********



(・・・・神様って・・・絶対ドSだ・・・)



大浴場でまったりとお湯に浸かっていると、サウナ室から出てきた祥子と鉢合うことになった。



「本当に偶然!」



「・・・・・・・・・・・・ええ・・・本当に・・・・」



先ほどまで、嫌なことは水に流そう!!と意気込んでいたのを一気に落とされた気分でキョーコは湯船にぷっかりと浮かぶやわらかそうな大きな膨らみを横目で眺めた。



「ああ~~!!やっぱり、大きなお風呂って気持ちいいわね」



のびのびしている祥子に、キョーコは聞きにくいことを渋々聞いてみることにした。



「・・・あの~・・・・」



「なあに?」



「・・・・・もしかして・・・・皆さん・・ここに泊まられているんですか?」



「ええ、この辺りで便利がいいのがここのホテルだから」



「・・・・・そう・・・・・・ですよね・・・・」



ブクブクブク・・・と沈んでいきそうなキョーコに、祥子は困ったように眉根を寄せた。



「大丈夫よ?あの子・・あんまり部屋から出ないし・・・・・今は、ちょっと事情があってレコーディングが追い詰められてるっていうか・・・・」



まるでキョーコの落ち込みが移ったかのように、祥子まで暗い顔をし始めてしまった。



「・・もしかして・・・あの、ビーグルのせいですか?」



「・・・・まだ・・そうとは決まったわけじゃないから・・・でも・・私たちは彼らが怪しいと思ってるの」



「?・・・・あの・・・・また真似されたんですか?」



「あっ、ううんっ・・・ごめんね~つい、愚痴ちゃった・・・キョーコちゃんは尚を理解していて、この間も尚を復活させてくれたから・・思わずキョーコちゃんに泣き言言っちゃた」



少し泣き出しそうな祥子は、ゲンコツを作って小さく自分の頭を小突くと誤魔化すように笑った。



「あ!キョーコちゃんたちはどこら辺で撮影してるの?」



「あ・・・実は、自宅を貸していただけるというお宅がですね?・・」



二人は落ちた空気を誤魔化すために、話しをそらしてしばらく過ごした。



(・・・・・・のぼせた・・・)



あまりに必死に会話をしたため、すっかり湯当たりしたキョーコは髪を乾かすのもそこそこに祥子を置いて大浴場を後にした。



「あ・・・高原の水試飲~~っ」



リラクゼーションスペースに置いてある飲料水コーナーに、キョーコはフラフラと吸い寄せられて水を飲んでいると背後から嫌な声が飛んできた。



「げっ・・キョーコ・・・」



「!・・・・・・ショータロー・・・」



風呂に入りに来た様子がないショータローと向かい合って、お互い嫌そうな顔をしているその時だった。



「キョーコだ」



「!!?」



その声は、ここでは絶対に聞きたくないと恐らくキョーコもショータローも思っていただろう。

一気に二人の顔が歪になった。

その表情に、なぜかレイノは酷く嬉しそうな顔をした。



「昼間ぶり」



「っ・・」



「は?昼間?・・・なにコイツと会ってるんだよ」



ショータローはさらに機嫌を悪くして、キョーコに突っかかり始めた。



「偶然よ!」



「そうかな?」



「は!?」



「必然だろ?お前と俺は運命で繋がっているようだからな?」



「は?・・・・・・はあああああああ!!?」




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