《以前、アイミルという企画で出していたお話です。
よかったらご覧下さいませ~
※作者は歴史にトンと疎いのと、人物がわかりにくいため『この時代にこんな名前ねーよ』とは思われますでしょうが、人物が特定しやすいため名前をそのまま使用しております。ご了承くださいませ。(平謝)》
§桃見乃宴(モモミノウタゲ) 一
時は一日がゆるゆる流れる平安時代。
安静の世に皆、季節季節の移り変わりに心を寄せて愉しんでいた。
それは貧民であればいつもよりも色鮮やかな食事をしたり踊りを愉しんだり・・。
しかし、地位と金を持ち暇を持て余す貴族たちは違った。
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「・・・・・やあ・・・・敦賀の君・・・今日も朝帰りかい?」
「・・・・貴島殿・・・・私は今から参内するんですよ?貴方とは違います」
一人のスラリと良い身なりをした公達が宮中に続く渡戸を歩いていると、少し着物を着崩した公達がそう声をかけ返されていた。
二人とも見目麗しい容姿に作りのいい着物で何処からどう見ても位の高い公達だとわかった。
「大変だね~~官位三位の中将殿は」
「・・・・・貴島殿も呼ばれているんじゃないんですか?」
「俺はしがない五位だからなあ・・・あれだろう?桃見会のことだろ?」
「ええ・・・右大臣様も心持ちがお悪いから・・・今年は瑠璃子姫のことでしょうね・・・・・」
敦賀は大きく落胆のため息をつく。
「まあ、頑張れ・・・俺は左大臣の正妻がいるからなあ・・・・お前みたいなのが未だに側室すら持たないから右大臣様に狙われるんだろう?早くそこら辺の下女にでも側室になってもらって右大臣の懐にでも入ったらどうだ?」
「女東宮の一件で少し懐には入り込めているけどな・・」
「へえ・・・・ああ・・そうだ、たしか・・・その女東宮様に先ごろ覚えもめでたい側仕えが現れたって知ってるか?」
「え?・・・」
「何でも左大臣邸から上がった下女なんだけど、何でもこなせる者らしくて・・・すっかり女東宮様のお気に入りらしいんだ」
寝耳に水の話に敦賀は急速に表情を強張らせた。
「帝の側室に左大臣の二の姫が上がっているからなあ・・・その方が男(おのこ)を産んだら・・・例え情愛が篤い帝でもいつまでも女東宮の母親の実家って言うだけで右大臣邸を守ってはいられないだろう・・」
「・・・・・・・」
敦賀は貴島の言葉に苦虫を噛み潰した表情を見せた。
「だから、お前みたいな公達を欲しがっているんじゃないのか?お前だって良くしてもらってるんだろう?宝田の大臣様に」
貴島に敦賀は曖昧に返事をすると、持っていた扇子を少し開き口元を隠した。
(・・・・最近・・・女東宮様のご機嫌伺いにも向かっていないし・・・その下女を調べてみるか・・・・)
敦賀はそう思っていることなど微塵も出さずに綺麗に微笑むと、貴島の従者たちが見惚れる脇をすり抜け宮中へと参内するのだった。
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「危のうございます!!姫様!」
「ふんっこれくらいの高い木などマリアには造作もないことだわ」
「だ、だれかっ!誰かある!!」
渡戸から降りられずワタワタとするばかりの女官達を尻目に桃の枝に座るのは齢八つばかりの幼い少女で、少し意地の悪い表情でうろたえる女官達を嘲笑っていた。
「あら~皆すっかりうろたえちゃって・・・・結構簡単に登れるのに」
そんな少女の後ろから暢気な声が聞こえ、少女は思わず落ちそうになった。
「きゃあああああああ!!!!」
マリアの着ていた内掛けがばさりと落ちると庭に悲鳴が上がったが、マリアは背後に居た者に何とか支えられ元の位置に座りなおされた。
「・・・・・危ないわよ?マリアちゃん」
「お・・・お姉さまっ!!・・・やっぱりマリアの行動は先読みされてましたのね・・・」
マリアは大きめにため息をつくと、渋々木から下りた。
その直後、先触れが現れて女官たちは慌ててマリアを御簾の中に招き入れると一人の公達が渡戸をゆっくりと見えるが凄まじいスピードで歩いてきた。
その正体に気がついたマリアは声をあげた。
「蓮様!!」
「あっ!!女東宮様!!」
他の女官たちが止める間もなくマリアは御簾を飛び出すと敦賀に飛びついた。
「こんにちは、女東宮様」
「もう、マリアでいいのに・・・」
敦賀に抱きかかえられゴロゴロと懐く様はまるで猫のようで、見慣れているとはいえ女官達も困り顔だった。
「それはさておき・・・・先ほどの悲鳴はどうしたのです?」
「・・・・皆がすぐに女の子らしい遊びを薦めるから急に木に登りたくなっただけよっ」
マリアが敦賀に抱っこされたままぷいっと頬を膨らませてそっぽを向くと、敦賀は女官達に同情の目を向けた。
「そうですか・・・・元気があるのは喜ばしい事ですが、あまり周りの者を驚かせてはなりませんよ?」
敦賀の忠告にマリアはしゅんと項垂れるが、庭の木の枝がまだ不自然に揺れているのを敦賀は見逃さなかった。
「姫様はここにおいでなのにまだ木が揺れておりますね?もしかして姫様の飼い猫でもいらっしゃるのですか?」
敦賀はマリアを下ろし、庭に降りその木の幹元までやってくるとおもむろにその幹を渾身の力で蹴った。
二へ