桃見乃宴    五 | なんてことない非日常

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§桃見乃宴(モモミノウタゲ)    五


                     




 「!!・・・・んっむぅっ!?・・・んんっ!んんんっ!!」


たゆたゆしい黒髪ごと両頬を敦賀の大きな手の平に挟まれ、唇を奪われた京子は混乱の中にいた。
必死に止めるよう叫んでも、叫び声は声にならずに敦賀の唇の中に吸い込まれていってしまった。


「・・・・そなたは・・・・本当に桃のように甘いな・・・・」


敦賀はどこか夢現のようにそう囁くと夢中でその頼りない体を強く抱きしめさらに深く唇を貪った。


「んっ・・・・んん・・・・」


どれくらい夢中で貪っていたのか・・・・。
敦賀の腕の中に京子が力なく崩れ落ちてきて、ようやく敦賀は唇を離した。


「・・・・意識を手放すなら、それ相応の覚悟がいるぞ?」


そう囁いても、目を回して気を失っている京子には届いておらず敦賀は苦笑いをした。

どうしようかと敦賀が考えているうちに、西の渡殿が騒がしくなってきた。

どうやら瑠璃子がこちらに戻ってきているらしかった。
その時ちょうど右大臣邸の女房が一人、空になった盆を持って歩いているのが見えたためすかさず敦賀は声をかけた。


「失礼・・・・こちらの女房殿が急に目眩を起こされた、この者の局はどこかな?」


京子を抱きかかえ現れた噂名高い敦賀に度肝を抜かれながらも、見目麗しき姿と京子の状態を目の前にした女房は急いで北の外れの対屋に敦賀を案内した。


「騒ぎになってはこの者も気を使うだろう・・・私も酔いを冷ましたいし・・・・・貴女も仕事に戻らなければなるまい・・・この者は私が見ていよう」


敦賀に説き伏せられたとも知らずに、女房は了承するとはにかみながら自分の仕事へと戻っていった。


北の外れの局は同じ屋敷内で宴があるなんて思いもしないほど静かにひっそりとしていた。
きっと朝まで誰一人ここには現れないだろう。

腕の中でくったりとしている京子の瞼が微かに動いたのを、敦賀はじっと見つめた。


「ぅ・・・・っん・・・・・?・・・・・・・・・!!」


そんな敦賀と目が合うや、京子は急いで体を起こし敦賀から離れようとした。


「っつ!いたっ」


しかし、その美しい黒髪を握られ京子は逃げることは叶わずあっという間に敦賀に押さえ込まれた。


「た・・・・戯れが過ぎます!!」


「聞きたいことがあるんだ・・・」


「へ?・・・」


上から乗られ、むせ返るような色気を放つ敦賀に赤面しながらも京子は必死に平静さを保とうと敦賀を見上げた。
その敦賀の目付きに京子は震え上がった。

はじめてあった時の意地悪い感じや、まるで子供じみた悪戯をしている時とは違い、明らかに仄暗く澱んだ感情が見え隠れする瞳の虹彩に京子は言い知れぬ恐怖を感じた。


「・・・・アカトキの入道殿を・・・・知っているか?」


「え?・・・・ええ・・・・はい、左大臣邸に連れて来て下さった方です」


「・・・・今でも交流は?」


「いえ?・・・・ありません・・・左大臣邸に連れて来て頂いて直ぐに山に籠もられると社を御建てになって折り、私はお会いしたことはございません」


京子の目を見つめても嘘を言っている気配がなかった為、敦賀はほっと息を付いた。


(!?・・・何を安堵しているんだ俺はっ・・・・・まだ・・・・繋がりが切れてるかわからないじゃないか・・・・)


「あ・・・あの・・・もう・・・手をお放しください・・・」


髪を握られ押さえ込まれている京子は、必死に敦賀を押し返しながら逃げようとしていた。


「・・・・この状況でそのまま帰すように見える?」


「へ?」


先程とは違い暗い雰囲気ではないが、恐ろしさは変わらない敦賀の唇が京子の乱れた打掛から現れた首筋を捕らえた。


「ひゃっ!?」


突然首筋に熱くぬめった感触が走り京子は体を跳ね上げさせた。


「おっ・・・おやめください!!」


髪を床に押さえつけられ動かせない頭を小さく振っても、首筋を右に左に嘗め回され京子の口から熱く甘い吐息と共に悲鳴が上がった。
それでも敦賀は行為をやめる気はないらしく、さらに単衣の前合わせを解いていく。

その時、単衣の中に何かを発見した。


「・・・・なんだ?・・・・・匂い袋?」


小さな青地の巾着を京子の胸元から引きずり出すと京子は先程とは比べ物にならないほどの勢いでそれを奪い返しにきた。


「!!お返しください!!それは・・・私の大切なものなんです!!」


しかし、敦賀は京子に跨ったまま上体を起こすとその巾着の中を覗いた。


「・・・・・!!・・・・これ・・はっ」


その中に敦賀は見覚えのある青い不思議な輝きを放つ石が入っていた。


「・・・・・・これは・・・何処で手に入れた?」


敦賀はゆっくりと京子から体を離し、壁に背を持たれかけさせるとそろっと体を起こした京子に手の中にある石を見せた。


「・・・・・幼い頃・・・・さる男の子から約束の印と譲ってもらったものです・・」


「・・・・・・・・・・」


京子は懐かしそうに瞼を閉じて昔の光景を思い出した。


「私は左大臣邸に連れてこられる以前、嵯峨野に住んでおりました・・・・家は旧豪族家でしたが没落してひっそりと暮らしておりました・・・・・ただ、近くに今左大臣の不破家があって・・・私はよくそこに預けられておりました・・・・・・ある時、私だけが知っている桜の咲く場所に行くと見たこともない美しい男の子がいました・・・・少しの間ですがその子と楽しく過ごしました」


京子の言葉に敦賀も桜霞の中、二人駆けずり回った日々を思い出した。


「ですが、ある日男の子は遠くに行かなければならないと言いました・・・・泣きじゃくる私に母上様からもらったその石を私に預けるから必ず会おうと言ってくださいました」


そう言いながら京子は、敦賀にそっと近づき手の中にある石を覗き込むと嬉しそうに微笑んだ。


「いつお会いしてもいいように私は肌身離さずこの石を持っていることにしたのです・・・・だから、お返しください」


先程までの笑みをなくし、京子は髪を乱れさせながらも敦賀に手を差し出した。


「・・・・・・・・その時に約束した言葉は・・・・・それだけ?」


京子の手の平を見ながら敦賀はまだ返す気はないらしく、ぎゅっとその石を握り締めると間近にある京子の瞳を覗き込んだ。


「い・・・・いえ・・・・・もし・・・再開できたら・・・・・わたし・・「京子ちゃんをお嫁さんにしたい・・・・だったかな?」・・・!?」


急に言葉を被らされ京子が目を見開いていると、先程まで深く闇に囚われていた敦賀の瞳が優しく揺らめいた。


「・・・・・・・まさか・・・・こんなところで再開してしまうなんて・・・・・・桃の精霊は・・・意地悪なんだな・・・・」


そしてまた直ぐに苦悶の表情をするのだった。






六へ