《お久しぶり~の三井です。
話の大筋は決まってきたのになかなか書く時間がなかった・・・orz
展開が早めかもしれませんが、憑いてきてくださると嬉しいですw》
『三井探偵事務所記録簿』 File.6
「・・・・・コレが・・・その時の写真です」
三井は渋々といった感じで池谷に先日撮った、池谷の妻の浮気現場の写真を見せた。
「ほ・・本当に・・・ヤツが妻と浮気をしているのか?」
池谷は手を震わせて、写真を掴み上げると握り締め震える声で三井に確認を取った。
「・・・・・ホテルの部屋には二人しか・・・いませんでした・・・」
三井は深刻な顔をして、それ以上言うのは辛いといった様子で瞼を閉じた。
その表情に、池谷は三井が嘘を付いていないことを悟り深いため息をついた。
「・・・・・そうか・・」
その声はどこか疲れ切っており、静まり返った古びた事務所の中を虚しく木霊した。
「あ・・・・・あの・・・」
池谷が事務所を出て行った後、うららは遠慮がちに社長イスに背を預け足を机に投げ出している三井に声をかけた。
「なんだ?」
「・・・池谷社長の奥さんの浮気相手の方は・・・お二人とも知ってらっしゃるみたいだったんですが・・・」
うららの指摘に、三井は深いため息をついて小汚い天井を仰いだ。
「・・・・アイツは・・・以前話しただろう?池谷社長の会社であった脱税事件」
「あ・・・はい・・」
「その時の犯人なんだよ・・・この男、溝内 敏光・・・会社の金を横領していたんだ」
三井は憎々しげに池谷の妻と一緒に写る男を指で弾いた。
「だから池谷社長・・・」
「ああ・・・・きっとすごいショックだろうな・・・・・もしかしたら会社を解雇された腹いせで奥さんに近づいたのかもしれないけどな・・この溝内は・・・」
「そんなっ・・・逆恨みじゃないですか・・・・・その事実を奥さんは知らないんですか!?」
「彼女は事件の時、心身共に疲れ切った社長が行きつけていた居酒屋のアルバイトをしていた子でそんな生臭い会社の内情なんか話さなかったんだろうな・・・・それが今回裏目に出てしまったらしい・・・」
三井はため息をつくと、机から足を下ろし写真を乱暴に依頼終了棚に投げ入れた。
「この話しはもう終わりだ、今日はもう上がっていいよ」
「は・・・・い・・・」
うららは機嫌の悪い三井を事務所に残し、その日はそのままハルを迎えに行って帰宅した。
*************
一人の女性が暗い夜道、街頭の下で誰かを待っていた。
寒空の下にいる女性は、何かを決意しているようだった。
「・・・こんなところに待たれても困りますよ?・・・池谷さん」
「!・・・もう、『池谷』ではなくなりました・・・主人とは別れたの・・・愛莉と名前で呼んでください」
女性は暗い路地から現われた男に気づくと、抱きつきそう懇願した。
「・・・・そうですか・・・別れてしまいましたか・・・」
「ええ!私としてはあんな男と密会していると勘違いされるなんて腹立たしいけど・・・貴方に会えるためと我慢したんです・・・・お願いです!私にはもういくところなんて何処にもないのっ貴方と共に・・・・・」
そう言い掛けた女性の肩を、男は掴んで体からそっと引き離した。
「・・・『池谷』の名前が無くなったあなたには用がありませんね?」
「・・・・え?」
男から発せられた氷のような一言は、女性の耳に届いても内容を理解させるまでに時間がかかった。
その間に、皮手袋をはめた男の大きな掌が女性のか細い首に巻きついた。
「これで、終わりです」
「!!?・・・っ!?」
街頭によって作られた影は、女性の体が硬直した後だらりと力が抜けるまでを冷たい地面に映し出した。
チカチカと切れ掛かっている街頭が一瞬暗闇に飲まれたあと、もう一度路地を照らし出す頃には何事も無かったかのように男の姿も女性の姿も消え去り先程の現場を見ている者は一人もいなかったのだった。
***************
「うららちゃ~ん、お昼にしようかね?」
「あ、は~い!」
昼間の仕事場で休憩時間に入ったため、うららは手作りのお弁当を持ってパートのおばさんたちが待つ控え室に向かった。
控え室ではテレビがつけられ、みんなで和やかに会話をしていた。
「うららちゃん、この間の彼氏とはどうなってるの?」
「え!?か、彼氏!!?」
「えええ!?うららちゃん、そんな人いるの!?」
噂好きのおばさんたちに囲まれて、困ったようにしていたうららだったが話しに上がった三井のことを思い返した。
数日前に妻の浮気現場の写真を池谷に渡した三井は、その日は苛立った様子だったのに次の日にはいつも通りだった。
ただ、うららは敏感に感じ取った気配で池谷に関して三井にそれ以上質問をすることは無かった。
「ほ、本当にそういうんじゃないんです・・・」
質問攻めに回想も程ほどに、必死に弁解していたうららの耳にテレビのアナウンサーの声が飛び込んできた。
『速報です、今朝未明。アパートの一室にて首を吊った状態で死亡していた女性の身元が判明しました。女性は、池谷 愛莉さん27歳でI.Kテック社長、池谷 雄生氏と婚姻関係にありましたが死亡する前日に関係を解消していることから自殺との見方を強めています。警察は池谷社長に詳しい話しを聞くと共に今後の・・』
アナウンサーの声が遠くなりかけ頃、うららの様子に気づいた浜本が心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫かい?」
「あ・・・は・・い・・・あのっ・・ちょっと・・」
うららはフラフラとしながらも、カバンから携帯電話を取り出すと三井に電話をかけた。
『・・なんだ?うらら』
「社長っ今すぐテレビつけてください!!お昼のニュースを見てください!!!」
うららの剣幕に、昼寝をしていた三井はただ事ではない気配を感じ取りすぐさまテレビをつけた。
『・・・・・・うらら・・・』
「はいっ」
『・・・・・しばらく事務所には来るな』
「え!?」
突然そう言い放った三井は、そのままうららが引き止めるのも聞かずに通話のボタンを切ったのだった。
「・・・・どうして!?」
まだ、訃報を知らせているニュースを見つめ直したうららの携帯からは無機質な電話の切れた音が響き続けるのだった。
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