§いつかの虹 ~キョーコ側の虹~
「ああ~~やっぱり消えちゃった・・・」
空に架かっていた鮮やかな虹は跡形もなくなっていることにキョーコは落胆の声を上げた。
「当たり前でしょう!?一時間も前の虹がまだあったらそれこそホラーよっ」
「ふぐにゅう・・・・」
口を尖らせて落ち込むキョーコに内心焦りながらも奏江は、ふんっと鼻息を荒くした。
「最近にわか雨が多いからまた虹ぐらい出るんじゃないの?!そんなに落ち込むことじゃないでしょう!?」
「そう・・だけど・・・・・」
まだ浮上しないキョーコに奏江は苛立ちの声を上げた。
「ああ~~!!もう!!そんなに落ち込んでばかりだと虹が出たくても出てこないわよ!?」
素直に励ますことが出来ない自分に苛立ちながら、その怒りを励ましたい親友にぶつける奏江を千織は残念な視線で見たあとキョーコに視線を移した。
「・・・・京子さん、なにか虹に思い入れあるんですか?」
「へ!?・・・思い入れって・・・わけでも・・・ただ・・見せたかったなあ・・って」
キョーコは少し寂しそうに笑うと、空を名残惜しそうに見上げた。
「・・それって・・・敦賀さんですか?」
千織の言葉に奏江は驚いた表情に、キョーコ本人は目が飛び出しそうな程見開いて千織を凝視した。
「あれ?違いました?」
「な、なに言ってるの!?な、なななななんで敦賀さん!?」
顔を赤くしたり、青くしたりするキョーコに千織は平然とした表情で首を傾げた。
「え?・・なんとなく?」
そうのたまった千織にキョーコは鬼気迫る勢いで差し迫った。
「なんとなくでそんな恐ろしいこと言わないで!!!!」
「(み・・美緒・・・!?)わ・・・わかりました・・・・」
初めて直接、美緒の怒りを体験した千織は顔を引きつらせた。
(・・・・ナツなら慣れてるのに・・・本当に京子さんって怖い役はハマリ役なのね・・・)
まだ寒気を覚える体をさすりながら、帰路に着くために自転車に跨るキョーコを尊敬と畏怖の眼差しで見つめた千織だった。
「もう!今度からそんな不用意な発言は控えてよね!?それじゃ、また明日!!」
軽快に自転車を走らせるキョーコの背中に二人はため息をついた。
「・・琴南さん・・・京子さんって・・・・・鈍いんですか?」
「・・・・・・・・・・・」
結構はっきり言うのね・・・と思いながらも奏江は千織に頷く事もなく、小さくなるキョーコを見つめ続けたのだった。
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「もう!?なんで敦賀さんに見せたいなんてっ・・・・」
常人の目から見たら豪速で自転車を漕ぎながらもブツブツと言っていたキョーコは、視界を掠めた映像に心臓をドクリと打ち鳴らし自転車を漕ぐのをやめた。
『・・君の隣に・・・いつも・・』
台詞を口にして、万人を魅了する笑顔を振りまき商品を手にしている蓮の姿が大型ビジョンに映し出されていた。
近くて遠い存在。
周りにいる蓮と接点が何もない者達と同様に、蓮が映し出されている映像を見上げることしか出来ない自分・・・。
電話だってして、名前だって呼ばれている・・・それなのにこんな時はテレビの向こう側の手の届かない人だと・・・自分とは違う世界に生きている人なんだとはっきりと思い知らされてしまう。
「・・・そうよ・・・私には・・・あんな大きな人を想っている暇なんてないのよ・・・」
そんな寂しいキョーコの声につられたのか、空から次第に雨粒が落ち始めあっという間に強さを増していった。
バラバラと大きな道に散らばっていた人々は軒下があるビルや、店に飛び込む中キョーコは自転車を押して俯いたまま大型ビジョンから逃げるように帰路へと向かい始めた。
トボトボと歩いていると、雨はいつの間にか上がり始めた。
奏江の言うとおり今日は天候が不安定なようだ。
何の気なしにキョーコが顔を上げると、先ほど見た虹には見劣りする小さなものだったがちゃんと七色がわかる光のアーチがビルの合間に架かっていた。
「・・・・きれー・・・」
先ほどコーンに見せたいと思っていた胸の中には、千織の言った人物しか浮かんでこずにキョーコはぎゅっと苦しくなるの心臓と、どうしようも身動きのとれない感情に囚われたままその虹を眺めた。
始めははっきりと見えていた虹はぐにゃりと歪み、雨にしっかりと濡れた髪から落ちる雫に紛れて視界を曲げていた熱いものが頬を伝った。
「・・・ばかキョーコ・・・・・当たり前のことなのに・・・なにショック受けてるの?」
小さな戒めにも似た呟きは徐々に薄れていく虹に淡く消されるのだった。
at 蓮側の虹