§目標の男(ヒト)   前編 | なんてことない非日常

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§目標の男(ヒト)     前編



 

 それはいつもの出来事、といえばそうだったのかもしれない。

敦賀 蓮はその忙しい合間を縫って、次から次にくる台本を覚えこむためマネージャーの社から離れテレビ局の廊下の隅へとやってきた。


籠もっていられる時間は30分・・・。


パラリパラリと台本をめくりながらその光景を思い浮かべて、役になりきって台詞に命を吹き込むように自分の中に浸透させていく。


驚異的なスピードで次々に台詞を頭に入れていく蓮の耳に聞き覚えのある声が届き、一瞬にして台詞を溜め込むことに費やしていた脳の力はその声の主を探す方に働いてしまった。



(・・・・最上さん?)



すくっと立ち上がり、台本を持ったまま蓮はきょろきょろと辺りを見回す。

しかし、姿はなく話し声が微かに聞こえるだけだった。


(どこ?・・・・)



昨日も会ったのに、今日も一目でも会いたいと彼女の姿を探す自分に蓮は苦笑した。

そうしながらも探し回る足は軽やかで一ヶ月以上休みがないことなど嘘のようだった。

しかし、キョーコの栗毛の髪が見えたと同時に聞きたくない声も聞こえてきた。



「聞いてんのかよ!?キョーコ!!」



(不破!?)


その瞬間、その場にビタリと足が固定されて動けなくなった。



「ったく、なんなのよ!?事あるごとに人にいちゃもんつけてきて!!」



不機嫌の塊になったように、腕組みをして少しふんぞり返ったキョーコは、そう尚に怒鳴ると尚も負けじと言い返し始めた。



「いちゃもんじゃねー!!正論を唱えに来てやったんだ!!」



「はあ?!」



「お前、またヘラヘラと男とテレビでいちゃつきやがって」



「あ、あれはドラマの中のことでしょ?!」



そのことなら蓮も知っていた。

大正時代をモチーフにした昔のアニメの実写版をキョーコが演じたのだ。
少しのラブシーンはあったものの、時代設定が設定なために激しいものなどなく純真な恋愛に自分の人生を生き抜く主人公をキョーコが好演したことで事務所でも椹たちが大喜びした事を蓮は思い出した。


「ドラマの中でもヘラヘラし過ぎなんだよ!隙を見せまくってんじゃねぇ!!」



「はあ!?」



理不尽な言いがかりにキョーコは堪忍袋の緒がぶちぶちと切れていく音を聞いて怒りを爆発させようと、怨キョを自分の周りに捏ね始めたのだが、次に言われた尚の言葉にそれは一時止まった。



「お前、俺を目標としてんだろ!?俺を膝まつかせるのが目標なんだろ!?」



尚の言葉にキョーコは目を見開いてしばらく固まった。



「・・・なんだよ・・・その顔は・・」



「目標がアンタなわけないでしょ?っていう顔よ」



「あ?!」



(!?)



影で聞いていた蓮も驚きで二人の様子を息を飲んで見守った。

なぜなら、キョーコは復讐のためにこの芸能界に飛び込んできたのだから。



「私にはアンタみたいなのを目標にするなんて馬鹿なことしないわよ」



ふいっと横を向くキョーコに尚は、驚きのためか掠れた声を上げた。



「ああ?!じゃあ・・誰なんだよ?!・・・・まさか・・・・アイツか!?」


尚の言葉に蓮は小さな期待で心臓が高鳴った。



「アイツ?・・・もしかして敦賀さんのこと?」



キョーコにそう言われ、二人の男に緊張の空気がまとまりつき始めた。

しかし、キョーコはあっさり答えた。


「違うわよ?」



「!?」



(!・・・・・・)



「敦賀さんは目標の男(ヒト)じゃないもの」



キョーコのさも当然というような話し方に、尚は呆気に取られ蓮は呆然とキョーコを見つめた。



「だ・・だったら誰が目標なんだよ!?」



なんとか意識を取り戻した尚がそう叫ぶと、キョーコは小さくため息をついた。



「アンタなんかに言っても解らない人よ!」



いいから言え!!!」


怒鳴る尚にキョーコは根負けしたかのようにキョーコはぽつぽつと話し始めた。


「・・・・師匠よ・・・」


「は?」


「・・・父と呼ばせてくれるお芝居のお師匠様がいるの・・・いつか、その人に認めてもらって一緒に競演するのが今の私の目標なの!!アンタみたいに日本国内でトップだからって勝ち誇って努力を怠ることなんてしないんだから!!」


キョーコの言葉に尚はぐっと黙り込み俯いた。

国内のセールスチャートでダントツトップだった尚は、徐々に歌以外のことにも手を伸ばし始めていた。
評価はそこそこというもので、それに手を出したため本職で明らかに評価が落ちてきていることをキョーコは知っていた。


「・・・・・目標にしていたのは私をゴミみたいに捨ててスターダムに伸し上がろうと、貪欲に努力していたアンタよ・・・今の周りに踊らされているアンタじゃない」


「!!・・・・・・・・・・・・・・・・・っち・・・だからお前は嫌いなんだよ・・・・・・」


尚はふてくされて俯くと頭をがしがしと掻いた。

その様子を、蓮は複雑な心境を映し出した表情で聞き入っていた。

二人がいるところから姿が見えない壁に背を当てて音もなくため息をついた瞬間、胸のポケットに入れていた携帯が振動し始めた。

名残惜しそうに二人のいる廊下から離れた蓮は胸ポケットから携帯を取り出すと、通話ボタンを押した。


「・・・はい・・社さん・・・ええ、時間ですね?わかりました・・・今行きます・・・・」


蓮は電話を終えると、気になるままキョーコを尚の元に残して仕事に戻るのだった。




「・・・・・・・・・で?」


「え?・・・・・なによ・・・『で?』って・・」


しばらく黙って俯いていた尚が顔を上げると同時にそう言うのを、キョーコはきょとんとした表情で聞いた。


「お前が俺を・・今の俺を目標としていないことはわかった・・・で?アイツ・・・・敦賀は目標じゃなかったら・・・なんなんだよ」


「え!?なっ・・・なにって・・・じ、事務所の大先輩で・・・すごい人で・・だから・・その・・・」


「・・・・・・・・・・・・・なに耳まで真っ赤になってんだよ・・」


「なっ!?なってないわよっ!!バカじゃない?!馬鹿じゃない!?もう時間だわ!!アンタなんかに割いてる時間なんてないのよ!!」


「あ!?待て!!まだ話は終わってねー!!」


頭から湯気を上らせながら機関車のように脱兎するキョーコのスピードに追いつけずに、言い足りない尚はその場に置いていかれのだった。



**************


「・・・どうした蓮?すごい気合だったな?」


休憩後、再開した撮影で気迫漲る演技を終えた蓮に社は水とタオルを渡した。


「・・・ちょっと・・・ありまして・・・今までも目標だったのですが、一日でも早くアノ人に追いつきたいと思いまして・・・」


「は?・・アノ人?」


苦笑いする蓮に社が首を傾げると、蓮はさらに意味ありげに笑顔を作った。


(こんなことで再度目標にしたなんて知ったら怒るかな?・・・)


キョーコの目標である彼の人を思い浮かべた蓮は、泣きべそをかくアノ人の姿にまた思わず笑みが漏れそうになった。


(同じ人を目標にしていることなんかを話せたら・・・楽しいだろうなあ・・)


そう思いながら蓮は、撮影が終わったら今日中に会えないか撮影が終わったらキョーコに電話をかけてみようと考えた。

その電話からなにやらキョーコに距離を置かれるなどとは知らない蓮なのだった。




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