§リテイクオーバー     前編 | なんてことない非日常

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《お久しぶりのお話し記事です♪
なかなかまとまらず・・・しかも最近短編が前後編ものになっているというダラダラ感が否めませんが・・・・。
一周年記念!!・・ということでこちらはフリーにさせていただきますので、お好きなようにあつかっちゃってくださいませww

それでは、どうぞww》



§リテイクオーバー     前編




 蓮はゆっくりと愛しい女性に唇を近づけると、その柔らかな感触を深く味わうために瞳を閉じた。


壁に追い詰められた彼女はいくらかばかりの不安を訴えるかのように壁に手をつき彼女を閉じ込める蓮の腕に縋り付いてきた。



柔らかな感触がお互いの唇に伝わると、彼女は少しだけ鼻から甘い吐息を漏らした。



(・・・今・・・・・・撮影中じゃなければなあ・・・・)



理性を揺さぶられる吐息に思わず心の声がそう呟いていた。



蓮は今、キョーコとキスをしている。


しかし、これは蓮の想いが実ったわけでも事故があったわけでもない。

事故に近い偶然と様々な人たちの思惑の中、もたらされた仕事という名の接触なのだった。


++++++++++++++++



夏の新色口紅のCMに抜擢された京子こと最上 キョーコは始め、顔を出さない外人男優と絡む予定だった。


しかし、それでは男性が女性に贈りたくなる口紅にしたいというスポンサー側の思惑が通らないためダメもとで事務所の先輩で芸能界一いい男の敦賀 蓮のところにもオファーがきたのだ。


もちろん社はそのオファーを即答でオッケイすると、機嫌よくそのことを蓮に伝えた。

蓮も喜ぶと思ったのにも関わらず、蓮は一瞬大きく目を見開いて驚いた表情をした後、複雑な表情をして苦笑いをみせた。
社はその時気がつくことが出来なかったが、よく考えたらこんな大勢の人たちに見られながら俳優同士として交わすキスが果たして蓮の想いが伝わるものになるのか・・。
答えはキョーコの性格を考えればノーに近いと解るものだったのに、浮かれていた社はそこを見落としていた。

だからといって蓮はそれを必ずしも悪い事だとは考えなかった。

他の男優にされるぐらいなら自分のところに来てくれたほうがいくらかまし・・・そう考えることにしたからだ。

もしかしたら、いつものように相談されて事前にキョーコと接触できるかも知れないと考えていた蓮だったが・・・そこは学習能力を上書きし続けてもキョーコの行動は読めるものではなくて。


『見知らぬ男女、という設定なので・・・しばらく敦賀さんに会うのを控えたいと思います!あっ、私が監視してないからってご飯食べないのはダメですからね?』


と、撮影2週間前にかかってきた電話を最後に今日の日を迎えてしまったのだ。


挨拶もろくに交わさず、撮影がスタートすると直ぐにキスシーンというある意味拷問に近いスケジュールの中、蓮は久しぶりのキョーコを、初めて触れる唇を堪能したのだった。



少し長めのキスを交わし名残惜しそうに蓮がキョーコの唇から離れると、しっかりと塗られ落ちていない口紅はグロスの輝き残していた。

そんなキョーコの唇にカメラがズームした。

そしてゆっくりと蓮の肩越しに潤む瞳でカメラを見つめるキョーコのアップショットが数十秒撮られた。


完成時にはここに『ナツ、サソウ、ヌレル、クチビル』のロゴが大きく入るために長く撮られたのだが、その間も蓮にしっかりと抱きしめられているキョーコの表情はナツに近い・・・いや、年齢を重ねさらに艶っぽいものとなっていた。



「はい!オッケイです~!!次は敦賀さんのショットになります」



「はい・・・・」



「・・・はい」



助監督の言葉に頷き、それぞれ用意された休憩用のスペースに移動したのだが、その間も二人の間には微妙な距離が保たれ蓮は少しよろめきながらもナツの時のようにセパレートさせたショートヘアーの前髪が一房ゆれるキョーコの横顔を熱っぽく見つめた。



台詞のない今回の撮影は表情が命のため、『見知らぬ女に誘惑される男』という設定を蓮は撮影に入る直前から演じている。

カットがかかってもキョーコの姿を目で追い求める男を・・・。

社以外は、そんな蓮の役者魂に感服していた。

それは見つめられ続けているキョーコもだった。


(・・・すごい・・・敦賀さん・・・こんな事で動揺しまくっている私とは違うわ・・・・私もしっかりしなきゃ!!こんな時の『役者の心得』よ!!)



キョーコも負けじと気合を入れてまだ蓮の柔らかな感触残る唇をきゅっときつく結ぶと、役を憑かせた。

そんなキョーコを、蓮はため息と共に見つめた。


(・・・あ・・・さっきちょっと最上さんだったのに・・また役に入ったな・・・はあ・・・君は本当に俺の思い通りにならない子だなあ・・・)



きっとその場にローリィがいたなら、『だからいいんだろ?』などと言われそうだが、既に数年この想いを自覚してから募らせている蓮は、始め渋っていたこのシチュエーションをフルに利用して少しでもこの先輩と後輩という関係から進展しようと考え始めた。



「じゃあ、敦賀君は京子さんの唇を口惜しそうになぞってカメラに視線ください」



「はい・・よろしくね?最上さん・・いや・・・『京子』?」



「!!・・・はいっよろしくお願いします!!」



妖しげに微笑まれて一気に身を硬くしたキョーコだったが、蓮からの挑戦状を受けた気分になって深呼吸一つすると、気持ちを切り替え役を憑かせて蓮と向き直った。


カチンコの音と共に二人はまた、先ほどのような濃厚な男女の空気を纏わせた。


赤く艶めく唇を半開きにして、淡く色付く頬と潤む瞳で見上げるキョーコに蓮は一気に引き込まれた。


壁に追い詰められているキョーコは蓮に挑むような縋るような表情を見せると、蓮の手が壁から離れキョーコの頬を包んだ。


キョーコは蓮の掌の温かさに目を瞑り気持ち良さそうにその掌に頬を摺り寄せると、そのまま蓮をゆっくりと見上げた。

二人の視線が絡むと、蓮はゆっくりとキョーコの唇を親指でなぞり大きな躯体を曲げキョーコの唇に近づいた。
もう数センチでキョーコの唇に到達しそうなところで動揺したキョーコが少し体を引いたため、蓮の唇はキョーコの鼻先にたどり着いてしまった。


「・・・あ・・・」



「!?・・・~つっ・・・・・」



「あれ?カ、カアット!敦賀君~」



「あれ?すみません・・・つい、引き寄せられちゃいました」



キスシーンは先ほどの一回のみの予定だったのに、いとも簡単にそう吐き捨てる笑顔の蓮に監督が少し考えた後、このシーンも蓮がキョーコにキスするということになってしまった。

キスシーンが終わって、少しほっとしていたキョーコが頭の中で絶叫をあげているのが蓮には手に取るようにわかった。
だから何でもないことのように、青ざめるキョーコに蓮は機嫌よく振り返った。


「・・ごめんね?最上さん・・こっちの方がコンセプトに合ってる気がしたから・・・・」



「はっ、い、いえっ・・・すみません・・・そ、そうですよね?!・・・が、頑張ります!!」



「うん、がんばっていいシーンにしようね?」



「っはい!!」



元気に返事をするキョーコににっこりと微笑んだ蓮の腹黒さを顔を引きつらせて見守っている社に誰も気がつかず、テイク2が始まった。



「よ~い・・スターット」



しかし・・・先ほどと同じように視線を絡め蓮がキョーコの頬に手をやろうとした瞬間、キョーコが小さく体を跳ねさせた。



「ひゃう!?」



「え?・・・カ、カ~~ット!?・・・ど、どうしたの!?京子ちゃん~!?」



キョーコの叫び声と共にまたもやストップの声がかかった。

キョーコは青ざめたり赤くなったりしながら監督に頭を下げた。


「す、すみませんっ!!な、なんでもないんですっ私が至らないんですぅ!!」



涙目でキョーコが謝るのを蓮は苦笑いで頭を掻きながら見ていると、キョーコが必死の形相で振り返ったためギクリと笑顔を固まらせた。



「敦賀さんっ!!」



「な、なに?・・・・」



罵詈雑言がくるかと身構えていると、キョーコは深々と蓮に頭を下げた。



「申し訳ありませんっあんな事で動揺してしまって、変な声を出してしまって」



「あ・・・・・いや・・・俺も・・悪かったよ?・・・急に君の足の間に膝を割りいれて・・」



ワザとそう切なげな表情を作ってことの経緯を口にした蓮にキョーコは真っ赤になりながらも、職人魂で乗り切ろうとしていた。



「っ!!・・・い、いえっ!!演技の中の事なのに・・敦賀さんを誘惑しないといけないのにっ・・・私は本当にお子様です!すみませんっ!!次は何事にも動じないオトナの誘う女になってみせます!!」



「・・・・・・・・・・うん、次はなにがあっても動じないようにね?」



「はい!必ずやこの最上 キョーコ!!いかなる事が起ころうと動じないオトナの女になってみせますっ!!!」



この会話で蓮の思う壺に嵌まってしまったとも知らずに、握り拳を硬く突き上げているキョーコを蓮は生暖かく優しい目つきで眺めるのだった。



「では、テイク3お願いします!!・・・・よ~ぃ・・・スターット」



監督の声と共に始まった撮影にキョーコは必死に役を憑かせた。

先ほどスル・・・ッと入ってきた蓮の膝は、黒のスリット入りミニスカートを履いたキョーコのむき出しになった内腿を擦るように入ってきて足の付け根をぐっと押し上げられた。


(ひい!?・・・きっキョーコ!!・・だ、だめよっ!?さっきみたいに叫んじゃっ・・・ここは敦賀さんを誘惑するんだから・・なんでもない振り・・・私は・・・誘う女っ・・)



キョーコは、くっと顎を上げ間近にある蓮の顎に軽く開いた唇を持っていった。



(・・・へえ・・・結構我慢してるね・・・でもこれなら?)



蓮はキョーコの唇をかわすように壁から浮いたキョーコの後ろ髪を掴み、下へ軽く引くとキョーコの喉が天井に向いた。



(きゃあ!?な、なに!?)



心の叫びを表情に出さないようにしながらも、蓮の服を掴んでいた指に知らず知らず力が入った。

そんなキョーコの指先を見ながら蓮はその真っ直ぐ差し出された首筋を軽く開いた唇で顎にめがけゆっくりとなぞった。


「っは・・・ぁ・・・」



その途端、キョーコから甘い吐息が漏れると社も含めその場にいた全員が真っ赤になって生唾を飲んだ。


新色の口紅を厚めに塗られ、大人っぽい衣装とメイクで蓮に首元を食べられているキョーコはこの上ないほど色っぽかった。


蓮の唇がキョーコの顎までたどり着くと、唇同士をかすめて視線を絡めた。


蓮のせいですっかりオトナの女な表情を見せるキョーコに蓮が小さな目眩を覚えていると、不意にキョーコににやりと笑われた。



「!?」



その微笑みは妖しく優美な表情で、蓮がその微笑に気を取られていると蓮に縋りついていたキョーコの指がゆらりと服を離れ、トン・・・と蓮の鎖骨を押しやった。

その行動は蓮と同様にアドリブなのだが、まるでそれが当たり前かのように蓮を押すキョーコの演技はまさに誘う女の顔だった。
蓮は押された衝撃以上にそのことでよろめいた。

攻めた筈の男は誘ってきた女に突き放されて、驚きよろめいた。

少し離れた間合いを女の指先だけが二人を繋いでいた。

つぅ・・・っと蓮の鎖骨から指を唇まで持ってきたキョーコは目を細めそのぷるっとした唇を薄く開いて蓮を見た。

その表情に蓮の背筋がぞわりとした。


(いつの間に・・・こんな表情をっ・・・君にはいつも追いつけない俺がいることを思い知らされるよ)



蓮は焦燥感もそのままに、形のいい蓮の唇をなぞっていたキョーコの手を掴むと一気に引き寄せた。

そして細い腰に腕を巻きつけ、キョーコの手ごと壁に押し付けると先ほど交わしたものとは全く違うキスを深く深く奪い取った。


「んっ・・・ふっ・・あっんむぅっ」



蓮のキスにキョーコは抵抗できる術もなく、しっかりと絡め取られてしまった体は逃げられず辛うじて残した女優魂でこれ以上のリテイクは出してはいけないと破裂しそうな脳内を必死に押さえたのだが。



「・・・美味しい唇だね?」



こそっと唇が離れた瞬間に甘く囁かれてキョーコは、かっと頬を熱くした。


その瞬間、京子の仮面が揺れた。


恨めしそうに涙を少し滲ませた瞳でキョーコが蓮を見据えると、蓮は思わずその瞳を腰に回していた手で塞いだ後、もう一度唇を塞いだ。


それは優しく、先ほどのような激しいものではないのに、ぎゅっと握り合った手が壁に残され酷く惹かれあって交わしていることが解り恍惚としたキスシーンとなった。




その後・・・この時の自分を蓮は酷く後悔する事となった。






『誘う、揺れる、魅せる、唇』


そのテロップと共に目を塞がれたキョーコの艶めく唇に引き寄せられる蓮とのキスシーンは、当然の如く世間の噂を攫った。


色気タップリの蓮の表情と共に、負けず劣らずの潤んで揺れる瞳と上気した表情で蓮に唇を激しく奪われるキョーコも大量の馬の骨・・・いや・・ファンを増やしたのだった。




後編