§ルートX    12 | なんてことない非日常

なんてことない非日常

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§ルートX    12






 「・・・な・・・なんで・・・キョーコちゃんがここにいるの?」




蓮は仕事を終わらせると大急ぎで社と共にローリィ宅へとやってきた。

そこで二人を出迎えたのは、いつものように蓮に走り寄り飛びつくマリアと蓮は来ることを知らずにマリアと遊んでいたキョーコだった。


「コーンこそ・・・どうして・・」



「社長に呼ばれて・・・・って、今日のバイトは?」



「・・・・お昼のバイト先に社長さんがいらっしゃって・・・・だるまやの方にはお休みさせてくださいって電話したの」



キョーコの言葉に蓮が頭を抱えていると、その影からひょこっと社が顔を覗かせた。



「君が・・・キョーコちゃん?」



「へ?・・・こ、こんばんは・・・」



始めてみる顔にキョーコが困惑しながらきちんと挨拶をすると、社はふにゃりと顔を綻ばせた。



「いい子そうだな~、なっ?蓮・・・・はじめまして、俺は社 倖一・・・蓮のマネージャーをしてます」



自己紹介をされて始めてキョーコは大きな目をさらに大きくして頷いた。



「あっ!!お弁当の!?」



「うん!いつも美味しいお弁当をありがとうございます!」



「い・・いえいえ・・・お粗末さまです」



頭を下げる社にキョーコも慌てて頭を下げ返すのを、蓮は楽しそうに優しい笑みで見守っていると奥からローリィがゆっくりと歩み寄ってきた。



「もう来たのか・・・まあ、奥に来い」



部屋の入り口で騒いでいた面々を中に招き入れたローリィは、それぞれソファーに腰を下ろすのを見たあとスクリーンを稼動させたそれと同時に部屋は薄暗くなった。



60インチ以上あるスクリーンが下りてきても部屋が狭く感じないのがすごいな・・・とキョーコが変なところで感心しているとそれを見慣れているのか蓮は首を傾げてローリィを見た。



「あの・・・・一体何を・・・」



「黙って見てろ」



ローリィに一言で制された蓮は渋々事の成り行きを見守っていると、しばらくしてスクリーンに映し出されたのは先日撮りが終わった箇所の蓮の登場シーンだった。



そこには、許されない想いに苦悩する精神科医の蓮が想いを募らせる記憶喪失の女性役の女優とやり取りをするシーンだった。



「・・・・もしかして・・・・何かダメ・・・だったんですか?」



蓮は映像が終わるのを待たないでローリィに真剣な表情で向き合った。



「誰も何も言ってないだろう?・・・・お前はダメだと思ったのか?」



ローリィは蓮を見ずにスクリーンで心の葛藤をさらけ出す蓮を見つめていた。



「・・・・・いえ・・・今の俺に出来る最高の演技をしたと思っています・・・・」



「・・・・演技・・・ねえ・・・・・」



そのシーンが終わると、映像は切れ部屋は元の明るさを取り戻した。

ローリィは葉巻を咥えチラリと蓮を見た。


「・・・・な・・なんですか?・・・」



「・・・・その子なんだろ?」



「え?」



蓮の横に座り映像を見ていたキョーコを火のついていない葉巻で指すと、ニタリと笑って見せた。



「・・今のシーン・・・相手役の女優をその子に置き換えて演じていた・・・違うか?」



「っ!!」



「・・・・へ?」



図星を指され一気に身を硬くする蓮に対して、キョーコは言われた意味がよくわからずに呆けた顔して首を傾げた。



「切ない想いを抱える相手を彼女に当てはめ、演技をしたんだろ?」



最後の止めとばかりにローリィがそう言うと、まだ状況が把握できていないキョーコを向いて微笑んだ蓮はローリィに向き直りハッキリと頷いた。



「はい・・・」



「やっぱりな」



「でも!」



「やっと本物の恋する演技が出来るようになったか・・・」



「・・・・・・・・・・え?」



ローリィにダメだしされると思い、反論しようと構えていた蓮はローリィの言葉に呆けた。



「ずっとお前の恋の演技は嘘っぽいと思ってたんだ」



「・・・・・え?」



今そんなことを言われるとは思っていなかった蓮は愕然とローリィの言葉を聞いた。



「なんか縦にも横にも奥行きのない恋の演技しかしてきてなかったからな・・だから今回のガッツリとした恋愛ドラマの出演は正直俺は断りたかったんだ」



「「え!?」」



初耳の事に蓮と同時に、社も大きな驚きの声を上げてローリィを見つめた。



「監督は旧知の仲だからな・・・ダメだと思ったらスッパリと蓮を切ってくれとも頼んでいたし、その証拠を残すためにリハーサルからお前の演技をずっと録画してもらっていたんだ」



そう言ってローリィが秘書になにやら指示すると、先ほどのシーンのリハーサルの様子が映し出されたいた。



監督から何度も指示が出される中、蓮は頷き改善しながらも同じ箇所でまたすぐに監督から指示を出されていた。

そのシーンは、記憶が戻ると親友の妻である事を女性が思い出し自分の側からいなくなるのではと複雑な心中を表情で表し、女性の背中を見つめるシーンだった。


「・・・・このときのお前は自分の心を曝け出すのを躊躇っていた・・・・でも、監督からの再三の要求に一つの結論に至った・・・・今彼女に抱えている想いならこのシーンに合うのではないか・・監督の気に入る演技が出来るんじゃないか・・・・と・・・・そんなことろだろ?蓮」



「・・・・・・・・はい・・・・」



まるで蓮の心の中を見てきたように語るローリィに完敗した蓮は深いため息と共に頷いた。



「でも、それは悪い事だとは・・」



「誰も悪いとは言ってないだろ?ちゃんと人の話を聞いていたか?・・・ようやくお前も恋の演技が出来るようになったなっとさっき言ったんだ・・・・・そこでお前を変えた女の子が見たくなってな?色々な筋から情報を得て彼女を見つけ出しここに招待したというわけだ」



(・・・・・どんな筋からの情報なのか怖くて聞きたくないな・・・・)



蓮が黙りこくってそう思っていると、袖をつんっとキョーコに引っ張られた。



「うん?どうしたの?」



「・・・・私・・・コーンの邪魔になって・・ない?」



ローリィとの会話に不安そうなキョーコに蓮はふわりと頭を撫でながら微笑むと、小さく首を振った。



「邪魔なんてとんでもない・・・むしろ君のお陰で俺は今まで閉ざしてきた自分の心を解放して撮影に挑めた・・・・・・・感謝してる」



その言葉にキョーコは安心したように微笑み返すのを、社は赤面しながらローリィは少し呆れながら見守っていた。


しかし、キョーコはすぐに表情を暗くした。


「良かった・・・・でも・・・コーンはよくても・・・社長さんは?・・・私なんかじゃ『敦賀 蓮』にふさわしくないって言われるんじゃないかって・・本当はそう思って私、ここについてきたの・・」



「・・キョーコちゃん」


蓮は不安そうな表情でふるっと頭を振ったのだが、キョーコの心配はそれだけでは晴れなかった。


「・・・・確かに・・・『敦賀 蓮』はうちの大事な俳優だ・・・・・それを何処の誰だかわからない者に蓮の俳優生命を脅かされるというならその者を排除しようと俺は動くだろうな」


穏やかに話しているのにその声には迷いなどなく、絶対にそうされるのであろうとキョーコに思わせるものだった。


「だが・・・・」


息を飲む面々にローリィはにやりと微笑みかけた。


「君はどうやら俺の捜し求めていた救いの女神・・・のようだな?」




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