†想いを伝えたい    ⑨ | なんてことない非日常

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†この想いを伝えたい   ⑨




 「カーット!!・・・・・あれ?カーット!!敦賀君もういいよ!!」



「え?・・・・・・」



監督にそう叫ばれ蓮は自分の腕の中にいるはずのキョーコがスタジオの隅のほうでこちらを呆然と見ているのに気がつくと、自分の腕の中にいる人物を確認した。



「あっ・・・ごめんね・・・」



「い・・・いえ~・・・・」



相手役の女優は蓮の腕の中ですっかり天国にでも上ったかのようにうっとりとした表情で返事をした。


そんな女優とのやり取りにキョーコが苦しそうな表情をしているのが見えた蓮は慌ててキョーコに駆け寄った。



「違うんだっ!今のはっ・・・」



「え?・・・・あの・・・敦賀さん・・・」



急に目の前に現れた蓮にキョーコが驚いていると、蓮は必死に何かを訴えようとしていた。

だが、そんな蓮を監督があっさりと呼び戻した。


「敦賀君!このままの雰囲気で撮りきってしまおう!!」



「っ!!・・・は、はい・・・・・最上さん」



監督に振り返り挨拶を返した蓮は改めてキョーコに向き直ると、少し苦しそうな表情を浮かべた。



「・・・・彼女は・・・『君』・・・だから」



蓮はそれだけ伝えると、慌しくセットの中に戻っていった。


そんな蓮の背中を呆然と眺めていたキョーコだが、撮影が進むにつれて赤面が止まらなくなっていくのだった。




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意識していなかった女性からの告白を機に男はその女性のことを考えるようになる。



ドラマの状況と今、自分が置かれている状況がこんなに酷似するなんて・・・と蓮は先ほどまでため息をついていた。


でも今は違う。


確固たる心の中の答えが自分を変えていくのを感じた。



まだ蓮の言った事を理解していないのか、セットの中に立つ蓮を呆然と眺めているキョーコを蓮は見つめ返した。


その瞳には強い意志を持った光を湛え。




『・・・・答えが・・・・出たんだ・・・・』



蓮は監督の合図でゆっくりと台詞を吐き出していく。


目の前の女優は始めだけ見て、後はカメラを見ればいいカット。

蓮は自分の感情を乗せていった。


『・・・・・・君は・・・本当に手がかかって、人を直ぐに巻き込む迷惑な子だった』



女優の方を見て蓮は眉頭を寄せて苦笑いをした。



『だけど・・・・・』



何か思い出したように俯いてクスリと笑みを漏らすと、顔を上げた。



『・・・・いつからか・・・目が・・・・離せなくなっていた・・・』



カメラのずっと後方に立っているキョーコを見据えて蓮は微笑んだ。



『いつも一生懸命で、無駄に頑張って・・・・しっかりしているように見えて結構ドジで・・・・危なっかしくて・・・本当に君にはいつもハラハラさせられていた・・・・』



蓮は片手をそっと胸に当て小さく息を付いた。



『・・でも・・・・・・その姿が俺の心を捉えた・・・・君自身の姿・・・飾りを何もしなくても輝いている君の姿が俺の心を捉えたんだ・・・』




蓮は真っ直ぐ薄暗いところにいてもわかるほど真っ赤になっているキョーコに優しく甘い神々スマイルを見せた。



『・・・君が・・・好きだよ・・・・』





「カーット!!・・・~~~っ・・・いい・・・・いいよ!!!敦賀君!!その表情っ俺が欲しかったのはっ・・・・・・あ・・あれ?敦賀君?」



カットの声の直後、監督は興奮した状態でそう語ったのだが周りに蓮の姿がないためキョロキョロとあたりを見渡した。

だが、助監督に蓮は今日の撮影がこれで終わりだと知るやいなや、きちんと挨拶をして帰って行ったと告げられた。




++++++++++++++++++




「あ・・・あのっ・・・良かったんでしょうか?」



「・・・・まあ・・・今日はこれで終わりだし・・・あの様子ならオッケイだろうから・・・・・」



カット後、凄まじい勢いでキョーコを連れて衣装もそのままに蓮は自分の車にキョーコを乗せ自宅に向かうため車を走らせていた。



「・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・あの敦賀さんっ」



しばらくの沈黙に耐えられなくなったキョーコが声を上げた瞬間、車は緩やかに停まった。



「・・・・ついたよ」



そこはいつもの蓮のマンションの駐車場で、蓮はエンジンを切ったのだが降りる気配がなかった。



「・・・・・さっきは・・・・」



短い沈黙を蓮はハンドルに向かって吐いた言葉で破った。



「はっ・・・はいっ」



キョーコはコクリとからからに渇いた喉に無理やり唾を流し込みながら頷くと、ハンドルから視線を移した蓮と目が合った。



「・・・・・芝居・・・・じゃなかった・・」



「・・・・・へ?」



「芝居なんか出来なかった・・・・こんな事・・・初めてだった」



蓮はそう苦笑するがその表情はどこか晴れやかだった。



「・・・・あの場で言った事は全部君に言いたかった言葉だ・・・・我ながら役と混ぜないと自分の気持ちに気がつかないなんて情けないとは思うけど・・・・」



蓮は零れ落ちそうなほど目を見開いているキョーコに、照れたように微笑みながらそう告げると体ごとキョーコの方へと向いた。



「・・・君は・・・俺すら知らない俺の感情を呼び起こさせる・・・本当に厄介な存在なんだな・・・」



「っ・・・・・す・・すみません・・・・」



蓮の言葉にキョーコは泣き出しそうな顔を隠すように俯いた。



「ああ・・・違うよ・・・それが、すごく嬉しいんだ」



「え・・・?・・」



「今まで自分でも知らなかった感情を知って演技にも生かせる・・・君は俺を変えてくれる・・・きっとこの先も・・・・君が幻滅するような俺を知って離れたくなるかもしれない・・それでも俺は君をもう・・手放せない・・・・それでも俺のこと・・・好きだって言ってくれる?」



蓮の真剣な表情に吸い込まれるように見詰め合っていたキョーコは、少し考えた後ほにゃりと顔を崩して微笑んだ。



「・・・はい・・・だって・・・・あんなに怖くて意地悪もされてたのに・・・・本当の敦賀さんを知っていくたびに好きになってしまったんですもの・・・・きっと・・・・・・絶対、だいじょうぶ・・・・!?」



キョーコがそう、言い終わった途端、蓮の両手で頬を包まれコツンとおでこをくっつけられた。



(!?び・・びっくりした~~!!キ・・・・・キスされるかとおも)



「キスしたい」



(ぎゃああああああああ!!?)



間近にある蓮の端正な顔にキョーコが噴火しそうなほど真っ赤になっているのに追い討ちをかけるようにそう蓮が言うとキョーコは心の中で盛大に叫び散らした。


「つ・・つつつつつつるがさっ」



目を回しかけて、どもるキョーコに蓮は苦笑いをしながらも額を離さなかった。


「未成年の君に・・・しかもこういうことにはまるっきりダメな君にこんな事言うのは・・・気が引けるんだけど・・・それでも・・・そんな顔されたらここで押さえておくのすら難しいんだ・・・」



蓮は困ったようにそうキョーコに告げると、キョーコは赤いながらも遠慮がちに口を開いた。



「あっ、あのっ・・・・」



「・・うん・・」



「~~~~っ・・・・は・・・・はじめて・・・なので・・・」



「!!・・・・・・そういう風に煽るの・・・反則」



蓮は合わせた額をグリグリとキョーコの額に押し付けると、キョーコから「ひゃっ!?」と小さな声が上がったが直ぐにその唇は蓮にそっと塞がれ二人の周りにはまた静寂が訪れた。



ただ重なるだけの口付けは短い時だったが、二人のこれからを大きく変える時間となった。



「わ・・・・私の想いが・・・・伝わったって・・・ことでしょうか・・・・」



まだ赤みの残る頬を押さえながら、そっと離れた蓮をキョーコは見ながら呟くと蓮からいつもよりも数段眩しい神々スマイルが返ってきた。



「しっかり伝わったよ・・・・・俺も・・・君のことが好きだ・・・・この想い、君に伝わるかな?」



蓮の言葉に嬉しそうに瞳を滲ませながら頷くキョーコに蓮はもう一度ゆっくりと近づいた。

それをキョーコは温かな涙を一滴落としながら瞳を閉じ、もう一度訪れるだろう温かな感触を待つのだった。






end