†想いを伝えたい ④
不思議と彼女を見つけると顔が綻ぶ自分に驚く。
笑顔で彼女が近づいてくると、心が温かくなる気がする。
それは・・・・・彼女が昔の少女だからなのかもしれないとその時は思っていた。
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「あ・・・キョーコちゃんだ」
社の声で蓮はその視線の先を追った。
ラブミー部の目に焼きつくピンク色のつなぎ、茶色の柔らかな髪に丁寧なお辞儀姿勢。
そのどれもが彼女の存在を確固たるモノにする。
そして、社の声に反応したキョーコが一瞬驚いた表情をした後、にっこりと笑顔を作って蓮たちの元に歩いてきた。
「おはようございます・・・・敦賀さん、社さん」
(・・・・・・あれ?)
いつものようにきれいなお辞儀をしているのにそれに対し違和感が拭えない蓮は首を傾げた。
「おはよう!キョーコちゃん!!」
「・・・・・・おはよう・・・・最上さん」
微妙な違和感を拭えない蓮が少し遅れ気味に挨拶を返したのだが、キョーコはそれに気がつかないのかいつものはじけるような笑顔ではなく営業仮面の笑顔を貼り付け再度二人に深々と頭を下げた。
「・・・・・・・最上さん・・・・・元気?」
「は?・・・・・・・はい・・・・元気・・・ですよ?」
「本当に?」
「ほっ・・・本当・・・です・・」
「・・・そう・・・なら、いいんだ・・・・お疲れ様・・・・あ、今夜の打ち上げには出るの?」
疑いの眼差しをしてずいっと顔を覗き込んできた蓮は必死に頷くキョーコにふわりと笑って見せると、先日クランクアップした打ち上げが今夜あるのだがその事について訊ねて見た。
するとキョーコは困った顔をした後、小さく頭を振った。
「いえ・・・時間が少し遅いので・・・私は遠慮させていただこうかと・・・・」
「そう・・・・・そうだね・・・すこし残念だけどその方がいいかもしれないね?・・・じゃあまた・・・」
「あ・・・・・・はい・・・・」
蓮はキョーコの表情を気にしながらも社と共に次の仕事先に向かうべくキョーコの元から離れていった。
その背中をキョーコは小さくなるまで見つめた。
(ズルイ・・・・・・・・ズルイズルイズルイズルイ・・・・・そうやって人の心をかき乱す言葉を残して・・・・・視線を残して・・・・私の心を置き去りにしていく・・・・)
溢れ出しそうになる想いを苦しそうに押さえキョーコは唇をきつく結ぶと、その場から逃げるように踵を返した。
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「蓮?どうした?」
「・・・・・・・いえ・・・・・」
踵を返して去っていくキョーコを振り返りその姿を眺めていた蓮に社が声をかけると、蓮は視線をそっと外した。
「・・・・最上さん・・・様子おかしくなかったですか?」
「そうか?・・・・特にそんな感じはなかったけどなあ・・・」
首を捻る社を見ながら、キョーコの少し寂しそうな表情を思い出し蓮は胸の中に小さく重りが乗ったような気分になった。
(・・・・・なんでこんなに気になるんだ?・・・・・・)
モヤモヤとした得体の知れない感情に小さな苛立ちを感じながら蓮はそれを振り払い、怪訝な顔をする社を追いかけるように歩き出した。
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「・・・・・え?社さん・・・が、ですか?」
『そうなんだよ、すまないが今から事務所に出て来れないかな?』
翌日、キョーコは椹からの電話で事務所に呼び出された。
以前やったことのある蓮の代マネの依頼だった。
気持ちをはっきり認識してから蓮に会うのは正直怖かった。
この想いを知られたらきっと後輩としても会ってくれさえくれなくなるかもしれない・・・そう、考えるだけで心臓を握り潰されるような気分になった。
それでも昨日のように会ってしまえば自然と心がざわめき踊り出す。
駆け寄りたいのを抑え感情が溢れそうになる表情を変え、一後輩でいられるように仮面を付けた。
それなのに蓮はそんなキョーコをいともあっさりと見抜いて、心配そうに覗き込んできた。
自分のふとした行動を見てくれているという嬉しさと同時に、彼は自分の事は後輩として心配してくれているだけなんだという思いが混ざり身動きが取れなくなってしまう。
以前のように蓮を先輩と崇め、敬い演技の勉強と言いわざと椹にスケジュールを調整してまで蓮を見れていた頃が楽しくて良かったなどとキョーコは蓮への想いに気がついてから後悔ばかりだった。
(この想いは封じてしまおう・・・・・私は敦賀さんを尊敬している一後輩・・・ただ、それだけの存在・・・・・・)
そう決意したのにこの後自分でも驚く行動をとるとは思わなかった。
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