†想いを伝えたい ③
(あ~あ・・・・・終わっちゃった・・・・)
キョーコは最後のシーンを撮りえ、笑顔でセットから下りる蓮を眺めた。
共演という一番誰にも勘付かれずに蓮と会える理由が無くなってしまう事にキョーコは寂しさを隠せずにため息をついた。
「お疲れ様、最上さん」
他の共演者たちとの挨拶を終えた蓮が最後、スタジオの隅にいたキョーコに挨拶をしに来た。
「お・・お疲れ様でした・・・・敦賀さんと共演できて本当に楽しかったです!!」
「・・・・・・たのし・・かった?」
「はい!!」
笑顔で答えるキョーコに蓮は戸惑った。
「・・・・本当に・・楽しかったの?」
「はい!・・・あっ・・い・・・いけませんか?」
もしかして怒られるのかもしれないとキョーコが困惑顔で蓮を見つめていると、今までに見たことのない優しい笑顔を向けられた。
「いや?・・・・いけなくなんかないよ・・・そう、俺との芝居・・楽しんでくれたんだ・・・・」
あまりの神々しい笑顔にキョーコは光の矢が何本も自分の胸に突き刺さるのを感じ固まった。
「・・・最上さん?」
「ぅはい!?」
名前を呼ばれなんとか覚醒したキョーコに蓮は苦笑した。
「・・・芝居の時には・・・復讐とかなんて考えてないんだ?」
「!!もちろんです!!・・・あんな感情でお芝居なんて出来ません!!」
キョーコは少し青ざめて力説すると、蓮はふわりとまた優しく笑ってキョーコの頭をなでた。
「うん・・・・俺も君と共演できて楽しかったよ」
笑顔の蓮にキョーコは戸惑いながら訊ねた。
「あ・・・の・・・・信じて・・・くれるんですか?・・・お芝居の最中は復讐を・・忘れていた事・・・」
にわかに蓮の笑顔が自分に向けられているものなのか信じられず、キョーコはしどろもどろにそう蓮に訊ねると蓮はコクンと頷いた。
「信じるよ・・・・だってお芝居中の君は生き生きしていた・・・・だから・・・俺もよかったよ・・・君と芝居が出来て」
その言葉と、その笑顔がとどめだった様にキョーコは思った。
蓮に一後輩扱いされて涙した事も、ずっと側にいたいと思う理由も全てにこの感情があったのだと・・・キョーコの心の中のモノが開放された。
(・・・・ああ・・・・私・・・・敦賀さんの事・・・・本当にこんなにも好きになってたんだ・・・・)
封印したはずの奥底でくすぶっていた感情が優しい温もりを持って心の奥底から全身を包み込んだ。
「また共演できる事を楽しみにしてるよ?」
「・・・・はい!・・・・是非!!」
キョーコは解き放たれた心を隠して、コクンと頷くと同時に蓮は社に呼ばれスタジオを後にした。
キョーコは必死に営業仮面を顔に貼り付けて、共演者やスタッフたちに最後の挨拶をして控え室に戻った。
「・・・・なんだ・・・キョーコ・・・・・結構、演技上手くなってるじゃない・・・」
キョーコは扉を閉めた途端に溢れ出し頬を伝い床に落ちた涙を見つめて自嘲した。
「・・・・もう・・・・私・・・バカだわ・・・・」
両手で目を覆いながらそう呟くと、キョーコはズルズルと扉の前でしゃがみ込んだ。
この想いはきっと叶うものではない事を思い知っている。
恋を自覚した途端の不毛な恋にキョーコは声を押し殺して涙するしかなかった。
④へ