§雨上がりに | なんてことない非日常

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§雨上がりに





「あ~…とうとう降ってきたな…」



車のワイパーを回し始めたはいいがあっという間の視界不良に俺は少しスピードを緩めた。


撮影の待ち時間が3時間程空いた為、一度自宅に戻ろうとした矢先この雨に当たった。
ふとマネージャーである社さんの言葉が脳裏に蘇る。



『6時までには戻って来いよ、敦賀 蓮の名において酒飲んでまったりとか無しだからな』



まったく…信用ないな……。
苦笑とため息を付いた時、歩道を雨にうたれながら歩いている女性が目に映った。



あぁ~ずぶ濡れだな…可哀想に、朝は青空も見えてたから傘持たなかったんだな…。

そう思いながらゆっくりその女性を追い越して行く途中、俺は自分の目を疑った。


最上さん!?


俺は慌ててブレーキをかけ、車を追い越して行く彼女に向かってクラクションを鳴らした。

彼女は立ち止まり振り返る。
髪も服も体に張り付いてしまって、服にいたっては体のラインどころか下着の色までわかってしまう程濡れてあられもない姿になってしまっていた。



「何してるんだ君は!?」



ウィンドウを下ろした途端、激しい雨の音で叫んでいる俺の声が少ししか彼女に届いていないようだった。



「えっ!?敦賀さん…どうして?」



呑気に答える彼女に苛立ちを覚え、俺はあっという間に彼女を車に乗せ、たまたまあったスポーツタオルを広げ彼女を頭からくるんだ。



「はあぁ……」



俺のため息で彼女が怯えたのはわかったが、憤りを隠せない。

車のワイパーのスピードが俺を煽っているようだ。



「………まったく…君は………そんなに自分の体を苛めたいのか?」



俺の言葉に彼女は慌てて頭を振ると、濡れた髪から小さな滴が飛んで来てまた慌てた彼女は、せっかく彼女の姿を隠したタオルを使って水滴を拭っている。



頼む!その姿を晒さないでくれ!!

直視しないように車を発進させる。


いつからあの姿で歩いていたんだ?

どれだけの奴が君のその姿を見た?

もし、俺が通りかからなかったら君はずっとその姿で歩いていたのか?


心の奥底から黒く醜い気持ちが湧き上がってくる。


ハンドルを握る手に力がこもる。


「…す…すみません…こんなずぶ濡れでシートを汚してしまって……」



「…いや?シートの事なんかどうでもいいんだ……君が体を冷やしたら仕事に影響がでるかもしれないだろ?」



「は…はい…すみません……」



彼女が何度も頭を下げてくれるが俺から内にくすぶる独占欲は消えてくれなかった。



「…それにあんな格好で………」



そう言った瞬間、彼女が俺から離れようとしたのがわかった……けど狭い車内から逃げられず、赤信号で車が止まったのをきっかけにいつもの笑顔で彼女を見据えた。



「…最上さん、とりあえず俺の家に行くから」



「は、はい」


簡単に事情を説明すると彼女は俺の気迫に押されるように頷いた。







「じゃあ、ランドリー使っていいから…服全部乾くまでこれ使って?」



そう言いながら俺は彼女に自分の半袖Tシャツに短パンを渡した。そしてその上にバスタオルを置いた。



「それじゃあ、俺は行くから…服乾いて雨やんだら気をつけて帰るんだよ?」




恐縮顔の彼女を置いて出て行くのは少々不安だった。

ちゃんと体を温めて家で過ごして行ってくれるのか……。
だから俺は心に予防線を張った。

雨がやんだら帰っていいと………。

自分が帰ってきた時、家に彼女がいなくても落ち込まないように。




「はあぁ~~~………」


大きなため息をつく俺に心配顔の社さんが覗き込んできた。



「…お前……なんか疲れてないか?…休憩しに家に帰ったんじゃないのか?……まぁ、随分早く戻って来たけど………」


そう矢継ぎ早に聞かれても答える気力の無い俺はまたため息をついた。



「………社さん…今日、この現場で最後ですよね……」



「あ?あぁ……23時上がりの予定だけど?」


急な俺の質問にも彼はきちんと答えてくれた。
でも社さんには申し訳ないけどそんなにのんびりしてられない。



「……早めに終わらせるんで…終わったらすぐ帰らせてもらっていいですか?」



「えっ!?あ…あぁ…構わないが……なんかあったのか?」


明らかに動揺する彼に俺は笑顔を作った。



「…………雨でずぶ濡れになった子猫を拾ったもので……」


「えっ!?そうなのか?大丈夫なのか?一人(匹)にしちゃって」



さすが実家で飼っているだけあって親身に心配してくれている彼に謝りながら協力を仰ぐと快く引き受けてくれた。







おかげで俺は10時過ぎには帰って来れた。が、玄関扉を開けると中は真っ暗だった。

雨…止んでなかったのに……。

小さく落ち込みつつ玄関の明かりをつけると、もう無いと思っていた彼女の靴がきちんと揃えて置かれたままになっていた。


まさか、まさか…!?…。
はやる胸を押さえつつリビングの明かりをつけると、テーブルに突っ伏して眠っている彼女の姿があった。



この時の俺の顔は相当崩れていただろう……。


彼女にそっと近づくと開かれたノートは数学だろうか計算式などが書かれていた。
その上にシャープペンを転がして最上さんはスヤスヤと眠っていた。


しばらくその可愛い寝顔を堪能していたのだが。


「…最上さん?」


少し遠慮がちに声をかけても微動だにしない彼女の肩に触れると体が大分冷たくなっていた。


起きないのならひとまずベッドに入れてこれ以上体を冷やさないようにしないと…。


よいしょと、眠っている彼女を抱え上げた瞬間…何か違和感を感じた。
彼女の背中を通った腕に何か……足りない?気がした。

それが何かに気がついたのは彼女をベッドに仰向けに寝かせた時だった。


!?…………下着……つけてなくないか?



なんとなくわかる胸元のシルエット……腕に当たるはずの金具とか布の厚みとかがない……!?…。


ちょっとまて!なぜだ!?なぜそんなことに……。
本能が理性を押し始めた思考で必死に正解を探す。



雨に濡れた→下着まで→洗濯乾燥する→借りた服を着る→暇なので勉強する→眠くなる→寝ちゃった。


何とか理性が残っているうちに正解を導き出して大きく息をついて、リビングに戻るとテーブルにある彼女の携帯を取った。



最近、俺を連れて行ってくれる彼女の下宿先に電話をする。

きっと彼女の心配している事だろうし、せっかく外堀を埋めているのに不誠実な事はしたくない。



「…もしもし…LME事務所の敦賀 蓮です……はい、先日もご馳走様でした…………はい、最上さんですが、仕事が押して遅くなったので…………えぇ…はい…大丈夫ですよ……わかりました………はい、失礼します」


心配させないように上手く誤魔化しつつ電話を終えると、彼女の声が聞こえてきた。



「ぎゃあ!?わ、私寝て!?」



俺がゆっくりベッドルームに向かうと、起き上がり半分涙目で狼狽え、俺のベッドの上でブランケットを巻いて体を隠している彼女がいた。



「あ…目が覚めた?今、君の下宿先に連絡入れたから着替えたら送るよ?」


わざと優しく声をかけた俺を彼女は固まって見ていた。

ベッドに軽く腰を下ろし彼女のおでこに手を当てた。



「ん、熱はないみたいだな?……雨にうたれた上にリビングでうたた寝したらダメだろ?」



「す、すみません!!本当にご迷惑ばかり!!」



本心と悪戯心を織り交ぜた俺の言葉に彼女は何回も頭を下げるのを見ているうちについ顔が緩んできてしまった。

可愛くて、どうしようもない………。


もういいよっと言いながら、少し寝癖のついた彼女の頭に軽く手を置くと恥ずかしそうに顔を赤らめて彼女はうなずいた。


………やばい。帰せなくなる。
電話なんてしなきゃよかったか?

後悔しながらも彼女から離れる為、口実を考える。



「もう服も乾いているだろうから取ってくるよ」


そう言って立ち上がったた俺に彼女は急に俺の服を掴んで叫んだ。


「だ、ダメ!」



咄嗟の事に驚いて振り返って彼女を見た。
すると両手で服を握って俺を見上げる彼女の必死な表情と大きい為、よれたTシャツの襟周りからちらりと見える白い柔らかそうな彼女の膨らみ………。
全てにおいて俺は誘われている気分にさせられた。


とにかく…もう彼女を直視出来ず背を向けた。


「………そうだね‥君の服だし……着替えておいで」


何とかそれだけ言うと彼女は、「すみません…!」と小さな声を出してベッドから降りて脱衣場に走って向かって行った。



時刻は午前0時を回っていた。



たしか俺10時前に帰って来たはずなのに……。

彼女をどんだけ眺めていたんだ?俺………。



本当にヤバかった………。
もう少しで彼女はおろか『だるまや』のご夫婦まで裏切る所だった…。

気持ちを落ち着かせるように俺はコーヒーを入れる事にした。



着替えを終え出てきた彼女に声をかける。


「コーヒー…入れたから」


「あ…ありがとうございます………あの…本当にすみません…」



恐縮する彼女をちらりと見ると一瞬目が合い、俺は慌てて彼女から逃げるように視線を逸らした。

もう、限界だった。



「……飲んだら送るよ…」


そう言うだけで精一杯の俺に彼女もただ頷くだけだった。



別れ際、彼女は今日貸した服を洗って返すと言って帰って行った。







「蓮、子猫はどうした?」



次の日社さんは開口一番そう聞いてきた。



「…………昨夜の内に家に帰しました」



「なんだ…飼い猫だったのか?」



「えぇ……まぁ………そんなようなモノです…」


フーンと少し不満そうな彼は落ち込んでいる俺を見てにやりと笑った。



「でも、つい帰したくなくなるよな~自分で面倒見ちゃうと」



社さんの言葉に心臓が一際大きく跳ねる。



「そう……ですね……また、同じことがあったら……帰さないかも…しれませんね……」




俺がそう口にしたその時、昨夜の子猫が日の光をキラキラ反射させる雨が上がりの道をこちらに向かって歩いて来ていた。



社さんは彼女に気がついて駆け寄っている。



彼女の胸元に抱えた紙袋の中身は予想出来る……そして彼女の言葉も……。



さて、雨も止んでしまったし……次はもう…帰してあげられないかもよ?


子猫ちゃん?





end


《ぐはっ……………。もう…一人称はきつい。


蓮さんの雰囲気出せていたかも不安…。


気分は~シリーズをちょっとお休みしての雨宿り。


あまり雨が酷くならないことを祈って……》