†霧の孤城 4 | なんてことない非日常

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†霧の孤城 4




「蓮……気にし過ぎだぞ……」




直との初撮影を終え、キョーコを下宿先である[だるまや]で下ろし走り出した車の中で社は蓮を見た。



眉間にシワを寄せ不安げな雰囲気を社に悟られたようだった。



「………すみません…」



蓮は社に謝ると、キョーコの頬を引っ張った後の事を思い出した。







「……最上さん……直は……平気?」



昭島 直に対する集中力の凄まじいキョーコに一抹の不安を感じていた蓮の表情を読み取ったのか、キョーコが少し困ったように眉間にシワを寄せ笑った。




「大丈夫ですよ…」



「え?……」



「……私は大丈夫です……」



キョーコがそう口にしたことで、蓮達はキョーコも全てを知っていることがわかった。



「新開監督が始めに教えてくれました。昭島 直は毒が強いって……今までの美緒やナツとは比較にならないほど……そして以前、俳優さんが自殺未遂したことも…」



「未遂?!…」



スタッフ達の話と違うため蓮は少し困惑するが、新開の情報が正しいのだろうとキョーコに先を話すよう促した。



「………そんな曰く付きの作品でも映像にしてみたいんだと……監督生命をかけると新開監督は仰ってました……そんな思い入れの強い作品に参加させて頂けるなんて……光栄で…」



「そうなんだ!それでキョーコちゃん、迷わずOKの返事しちゃったんだ~」



今まで黙って聞いていた社がそう言って頷いたがキョーコからの返事が返ってこなかった。



「「ん?」」



蓮と社が同時にキョーコを見るとキョーコはバツの悪い顔をし、ま…まぁ……とだけ返事をした。







(…だって………)



キョーコは赤くなっていく顔を抑えながら部屋に戻り心の中で呟いた。



(即答で返事出来るわけないじゃない………昭島 直は二階堂 隼人を好きな設定なんだもの!…………敦賀さんの共演者キラー記録が止まりますように!)



部屋に入ったキョーコは窓際で祈るように胸の前で手を組んで夜空を見上げた。

キョーコの頭にはとにかくソレが自分の中で育たないように願う事しかなかった。








新開の言葉通り、キョーコの役は厳しさが日に日に増していった。



〔昭島 直は半年前の火災事故で死んだ古賀 麗子と容姿が似ていた。
そこで火事を生き残った直は麗子のふりをして古賀家の財産を全てせしめ、古賀家に関わる人物を全て亡き者にするため屋敷に呼び寄せたのだ。


『…麗子……生きていたんだな』


麗子の部屋に入って来たのは元婚約者の隈淵 恭祐(くまぶち きょうすけ)だった。
麗子に成りすました直は、盲目のふりをするため耳だけを恭祐に向けた。
途端、恭祐は麗子の腕を掴み麗子の豪奢なベッドに押し倒した。


「既成事実でも作れば…財産権は俺にも発生するよな」


そう言って恭祐は麗子の上に馬乗りになった。始め抗った麗子だが、麗子の服を弄った恭祐が驚愕の表情で麗子を襲うのを止め、ヨロヨロとベッドから床に崩れ落ちると麗子はニヤリと口の端をあげた。


『おっ……まえ!?あきっ!!』
恭祐がそう口にした瞬間、枕下に隠していた日本刀で一気に恭祐の首をハネた。


『あ~………ごめん…つい………お前嫌いだったからさ…』


麗子のカツラを取り、血飛沫がついた顔を拭うこともなく直は転がった恭祐の頭部に足を乗せ一笑に付した。






(((((こっ…こっわぁ~!!!!!)))))




CG処理などが終わり映像チェックした全員がキョーコの直に震え上がった。
そして、血糊を落としてきて蓮や社と話す麗子の格好をしているキョーコを見た。



「……本当に……差が凄いな…」




笑顔で話している麗子は可憐な少女で、見る者みなホンワカして見入ってしまうのだった。



「あ~とうとう俺、殺されちゃた~」



「すみません…貴島さん…」



ダーク・ムーンの時に共演した貴島 秀人が蓮と話していたキョーコに笑いながら絡んできた。



「元婚約者なのに殺されるの早いよね~…まぁ、回想シーンの時にまた出るからその時もよろしくね、京子ちゃん」



貴島はキョーコの手を両手で取りブンブンと勢いよく振った。

苦笑いをしながらも頷いているキョーコに内心イライラしながら蓮が貴島を引き離そうとした瞬間、新開がキョーコを呼んだ。




「直!来てくれ!!」



「あ…はい……」



キョーコがスッと蓮達の元を離れ新開の所へ行くのを全員、違和感のようなモノを感じながら見送った。



「なんか………変だよな…新開監督……」



貴島が言うことに蓮や社…その他、共演者やスタッフ達も同感だった。



撮影が進むに従って新開がキョーコを側に置く時間が長くなってきているのだ。
しかも必ず『直』と呼んで。
キョーコが麗子になろうと京子に戻ろうと…新開はキョーコを『直』として扱っていた。




「…蓮……なんか…まずい気がするのは俺だけか?」



社の言葉に蓮は胸のざわつきが酷くなる気がした。




「それじゃあ、シーン81二階堂が麗子扮する直に真実を話すよう迫るシーンだ…いいか~?」



位置についた蓮は麗子扮するキョーコがふぅ…と息を吐くのを見て気になったが新開の声で二階堂のスイッチを入れてキョーコと向かいあった。



スタートの声がかかり蓮と二言交わしたキョーコを見た新開が演技を止めさせた。



「直!違うだろ!!」



その瞬間、キョーコの体が大きく跳ね上がったのを蓮は見逃さなかった。


「………すみません…もう一度お願いします…」


そう言ったキョーコの瞳は完全に『直』が憑いていた。







「監督!一体…どういうつもりなんですか?!」




蓮は休憩になるなり新開につかみかかった。




「なにがだよ……蓮…」



蓮の剣幕にも素知らぬ顔をする新開に蓮はため息混じりに言葉を発した。


「最上さんですよ…役に憑かれ過ぎてるような気がするんです…」



「……それがどうした?そんなことはよくある事だろ?」



蓮は困惑しながら新開の意図を図ろうとしたがわからなかった。



「………それは……でも限度というものが………それに監督は無理に最上さんを『直』にしていっているように感じます……このままじゃあ…」



新開は蓮をチラリと横目で見た。



「昔のように『直』にとり殺されないかって?……お前でも噂を気にするんだな…」


「……………………」



蓮は気になっていた所を付かれ押し黙った。



「………そんなに心配なら…俺の案を受けるか?…蓮…」



新開はなにか企むようにニヤリと蓮に笑みを向けた。



「え!?」



蓮は新開の提案を驚きを隠せないまま受けるしかなかった。




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