《†鐘が鳴る……長いので、ショートストーリー(以後§で表示)なるものに初挑戦!…………ちゃんと伝わるといいんですが……他の方々ってすごい!……凹みながらも書き続けたら何かいいことあるかな?………う~ん……………》
§小さな悪戯
「お疲れ~蓮」
雑誌の取材を終えた若手No.1俳優、敦賀 蓮をマネージャーである社が笑顔で手招きして呼び寄せた。
「どうしたんです?」
記者の方に挨拶をしながら、ゆったりと歩いて社の所に来た蓮はにこにこする社に嫌な予感がした。
「んふふ~いいお知らせだぞ」
このパターンは……。
「聞きたいか?」
「……………いえ………俺で遊ぶつもりなら結構です」
憮然とした態度を見せた蓮に社は慌てた。
「じょ、冗談だよ…実はさっきキョーコちゃんから電話が来て、弁当作ってきたけどお前の携帯が繋がらなかったからラブミー部で待ってるってさ……仕事中は携帯切ってるって言ってあるから、今から行くって電話したら……………いない………」
いつからいなかったんだ?と社は一人で喋り続けていたことの恥ずかしさを超える驚きにしばらくその場に立ち尽くしていた。
社が得意満面になってきた「仕事中は~」辺りからキョーコの待つラブミー部室へと向かっていた蓮はあっという間に部屋の前に着いていた。
もちろん先に電話もメールもしていない。
たった一週間ぶりの弁当をもらうだけの短い時間に心踊るなんて…自分自身の行動に笑みをこぼしながら、ドアを三回ノックする。
「…………あれ?」
何の返事もない。もう一度小気味良い音を三回鳴らす。
だがやはり返事がない。もしかして入れ違いになったのか?と思いながらもドアノブに手をかけ中を確認する為覗き見た。
(…………どうりで返事がない訳だ)
会議室用の長机の上に突っ伏してすやすやと寝息を立てるキョーコを見て、一つ息をついた。
そしてゆっくりとキョーコを起こさないようにドアを閉めると蓮は、眠っているキョーコの傍らに立った。
気持ち良さそうな表情に蓮の顔も綻んでしばらくそれを堪能した。
(…………さて、名残惜しいけど……次の仕事もあるし………お弁当は……)
最初の目的である物を蓮は辺りを見回して探すと、キョーコが伸ばしている手の先に見慣れたお弁当包みがあった。
「最上さん、いただいていくね」
お弁当を手にした蓮が小さめの声でそう囁くとキョーコが少し動いた。
「…………つ………るが……さ」
小さく寝言で名前を呼ばれただけなのに、こんなに愛しい気持ちとそれを抑え込むジレンマを感じたことが無かった。
蓮はこのストレスを急激に発散させたくなった。
周りを見渡し何かを見つけるとキョーコの顔を見て楽しそうにほくそ笑んだ。
「ん………うんん~!」
キョーコは自分の頭が乗っていたため痺れてしまった腕を大きく伸ばす。まだ覚めきらない表情で辺りを見渡すと、蓮に渡すはずだった弁当がなくなっているのに気づいた。
「……あれ?……私……!!」
壁にかけてある時計を見てキョーコは驚愕した。
(や、社さんに電話をしてから一時間以上経ってる~!!!…も…もしかして敦賀さん私が寝ている間にお弁当取りに来てくれたんじゃあ………き、きっとあまりの爆睡に呆れて……!!)
ガタッと座ってた椅子を倒す勢いで立ち上がったキョーコは、
はぁ!!すみません、すみません!先輩を呼び出しておきながら寝てる不埒な後輩ですみません!と何度も頭を抱えエアー敦賀 蓮に謝っているとそんなキョーコの目の端に黒い物がかすめた。
「?………?!」
それはキョーコの片腕に書かれたマジックの文字だった。
『眠り姫へ、有り難くいただいていきます。証しにサインを残しておきました』
「こ、こんな恥ずかしい文章を残していかないで~!」
キョーコは全身を身悶えさせ、無駄だと思っていても手のひらでその字を拭うと、字はあっさり滲んでかすれた。
「…あ、あれ?……油性…じゃなかった……」
不意を付かれたように呆然とするキョーコの目に机の上に転がっていたホワイトボード用のマジックペンが映った。
「も~……本当に敦賀さんって……」
いじめっ子よね!と怒りながら、ウエットティッシュで腕に書かれた字を消していると別口の仕事に出ていたラブミー部員、琴南 奏江が戻って来た。
「!!モ~子さぁん!!」
キョーコはいつものように飛びかかろうとすると奏江は驚愕の顔をした後、吹き出した。
「あ、あんた!なにそれ~」
「?」
キョトンとしているキョーコに奏江は笑いを堪えながら手鏡をカバンから取り出し、目の前に差し出した。
「!!!!!!??なっなにこれ~!!?」
キョーコの左の頬中央に先ほどの腕に書かれたように黒い文字で敦賀 蓮のサインがくっきりと書いてあった。
「あっ、蓮!帰ってきたか」
社は手帳を閉じると一階ロビー脇にある椅子から立ち上がった。
「すみません…社さん…時間、間に合いますか?」
「その弁当を向こうの控え室で食べるならな」
社の言葉にもう一度謝ると、蓮はポケットから出した物を社に渡した。
「これも預かりぱなしで…すみません」
社はそれを受け取り一瞬呆けたがしばらくしてあぁ~と頷いた。
「これ、この間俺が貸した油性マジックか…」
「えぇ、助かりました」
「なんでお前が礼言うんだよ、ファンの子がマジック持ってなかったから貸したやつだし」
気にするなと言う社に蓮は楽しそうに頷いた。
「いきましょうか」
そう言って蓮は事務所の駐車場に向かう。きっとこの後、猛烈な勢いでかかってくる電話を楽しみにしながら。
end