18.ホラティウスの名言『今日を楽しめ』
「カルペ・ディエム」[Carpe diem]
今からもう五年以上前になりますが、某旅行会社のイタリアツアー
に参加した時のことです。最終日はローマ市内の自由行動で、
筆者はコロッセオとフォロ・ロマーノなどを見学しました。
フォロ・ロマーノは約2000年前の古代ローマ遺跡で、世界遺産に
指定されています。
「フォロ・ロマーノ=ローマ市民の広場」という意味で、
政治・宗教の中心として栄えました。
有名なユリウス・カエサルが演説をし、歴代皇帝たちが各地の戦争から凱旋した場所でもあります。現在は当時の壮大な神殿や凱旋門などの建築群の基礎や柱の一部しか残っていません。
それでも2000年前とは思えない高度な建築技術を偲ぶことができます。
写真は、当時の政治の中心地であった「元老院議事堂」です。
ユリウス・カエサルが再建し、アウグストゥス帝が完成した建物です。
アウグストゥスは、英語の8月(August)に名を残すローマ帝国の初代皇帝です。(在位:紀元前27年 - 紀元14年)
暗殺された養父カエサルの後を継いで内乱を勝ち抜き、地中海世界を統一して帝政(元首政)を創始、パクス・ロマーナ(ローマでの平和)を実現しました。
そして今回の名言の主人公のホラティウスは、このアウグストゥス帝と同時代の人物で、ラテン文学黄金期の詩人です。
『今日を楽しめ』
とは、今日を摘み取り手に入れよ。今日を楽しめ、現在の機会を
逃すなと彼の抒情詩集(第一巻11-8)の中の言葉です。
ホラティウスの詩は、時に皮肉たっぷりに、時に繊細な感覚と機知に富んだ名句を多く含んだ魅力的なものです。
人生の真実の一面をズバリと言い当て、はっとさせられることが
あります。
この詩もただ単にその日を享楽的に生きればいいといった意味ではなく、その日一日を大切に、しかも楽しんで生きなさいという積極的な
意味を持たせた言葉でしょう。
同じ作者の句というか、詩論の中の
『有益と愉快を混ぜ合わせる』という語句も有名です。
昨今のテレビの娯楽番組の低劣さ、見るに値しないレベルの低さ
には閉口しますが、2000年前のローマにも同じような意見や批判があったようです。
といっても当時はテレビはなかったので、対象は演劇や詩ですが。
老年のローマ市民は、筆者のように笑いだけをさそうような徳育(有益)に欠けるバカバカしい作品には反対でした。
若い人はまじめ一方の劇など見向きもしません。
「有益と愉快を混ぜ合わせることに成功した詩人があらゆる人の承認をかちうるのです」と、ホラティウスは述べています。
まあ、この匙加減をどうするかで創作者の能力、評判が
決まるというのが、真理のようです。
ホラティウスの生涯
クィントゥス・ホラティウス・フラックス( Quintus Horatius Flaccus)
紀元前65年12月8日生誕 - 紀元前8年11月27日死去
[ホラティスの肖像](Wikipediaより引用)
ホラティウスは南イタリアのウェヌシアに解放奴隷の子として生まれます。ローマで中等教育を受けてからアテネに渡り、アカデメイアの学園に学びました。
おりからカエサル暗殺後(紀元前44年)の内乱がギリシアに波及すると、共和政派ブルートゥスの陣営に加わります。
軍団司令官の一人としてフィリッポの野に戦い、アントニウスの軍に敗れました。ホラティウス23歳の時のことです。
この後、ホラティウスは恩赦を受けてローマに帰還しますが、当然全財産を没収されてしまいます。
下級官吏の職を手に入れて生計をたてるかたわら詩作を始め、同じ詩人のウェルギリウスらと親交を結びます。
ホラティウスはウェルギリウスのことを「わたしの魂の半分」と呼ぶほど、二人の結びつきは深いものでした。
持つべきものは友です。彼らの推薦で文人保護者マエケナスの知遇を得ます。
ホラティウスは、永い内乱と国民の道徳的退廃を嘆き、一時は政治に絶望していましたが、しだいにアウグストゥス帝の政策に共鳴するようになります。
アクティウムの海戦(紀元前31年)のころから新体制をたたえ、国民に道徳的覚醒を説くようになります
紀元前17年にアウグストゥスが挙行した「世紀の祭典」には名誉ある桂冠(けいかん)詩人に選ばれます。
彼は、洗練されたことばと巧みな構成でよって、神々、アウグストゥス、友人たち、酒、、人生の移ろいやすさ、死など多彩なテーマを歌っていきます。まさに押しも押されもしない、当代一流の詩人としての栄誉を手に入れるわけです。
さて、いつもの構成でしたら、ここでホラティウスの命式を算出し、彼の性格や人生を読み解くところです。しかしながら、筆者の知る中では、紀元前の干支を導き出す暦がありません。
ということで、残念ながら今回はホラティウスの命式解読はありません。(個人的には、彼の何ものにもしばられず、多くの人に愛される生き方から『食神格』の人物ではないかと思いますが、あくまで推測です)
最後にホラティウスの名言を再掲します。
『今日を楽しめ』