"今どきの若い者は・・・” という言葉は、私のような年寄りが若い人たちをとやかく言う時の決まり文句です。その自分も数十年前の若い頃に、”今どきの若い者は・・・” と言われたくせに、ついつい口をついて出そうな言葉です。

 

 

 しかし、先週私は ”今どきの若い者はすごい” ”こんな若者がいたのか” という経験をした。

 

 

 本日はその話です。

 

 

 さて、我が国のラグビー最高峰リーグ 「ジャパンラグビー リーグワン」 は1月に開幕したものの、選手がコロナに感染したうえに濃厚接触者が多数出て、チーム編成が難しいとして毎週試合中止が相次いだ。

 

 

 そうしたなか、先週末の試合は初めて全試合が予定通り開催された。私は1部にあたるディビジョン1の試合を見た後、2部にあたるディビジョン2の 「三菱重工相模原ダイナボアーズ 対 釜石シーウェイブスRFC」 の試合をテレビで観戦していた。

 

 

 試合は 68対14 でダイナボアーズが圧勝したが、観戦し始めてすぐ解説者の直江光信さんとアナウンサーが、盛んにレフェリーについてコメントしていることに気付いた。

 

 

 よく聞くと、レフリーを褒めているのだ。

 

 

 「・・・20歳になったばかりとは思えない」とか、「キビキビとした素早い判断ですね」とか、「堂々としていますね」 といったお二人の称讃の声が流れているのだ。 

 

 

 私はすぐスマホでこの試合のレフリーを調べた。

 

 

 『 レフリー 古瀬健樹 』 とあった。

 

 

 古瀬?聞いたことあるなあ・・・と考えていたら、「まだ現役の大学生で・・・」 とテレビから流れてくる。

 

 

 「あの古瀬君か! えっ、もうリーグワンで笛を吹いているのか!」 とびっくりした。「小学6年生の少年が、高校野球の公式試合の主審をつとめている」 と聞いたような驚きだった。

 

 

まず、「ジャパンラグビー リーグワン 2022 オフィシャルファンブック」 のレフリーパネルに紹介された、古瀬君のプロフィールをご覧ください。 

 

 

 

 

 

 レフリーパネルに掲載されたリーグワンの主審を担当するレフリーの人数は17名。古瀬君は4段目の左端に掲載されている。古瀬健樹君は、日本ラグビー協会の主催する2021年度の全試合の主審を担当できる 「A級公認レフリー」 30名のうちの一人なのだ。

 

 

 

 

 

 もう少し詳しく 「古瀬健樹(ふるせ かつき)君」 のことを紹介しておこう。

 

 2002年1月25日生まれの20歳。福岡県の大宰府に近い大野城市の出身。西日本新聞によるとラグビーは東福岡自彊館(じきょうかん)中に入学して始めた。3年時に主将として九州大会に出場するも3位。中高一貫のラグビー強豪校・東福岡高校にそのまま進むも、勉強との両立を考えラグビー部には入部せず、レフリーをめざす道を選んだ。しかし、ラグビー部の練習試合やゲーム形式の練習では、レフリーとして参加しラグビー知識とレフリー技術を磨く。

 

 レフェリー受験資格は学生を除く18歳以上が対象だが、古瀬君は九州協会の推薦を受け、16歳の夏にあったB級レフェリー認定講習会に合格、特別に認められた。大学は早稲田大学商学部に進み、ラグビー部にレフリーとして入部。レフリーとして体力強化とスキルの研鑽を重ねている。昨年10月A級レフリーの資格を取得。目標は 「ラグビーW杯で笛を吹くこと」。今までW杯で主審をつとめた日本人は、1995年の齋藤直樹さんだけだ。

 

 

 

( 写真は早稲田大学ラグビー部のHPからお借りしました。さわやかな笑顔がいい。)

 

 

 

 私が 「えっ、もうリーグワンで笛を吹いているのか!」 と驚いた理由を、挙げておこう。

 

 

・A級レフリーの平均年齢が35歳前後だから、先月20歳になったばかりの古瀬君は、”とてつもなく若いA級レフリー” であること。

 ~選手との年齢比較をみても私が知る限り、現在リーグワンに出場している選手の中で、古瀬君より年下の選手は一人だけだ。その一人というのは、2002年4月生まれ19歳の東芝ブレイブルーパス東京のワーナー・ディアンズ選手。私が住む柏市の流経大柏高校出身だ。

 

 

・現役の学生レフリーが、我が国の最高峰リーグ「リーグワン」の主審を務めているという事実。

 ~調べた訳ではないが、プロ野球やサッカーのJリーグ、バスケットのBリーグで、現役の大学生が主審をつとめているという話は知らない。

 

 

・古瀬君のラグビー選手としての経験は中学校までで、高校・大学でのプレー経験が無いこと。

 

 

 

 

 また 「あの古瀬君か!」 と書いたが、彼は早稲田大学ラグビー部に 「レフリー」 として在籍し、練習試合等のレフリーをつとめながら選手たちと一緒にその技量を磨いている。私は同大学の大ファンだから、HPで時々メンバー(部員)のページを開く。だから古瀬君のことも知っていたのだ。今年度は4人の部員がレフリーを目指し練習に励んでいる。

 

 

 

 まだまだラグビーになじみのある人が少ない中で、ラグビーの試合をさばくレフリーの役割や大変さを知る人はもっと少ないだろう。専門家でもない私が分かりやすく伝えられるか自信はないが、その難しさをいくつか挙げてみよう。

 

 

<強いフィジカルが求められる>

・体力面、フィジカル面では、サッカーのレフリーに近い。バレーボールやテニスのように決められた場所にいて判断する訳ではない。サッカーほどではないが、1試合で7、8㎞走るらしい。ラグビーではゲーム中にリスタートする場合、スクラムやラインアウトというプレーが多く、さらに攻撃でもモールという押し合いのプレーがあるから、そのプレーの前後ではレフリーも走る必要はなく少し休める。

 

 

( サッカーと変わらない大きな広いフィールド。サッカーは11人×2の22人、野球は満塁の場合でも9人+4人の13人の選手を審判はみる必要があるが、ラグビーは15人×2の30人の選手をみる必要がある。)

 

 

( スクラムのタイミングを合わせる古瀬君。黄と黒のユニフォームがよく似合う。プレーする選手は全員、彼より年上だ。)

 

 

( ラインアウトをコントロールする古瀬君。)

 

 

 

<難しい判断を的確に迅速に下すことが求められる> 

・まず、競技ルールを知っていることは当然のこととして、実際の試合となると難しい判断を求められる場面がラグビーには多い。ラグビーは自立していない、すなわち自分の足で立っていない選手はプレーしてはならない。つまり相撲でいう ”死に体” の選手はボールを離さないといけないのだ。自立しているかどうかの判断が難しい。ジャッカルと呼ばれる相手のボールを奪い取るプレーでは、その判断が求められる場面が多い。

 

 

・またラグビーはサッカーと異なり、ラックやモールと呼ばれる状況では、複数の選手でボールの奪い合いをする。モールなどでは7、8人の塊り同士で押し合いながらプレーするので、その状況をひとりの主審が、よく見て正しく判断することは大変な作業である。もちろん2人いる副審からも反則行為があったら伝えられる。しかし、レフリーからは見えにくい場所での反則を見逃さないためには、プレーの邪魔にならないで、しかもボールがよく見える場所への素早い移動や、位置取りが重要になってくる。ここでも走力や判断力が求められる。

 

 

・加えて、ラグビーではボールは前方へはパスができない。またラインアウトのボール投入は、並んだ両軍の間に投げないといけない。またラックやモールと呼ばれるプレーでは、その密集に参加する選手は真後ろから入らないと重い反則となる。言い換えれば、ラグビーのレフリーはパスが前方ではなかったか、ボール投入が曲がっていないか、密集へ横から入っていないか、ボールより前に位置していた選手が前に蹴られたボールを追いかけていないか・・・・・等を瞬時に判断しないといけないのだ。

 

 

( ラック、すなわち地面にあるボールの奪い合い。周りの選手は後ろから後ろから争奪戦に参加しないといけない。)

 

 

( 倒れている赤の選手が持っているボールを、自立した緑の選手がジャッカルしている場面。赤の選手が倒れていながらボールを離さず、ノットリリース・ザ・ボールのペナルティを、古瀬君が宣告した場面。)

 

 

 

<語学力が求められる>

・リーグワンの選手には海外から参加している選手が多い。古瀬君がレフリーをつとめた先日の試合でも、先発メンバーの半分はカタカナ名の選手だった。しかも彼らはどのチームでも主力の選手たちで、ボールを持つ回数も多い。当然のことながらレフリーは英語も交えて試合をコントロールしないと、リーグワンの試合は進まない。反則と判断したプレーの指摘と説明、反則になりそうな場面での注意、反則しないための指導・・・古瀬君はすべて英語でハッキリと伝え、海外選手とのコミュニケーションを取っていた。

 

 

( この試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたダイナボアーズのマイケル・リトル選手。彼の父は元オールブラックスだった。古瀬君は彼とも和やかにコミュニケーションを取っていた。)

 

 

 

 古瀬君の「リーグワン」デビューとなったこの試合のTV放送の中で、さかんに解説者とアナウンサーが彼を褒めていたと最初に書いた。その中で解説の直江さんが言った2つのことが印象に残った。

 

 

 ひとつは  

 

「今日はTMOが1回も無かったですね。担当の谷口さんもヒマだったでしょうね」

 

 TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャルの略)とは、いわゆるビデオ判定のことだが、1回も無い試合は珍しい。トライかどうか判断が難しいプレー、反則の疑義を持たれそうなプレー、退場や一時退場に相当する乱暴なプレー・・・・・等が少なかったということになる。もちろん古瀬君が主審をつとめたこの試合は、ダイナボアーズの一方的なゲーム展開でTMOにかけるプレーが生まれる下地も小さかったが、そうしたプレーを古瀬君が的確にジャッジしたということも言える。

 

 

 もう一つはその試合をよく表現したコメントだった。

 

 「選手もストレスなくプレーしていることが、よく伝わってきた試合でした。」

 

 古瀬君の公平な判断、正確なジャッジ、十分な選手とのコミュニケーション・・・・・等が選手にストレスを与えず、プレーに専念させていたといえるだろう。外国人選手も反則を宣告されると、苦笑いを浮かべながらもすぐ引き下がり守備位置にもどる風景が何回もあった。

 

 

 

 そして、選手がイライラせずストレスなくプレーし、素晴らしいプレーを見せてくれれば、そしてTMOによるプレーの中断が無ければ、スタンドやテレビで観戦している我々も、気持ちよく楽しめる試合になることを教えられた試合だった。

 

 

 

( ダイナボアーズの選手のトライを宣言する古瀬君。)

 

 

 

 もちろん先輩レフリーやラグビー協会の関係者から見れば、古瀬君の主審ぶりには、まだまだ多くの勉強してほしい点、改善してほしい点もあったのだろう。

 

 

 しかし、古い言葉で申し訳ないが ”弱冠20歳の若者” が、全員自分より年上の選手に囲まれ、世界の舞台で活躍してきた外国人選手も交じる試合を、鮮やかにスピーディに裁いて、試合をコントロールしていく・・・いいものを見せてもらった1日となった。

 

 

 

最後にこのブログを書きながら、74歳にして初めて知った言葉を書いて締めくくろう。

 

 

『後生 畏るべし (こうせい おそるべし) 』  (論語)

 

”若い者は、将来、どこまで伸びていくかわからないほどの可能性に満ちているということ”

 

 

 

 

 

 

 

(付録)

 

 ~古瀬君と同じく、今年のリーグワンの主審をつとめるA級レフリーの 「蒲牟田 卓 (かまむた すぐる)」さん。現在の勤務先がなんと私の母校・鹿児島県立加治木高校とあった。単純に嬉しい。勤務の都合もあるので、遠方となる東京地区で笛を吹かれることがあるのか分からないが、蒲牟田さんのレフリー姿を見てみたいものだ。

 

 ~母校のラグビー部は、数年前から部員の減少で合同チームでの出場となった。2021年度の県予選は1回戦で敗退。しかし、すぐ近くにある県立加治木工業高校は強くなった。残念ながら、昨秋の県予選決勝で鹿児島実業と対戦したものの、6対49で敗れ花園には出場できなかった。