このブログでは、時間がタップリあるリタイア生活の中で、よく視聴するテレビ番組の紹介を何本か投稿してきた。

 

 

 

「日本縦断 こころ旅」(NHK・BSプレミアム)、「じゅん散歩」(テレビ朝日)、NHKの連続テレビ小説では、「ひよっこ」(2017年度上半期)と現在放送中の「エール」などだ。その他で最近取り上げたのは、BSテレ東「ワタシが日本に住む理由」、NHK・BSの「駅ピアノ・空港ピアノ」やテレビ朝日の人気番組「ポツンと一軒家」などがある。

 

 

 

そして昨年あたりから毎週欠かさず視聴しているのが、週1回放送で30分番組のNHK・BSの 「ガイロク」 だ。 ガイロクとは街頭録音の略だ。 (NHKBSプレミアム  毎週月曜日午後11時15分から30分間  再放送は毎週日曜日午前9時28分から30分間)

 

 

 

 

 

 

 

 

この番組を始めて見た時、つい見入ってしまったのにはもうひとつ理由があった。

 

 

 

インタビューしている場所が、昔勤務した銀行の銀座支店の真ん前だったからだ。私は30歳代の後半この支店に3年程勤務していた。銀座の交差点のすぐ近くだが歩道の幅も広いので、歩道の脇でマイクを向けていても通行の邪魔にはなりにくいのだろう。

 

 

 

収録をしている場所は、その銀座4丁目のほか、有楽町界隈、そして私たち家族が5年間ほど住み毎日のように出掛けた杉並区高円寺の商店街もよく選ばれる。また最近は大田区の蒲田商店街でのインタビューも多い。

 

 

 

銀座や有楽町で収録した 「ガイロク」 を見ていて感じるのは、けっこう地方から上京してこられた人のお話も聞けることだ。東京でのイベント参加や娘の出産の手伝い、子供家族との交流といった理由で上京された方々が多い。

 

 

 

( 歩行者天国の日だろうか。銀座4丁目の車道でインタビューの声掛けをする様子。)

 

 

 

 

ちょっと話はそれるが、おぼろげな記憶だが、昔のNHKのラジオ放送で確か 「街頭録音」 という名称の番組があった。調べてみたら戦後すぐ1945年の9月から市民参加のインタビュー番組として始まっていた。翌年の5月に 「街頭録音」 という番組名に変更され、1958年(昭和33年)まで続いた番組だったらしい。私が小学5年まで放送されていた番組だったことから記憶に残っていたのだろう。

 

始まった経緯を読むと、GHQの命令で 「特定のテーマで一般市民の自由な意見を放送する」 ことになったとある。特定のテーマというのは、戦後すぐということもあり社会問題が中心で、「戦災孤児・越冬対策・電力問題・・・」といったテーマで放送されたほか、「新憲法」や「官公吏に望む」といったテーマもあったようだ。

 

 

 

 

現代の 「ガイロク」 のテーマは、「人生の最大のピンチ」 「どん底からの脱出」 「我が家のハプニング」 など、個人の人生や暮らしの中で起きた出来事に関するものだ。

 

 

 

番組の概要を知っていただくために、NHKの番組紹介文を転記しておこう。 

 

『 街頭録音、略して「街録」。

街ゆく人々の”リアル”な声から、人生を学ぶ!

人生のピンチやハプニングとどう向き合い、乗り越えてきたのか?

その経験から得たものとは・・・。

山あり谷ありも人生に生きる勇気が湧いてくる!』

 

 

 

 

今週7月29日の放送は、次の4つの物語だった。

 

 

① 叔父の病をきっかけに障がい者のための施設を作った男性。父や親戚の反対を受けながらも頑張れたのは支え続けてくれた妻の存在。今伝えたい感謝・・・。

 

② 浪人中の息子に、夕飯を一緒に食べることで寄り添い続けた母の思い。

 

③ アメリカの音楽大学在学時に、突然ミュージカルの演奏者の代役に選ばれた男性。試練と向き合い乗り越えた先に・・・。

 

④ 母が病に倒れたとき、離れ離れに暮らしていた兄弟が集結。母が残してくれた家族の絆とは・・・。

 

 

 

30分で4つの話を紹介する番組だから、ひとつひとつの話はそれほど長い訳ではないのだが、けっこう中身の濃い話が多く引き込まれる。そしてスタジオでは、その映像を見た2~3人のゲストが短くコメントする。

 

 

 

今週のコメンテーターのひとり、お笑いタレントの東貴博(アズマックス)さんが、④の話が終わった時にしてくれた話が面白かった。

 

 

 

 

 

 

1988年彼が18歳の時、父でコメディアンだった東八郎さんが急に亡くなった時の話だった。葬儀が終わってしばらくしてから、母が言った。 

 

『これからはお母さんのことを ”パマ” と呼びなさい』

 

「父親の代わりもするよ」 パパとママの両方の合成語で自分のことを呼びなさい・・・・・という母親の決意というか覚悟を聞いて、5人兄弟の上から2番目だった彼は、それからシャンとした生活を始めたという・・・・・

 

 

 

「家族の死というものは、残された者にやはり大きな変化をもたらすものなんだなあ」 とあらためて教えられた。

 

 

 

もうひとつ東貴博さんの話というかつぶやきが印象に残った・・・・・

 

 

「あの銀座を楽しそうに歩いている人にも、大変な時期があったのだなあと思うと・・・・・」

 

 

 

人生のピンチといった出来事にぶつかると、なぜ自分だけが・・・・・なぜ今、こんな目に合わないといけないのか・・・・・と思いがちになる。しかし、街を何の心配事もなく幸せそうに歩いているように見える人にも、それぞれ ”人生のピンチ” があったのだということを、この 「ガイロク」 は教えてくれる。 この東さんのつぶやきこそ、この番組が一番伝えたかったことではないかと私は思った。

 

 

 

 

また、この番組を見ていて思うことは、いきなり街中でマイクとカメラを向けられて、よく個人的なお話を、それもつらい思い出が多いのだが、ここまで話していただけるなあ・・・・・ということだ。また短い言葉を掛けながら、辛い思い出話を引き出し掘り下げていく聴き手の女性のスキルもすごいなあ・・・・・といつも思います。

 

 

 

インタビューを受けている話し手はなんの飾りもなく淡々と話し、聴き手であるインタビュアーは最小限の声掛けと相づちで話を進めていく、そしてスタジオのコメンテ―ターの皆さんも、過度な反応や上から目線の人生論をぶつ訳でもなく・・・・・30分間が穏やかに流れていく・・・・・

 

 

 

と思いながらネットで検索していたら、「ガイロク」 のインタビュアーの話が載っていました。この番組制作を請け負っていると思われるクリエイティブネクサス社の佐藤さんという女性ディレクターでした。昨年2019年7月の記事ですが、私がこの番組の良さを書くよりも、佐藤さんの話がこの番組の素晴らしさのすべてを包含し、その源泉を示していると思いますので、そのまま転記させてもらいます。

 

 

 

佐藤さんの話の中に、今日のタイトルに書いた 「”人の人生を聞く”を考える」 の答えもあるからです。

 

 

 

 

 

 *******************************************

街で「人の人生を聞く」というコト。

 

私は、NHK BSプレミアム 「ガイロク(街録)」 という番組を担当しています。街で偶然出会った人々に人生のエピソードを伺うという内容です。

 

 

「街録って、大変そう…」と思う方がいると思いますが、「おっしゃる通り、とっても大変です。」
暑い日も寒い日も街角に立ち続け、声をかけ続けても、なかなか止まってもらえない、立ちっぱなしなので、足はパンパン…まるで修行みたいです。

 


でも、それ以上に得るものがたくさんあって、何よりどん底だった私を救ってくれた恩人のような番組なんです。

去年、個人的にピンチなことがあり…(説明するとすごーく長くなるので割愛しますね) まあ、完全にディレクターとして自信喪失中でした。
そんな時、プロデューサーから 「人生最大のピンチというテーマでインタビューするから、佐藤 行ってみる?」 という感じで、ピンチな私はロケにでることになったのです。

 

 

「こんな私に人生の話なんてしてくれるんだろうか…」 何もかもが駄目だと思っていた私は、はっきり言ってポジティブな気持ちにはなれませんでした。声をかけても 「時間がない」 「仕事中なんで」 「大丈夫です」 「……。(無視)」  50人くらい声をかけ続け、「いいですよ」 と言われ、飛び上がるほど嬉しかったのを覚えています。

 

 

「あなたの人生最大のピンチを教えてください。」

その人が話してくれたのは、「突然病に倒れ、将来に絶望した」 という経験でした。経緯や当時の状況、その時の気持ち…目に涙を浮かべ話す彼女の姿にインタビューのことを忘れて夢中になって話を聞いていました。
気づいたら50分近く時間が経っていました。
彼女がつらい経験を乗り越えて、前を向いている姿に、「人間の強さ」 を感じ、「私のピンチって全然たいしたことないじゃない。私も頑張んなきゃ。」 と答えをだせず同じところをぐるぐる回っていた私が、少し前を向くことができたのです。

 

 

「ありがとうございました。」

話し終わった彼女は、晴れやかな笑顔で去っていきました。
つい数分前には、目に涙を浮かべていたというのに…。その姿に 「話を聞く意味」 を考えさせられました。
もしかして、「見ず知らずの人に自分の過去を話すこと」 で気持ちが楽になるのではないか。「相手に寄り添い話を聞くこと」 が、ちょっとかもしれないけど、その人の役に立つのではないか…。

 

「私が街角に立ち続ける理由」

そんな思いを抱えながら取材をしていたある日、子供を突然亡くしたお話をしてくださった方がいました。正直、「この話を聞き続けていいのだろうか、聞くことで相手を傷つけてしまったらどうしよう…」 と一瞬怖気づきました。でも、話してくれている人は、もっと勇気がいると思ったんです。だから怖気づくなんてもってのほか、その言葉の一つ一つを大切にしたいと思いました。

放送後、その方からお手紙を頂きました。番組の感想とともに 「ありがとうござました」 と添えられていました。その言葉が、私がやっていることを肯定してくれたように思えました。
まだ、「話を聞き続ける意味」 の結論は出ていませんが、これからも話を聞き続ける覚悟ができました。
そして、みなさんが勇気を持って話してくださった大切な言葉を視聴者に届けることで、私が励まされたように 「明日も頑張ろう」 と思ってもらえたらと思っています。

 

最後になりましたが、
テレビのお仕事は、思っているより大変かもしれません。


でも、これだけは言えます。


私は、この 「ガイロク」 という番組を通じて、いろいろな人と出会い、話をすることで、自分も成長できました。本当にこの番組に出会えてよかったし、携われていることが幸せです。

 

…そんな経験できるのは、この仕事の醍醐味かもしれません。

 

 

 

**************************************

 

 

 

今回のブログは写真も含め、NHKの記事や佐藤ディレクターの話を転記しただけの投稿になりました。しかし、この番組の良さを上手く伝えられなかった私のモヤモヤ感を、佐藤さんは見事に整理してくださいました。

 

 

 

今までこの番組をご覧になったことの無い方で、一度見てみようかなと思われた方は、ぜひ月曜日の夜か日曜日の午前中に見てみてください。

 

 

 

( 近くの公園を歩いていたら、くちなしの花の香りが流れてきました。ああ、もうそうした季節か・・・・・)

 

 

 

 

半年近くになるコロナ禍の影響で、「ガイロク」 の収録も現在は中断しているようです。今は再放送やリモートで話してもらう形で放送されていますが、何度聞いても引き込まれます。はやく街中に人が戻り、佐藤さんのインタビューに答えてくださる方々のお話を伺いたいと願っています。