アフガニスタンからの悲報は、突然届いた。

 

 

 

 

パキスタンやアフガニスタンで、医療、井戸掘り、灌漑用水路建設、農地復興等の分野で、30年間献身的な活動を続けていた中村哲さんが、いつものように建設現場に向かう途中で襲撃され亡くなった。

 

 

 

私は3年前の2016年3月に、『 中村哲さんの著書 「天、共に在り」 を読んで 』 というブログを投稿した。

 

 

 

誕生月が半年違うだけのまったく同世代で、学部は違うが同じ大学の同じキャンパスで学んだ中村さんのNGO活動には、昔から関心を持っていたからだった。そして、若い頃の精神的な成長過程に影響した考え方や人物に共通したものがあり、勝手ながら親近感を抱いていた。

 

 

 

 

「中村哲医師、死亡」のニュースが流れてから、その3年前のブログに多くの方がアクセスし、読んでいただいている。

 

 

 

少し補記して、再投稿することにした。

 

 

 

 

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<2016年3月4日投稿ブログ>

 

(注:黒字は香椎はやとの所見、紫色の文字部分中村哲さんの著書からの引用です。)

 

 

 

 

娘の婿さんから勧められて、中村哲さんの「天、共に在り」を読んだ。

 

 

 



 

中村さんは1946年9月生まれ、私は半年遅れの1947年3月生まれである。学部が異なり面識はないが、同時期、福岡市の同じ大学で学んでいたこともあり、彼のパキスタンやアフガニスタンでの活動については、特別な関心を持って見聞きしていた。

 


 

また、医学部を卒業して医者になりながら、なぜアフガニスタンでの井戸掘りや灌漑用水路建設に、取り組んでいるのかを知りたいと思いつつ、そのままになっていた。加えて、その後、彼がクリスチャンであることも知り、私も学生時代は福岡市の香椎という街で、キリスト教会活動に一生懸命だったことから、いつか彼の思いや、行動の原点を知りたいと思っていた。

 


 

「天、共に在り」は、2013年に出版されているが、彼の生い立ちや現在のアフガニスタンでの活動につながる人たちとの出会いや思い、そして30年にわたる現地での活動から彼が感じたこと、与えられたことを、よく伝えてくれる著書であり、私がが知りたいと思っていたことに対し、ほとんど答えてくれた。

 

 

 

九州大学医学部卒業後、国内の診療所勤務を経て、1984年にパキスタンのペシャワールに赴任、貧困層の診療に携わる。1986年からはアフガニスタン難民の医療支援を開始するも、2000年からは診療活動とあわせて、同地が大旱魃に見舞われたことから、井戸掘削、地下水路復旧にも携わる。著書の中には井戸掘りに取り組んだ理由として、「実際、病気のほとんどが十分な食料と、清潔な飲料水さえあれば、防げるものだったから」とある。最終的には1,600本の井戸と、25kmにも及ぶ灌漑用水路を建設、砂漠を緑化し、アフガニスタンの農民の帰郷定住を可能にした。

 

 

中村さんとその活動を支える国内の支援団体は福岡市内に事務局のある「ペシャワール会」です。
  ペシャワール会 HP  http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/
 

 

 

中村さんの著書をお読みになった方も多いと思うし、何より私よりも、彼について詳しくご存じの方が多いと思いますので、ここでは、本に書かれた内容の概要をお伝えするつもりはありません。本の中に書かれた文章の中から、私の心に残った箇所のほんの一部を紹介するにとどめたい。

 

 

 

少しだけ、中村さんのことを本から以下に転記します。

 

 

 

・・・・・現地30年の経験を通していえることは、私たちが己の分限を知り、誠実である限り、天の恵みと人のまごころは信頼に足るということです。

 

 

 

・・・・ここでまた、別の出会いがあって(注:大学進学に関する父との)妥協点を備えてくれた。それがキリスト教、いや正確には内村鑑三である。・・・・内村鑑三の「後世への最大遺物」のインパクトは相当大きく、過去の世代の多感な青年たちと同様、私もまた自分の将来を「日本のために捧げる」といういくぶん古風な使命感が同居するようになった。当時、日本全国で医療過疎が大きな社会問題になって、久しかった。そこで医学部進学を決心した。

 

 

 

 

 

 

 

九州大学医学部に入学した1968年、また思わぬできごとが起きた。・・・・全国の学園に大きな動きが始まる。その契機を作ったのが、長崎県佐世保港への米原子力空母「エンタープライズ号」の寄港、九州大学構内への米軍ジェット機「ファントム」の墜落事件であった。私も学生自治会の役員として、否応なく巻き込まれていく・・・・私がいた九州大学教養部構内が、原子力空母寄港反対の人員輸送基地と化し、全国から多くの学生活動家が詰めかけた。

 

 

 

( 香椎注:原子力空母佐世保寄港に反対する学生が全国から九州大学教養学部に結集した時の様子。九州大学教養部の記念誌より。)

 

 

( 香椎注: 米軍ジェット機の九州大学構内への墜落事故を伝える新聞紙面。アルバムに貼っておいたもの。私は墜落直後の様子を、たまたま近くを走る国道3号線から目撃した。米国から来ていた宣教師の運転する車の中からだった。建設中の理学部計算センターが、真っ赤な炎に包まれていた。)

 

 

 

 

・・・・体制打破を叫んだ学生たちが器用に変身して、卒業後ちゃっかりと医局や大会社に入っていくのを見れば、戦争と平和の相克に十年以上を費やして悩み、自決した伯父・日野葦平のことが思い返され、内心穏やかになれなかったのである。だが、米軍とはこの20年後再び、時と所を変えて、アフガニスタンで相まみえることになる。戦争と平和という問題は、米軍という存在によって、否応なく避けて通れぬ課題となった。

 

 

 

 

・・・・米英軍のイラク攻撃の前日、2003年3月19日、約13キロ(注:全長は25キロ)のマルワリード用水路の着工式がとり行われた。・・・・・この時、用水路関係のワーカーに指定した必読文献は、『後世への最大遺物』(内村鑑三)と、『日本の米』(富山和子)で、要するに挑戦の気概だけがあった。

 

 

 

 

平等や権利を主張することは悪いことではない。しかし、それ以前に存在する『人としての倫理』の普遍性を信ずる。そこには善悪を超える神聖な何かがある。

 

 

 

 

そして、信頼は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人びとの心に触れる。それは武力以上に強固な安全を提供してくれ、人びとを動かすことが出来る。

 

 

 

 

人間にとって本当に必要なものは、そう多くはない。少なくとも私は『カネさえあれば何でも出来て幸せになる』という迷信、『武力さえあれば身が守られる』という妄信から自由である。何が真実で何が不要なのか、何が人として最低限共有できるものなのか、目を凝らして見つめ、健全な感性と自然との関係を回復することである・・・・・

 

 


 

1月23日付けのブログ <NHK・Eテレ「100分de名著」   内村鑑三 『代表的日本人』から> にも書きましたが、私も中村さん同様、若い頃、内村鑑三の本を読み漁り、大きな影響を受けました。

 

 

 

中村さんは、本の中で「日本の医療過疎地域のために尽力する」という遺物を、後世に残したく医者としてスタートされた訳ですが、私はこの本を読んで、中村さんは内村鑑三の示した後世に残すべきいくつかの遺物、 「おカネ、事業、思想・・・」 などのうち、アフガニスタンでの飲料水確保と砂漠灌漑による耕地確保・緑地拡大という難しい「大事業」を残しつつある。

 

 

 

 

そしてそのことを含め、中村さんのこれまでの生涯そのものが、内村鑑三が最も素晴らしい後世への遺物としてあげている、「勇ましく高尚な生涯」 そのものであることを、感じざるを得ない。

 

 

 

 

「日本の医療過疎地域のために」という中村さんの若い頃の使命感は、「パキスタンやアフガニスタンの医療過疎、というより無医地域への診療」として実現し、このことが井戸掘削や灌漑用水路の建設とあわせ、結果的に 「インド洋沖での米軍への後方支援、具体的には燃料洋上補給」 という国策とは、まったく質の異なる、方向の異なる「日本のために」という果実を、アフガニスタンやパキスタンなどとの間に、見事にたわわに実らせていると言えよう。

 

 

 

飢えた者に心を配り、悩む者の願いを満足させるなら、あなたの光は、闇の中に輝き上り、あなたの暗やみは、真昼のようになる。

主は絶えずあなたを導いて、焼けつく地でも、あなたの思いを満たし、あなたの骨を強くする。

あなたは潤された園のようになり、水のかれない源のようになる。

(旧約聖書 イザヤ書58章10節~11節)


 

 

最後に、中村さんの19歳年下で、同じ九州大学医学部を卒業し、外務省に入省した後、2005年に辞職、スーダンで医療支援活動を始めた医師がいる。ご存じの方も多いと思いますが、「川原尚行さん」です。彼は、小倉高校・九州大学を通じラグビー部に所属し、キャプテンを務めたとあります。先日、横浜で行われた講演会には、ラグビー日本代表の元キャプテン、東芝の広瀬さんも応援に駆け付けていました。ご存じなかった方は、ぜひNPO法人「ロシナンテス」を検索し、その活動を確認してください。

 

  NPO法人  ロシナンテス   http://www.rocinantes.org/

 

 


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