9月9日(日曜日)、関東大学ラグビー・対抗戦グループが開幕した。

 

 

 

開幕戦は早稲田大学対筑波大学。

 

 

会場は埼玉県三郷(みさと)市の「セナリオハウスフィールド三郷」。今年6月オープンした三郷市の陸上競技場だ。ちょうど両大学のある東京都とつくば市の中間に位置し、私の住む柏市からは約10キロと近い。最寄り駅のJR三郷駅のバス停には長蛇の列ができていた。競技場まで10分足らずのバスの中では、早稲田ファンと思しき初老のグループが、今季の早稲田大に期待する会話を交わしていた。

 

 

 

( 「セナリオハウスフィールド三郷」  右奥に走る高速道は常磐自動車道。観客は1、500人程度だった。)

 

 

 

 

結果からいえば、55対10 で早稲田大の完勝だった。

 

 

 

 

 

 

試合の詳しい記録や早稲田大の選手たちのコメントは、下記URLをクリックして早稲田スポーツ(学内のスポーツ新聞)の「ラグビー部記事」をご覧ください。野球やサッカーなど早稲田大のスポーツ系の活動を詳細にレポートしています。

 

http://wasedasports.com/news/20180909_97865/

 

 

 

 

信州・菅平での夏合宿の練習試合で、実に8年ぶりに王者・帝京大学を破り、今年の早稲田大はどこか違うぞと思わせましたが、この日の筑波大戦を観戦されたファンは、「今年の強さは本物だぞ!」 「昔の強い早稲田のラグビーが戻ってきたぞ!」と、その復活の兆しを肌で感じられたのではないだろうか。それほど早稲田のフィフティーンは、この試合でよく鍛えられた強さと走力、キック力を見せてくれた。

 

 

 

 

今日は試合の細かい経緯は省略して、観戦した私が感じた・・・・・

 

 

『ここ数年、歯ぎしりするほどもろかった早稲田ラグビーが、なぜ短期間でここまで強くなり、かつ伝統ともいえる粘り強いプレーを取り戻したのだろう』 

 

 

ということを考えてみたい。

 

 

 

 

その前に、風は強かったもののきれいに晴れ上がった青空の下でプレーした、両大学の選手たちのプレー写真をご覧ください

(写真は私が撮ったものと、大半はスポーツ専門チャンネル「J SPORTS」のTV画面からお借りしました。)

 

 

 

(試合開始前、円陣を組む早稲田フィフティーン。ユニフォームも創部100周年の今年は、昔の伝統的な白襟付き・赤黒の段柄に戻った。)

 

 

 

( 今年から早稲田大学ラグビー部を率いる相良南海夫監督。1991年度の主将で、三菱重工相模原で監督も務めている。)

 

 

 

( 大学ラグビーの公式戦は、試合前に両校の校歌が流れる。スタンドでは起立して一緒に歌うOBも見掛ける。いかにも母校の名誉をかけて戦う、学生スポーツらしいシーンだ。水色のユニフォームが筑波のフィフティーン。)

 

 

 

( 試合開始1分後の”ファーストスクラム”。軽い反則があった後の試合再開等で見られるプレー。8人で組む両校のFWの力量を知るという点で最初のスクラムは重視される。両校とも低い姿勢で素晴らしい。)

 

 

 

( 「ブレイクダウン」と呼ばれる地上にあるボールの争奪戦。ラグビーは立ってプレーしないといけない。自立していない”死に体”でプレーするとペナルティとなる。この争奪戦の優劣が、試合を決めるといっても過言ではない。この試合では早稲田が少し上回っていた。)

 

 

 

( スクラムハーフの齋藤直人選手。165cm75㎏と小柄。桐蔭学園出身の3年生。日本代表候補に学生として唯一人選ばれている逸材。この日もゲームを組み立てるのみならず、強い風の中で難しいゴールキックを何本も決めていた。)

 

 

( 日本のラグビー試合ではノーサイドの後、お互いの健闘を称えあう「スリー・チアーズ」といわれる”儀式”がある。大学の試合ではよく見られる。)

 

 

 

( 試合後、フェンス越しに声を掛けてくれた友人に応える早稲田の主将・佐藤真吾選手。彼の背番号20が示す通り、主将といえども佐藤君はこの試合ではリザーブとして入り、後半の後半で途中出場した。それだけ今年の早稲田は選手層が厚くなり、競争が激しいともいえる。)

 

 

 

 

さて、なぜ早稲田はここまで急に強くなったのだろう。

 

 

 

 

決して今年の筑波大が弱い訳ではない。

 

 

 

筑波大は5月の春季大会では 38対21 で早稲田大に勝ち、6月に行われた関西王者・天理大との定期戦でも 42対33 で勝っている。その天理大はといえば、打倒帝京大の一番手との評価が高い明治大学に、春夏とも接戦で勝っている強豪である。

 

 

 

その強い筑波大を 55対10 という大差で下した早稲田大、そして先月には練習試合とはいえ、王者・帝京大学に 28対14 で8年ぶりに勝利した早稲田大学ラグビー部に何が起こっているのだろう。

 

 

 

 

 

いくつか考えられる要因のうち、私は素人なりに次の3つを上げたい。

 

 

 

そのキーワードは「自主性」、「フィジカル」、それに「リクルート」だ。

 

 

 

自主性

 

 

・最大の要因はここ数年、強いリーダーシップを表に出す監督やコーチから指示された練習内容に従って強化を進め、監督から示された通りのゲームプランに沿った試合をしてきたが、想定したものと異なる展開になった時の対応力が弱く、いい結果につながっていなかった。いわゆる ”受け身”、”指示待ち”の選手たちだったようだ。

 

 

・しかし、学生の自主性を尊重する相良監督に変わって、自主性や自分で考える力が身に付き、責任感を伴った練習や試合でのプレーが出来るようになった。

 

 

・監督交代後の3年生、現在中心選手となっている、FL幸重天選手(大分舞鶴)、SH齋藤直人選手(桐蔭学園)、SO岸岡智樹選手(東海大仰星)、CTB中野将伍選手(東筑)の4選手のインタビュー記事を読むと、「発言しやすくなった」、「自分たちで考えて動くようになった」、「上下のチームの入れ替えも頻繁にあり、よい緊張感がある」、「練習でもゲームでもよく声が出ている」、「何より監督が自分たちの気持ちを汲んで動いてくれる」・・・といった発言が掲載されている。

 

 

~信頼され任されて自分で行動すると、そこには自然と責任感が生まれ、その期待に応えようとする風土が醸成される。これは会社組織などでも同じことが言える。

 

 

・ラグビーというスポーツは、試合中は野球などと違い、監督が”タイム”を取って指示をしたり、作戦を変更することはできない。試合中はゲームキャプテンを中心に選手たち自らが判断し修正し、目まぐるしく変わる試合展開に、臨機応変に対応しないと勝つことはできない。その意味でもこの「自主性」というキーワードは重要である。

 

 

 

 

フィジカル

 

 

・前の監督の体制下から続いている地道な努力が結実しているものがある。それは2つあって、ひとつは「フィジカルの強化」だ。5、6年前は帝京大の選手と比較したら、その胸板の厚さなどは見た目でもかなりの差があり、弾き飛ばされる光景をよく目にした。昨年あたりからウェイトトレーニングや栄養指導等の成果が表れてきたのか、上半身の逞しさ、太ももの大きさなど、どの大学もよく鍛えられて、強豪大学はフィジカル面ではそれほど差がなくなってきた。このことは、体力のある留学生選手を擁するチームとの差を詰める大きな要因でもあり、早稲田大もようやくその差を埋めつつあるということだろう。

 

 

 

 

リクルート

 

 

・もうひとつは前体制下で行われてきたリクルートの成果で、3年生以下に有望な選手が入部したことだ。筑波大戦の先発メンバーを見ても、4年生は2人だけで、3年生7人、2年生3人、1年生3人と下級生の割合が高い。その大半は高校日本代表やその候補だった選手が多く、のびのびとプレーしている雰囲気がよく伝わってくる。

 

 

( メンバー表を配布する早稲田大の受付にあった”手作り感満載”の出場メンバーの看板。学年別に氏名が色分けされている。)

 

 

 

・リクルートの成果はプレー面でもすでに表れてきている。昨年まではひとりの強い選手が相手の防御網を突破して突進しても、フォローする選手が少なく孤立してボールを失う場面が多かった。しかし今年は、有力選手の入部や成長で、体力・走力の高いレベルの選手がそろい、ひとりの強い選手が孤立することなく、すぐ後ろに他の選手が付いてきており、連続してボールを支配する場面を多く見ることが出来た。楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合前、上掲の出場メンバーが掲示されている看板を見ていた、ジャージー姿の女子大生と思われる2人が、「お兄ちゃんは出場しないのかな。淳生(あつき)君は出てるのに・・・」と話していた。

 

 

 

隣で見ていた私が、「今日はお兄ちゃんの聖生(としき)君は出ないね」と話し掛けたら、「私たちは鹿児島の出身なので、鹿児島実業高校OBの桑山兄弟を応援しに来たんです」と話してくれた。「じつはおじさんも鹿児島出身で、早稲田のラグビーを応援に来たんだよ」と話が弾んだのは言うまでもない。

 

 

 

彼女たちは早稲田大と10月21日に対戦することになる日本体育大で学んでいるそうだ。やっているスポーツの種目は聞かなかったが、故郷の同世代の仲間を応援するために、わざわざ神奈川県から埼玉県まで来たという、ほのぼのとする話だった。

 

 

 

桑山兄弟とは兄が4年生で弟は3年生。2人とも高校時代から注目されていた好選手だ。ポジションもBK(バックス)で競合しており、いわばお互いライバルでもある。この日は兄の出場はなかったが、兄弟そろって活躍するゲームも必ずあるはずだ。

 

 

 

この日の早稲田、筑波両大学の先発メンバー30名には、多くの九州の高校出身選手が名前を連ねていた。数えてみた。実に30名中12名だった。

 

 

 

ここ三郷のフィールドにも、”九州からの風”が吹いていた。

 

 

 

 

帰路は、徒歩で30分ほど離れたJRの三郷駅まで歩いた。強い風の中での観戦で疲れてはいたが、早稲田が快勝したので足取りは軽かった。

 

 

三郷市は住宅地や工場、配送センター等が広がる中に、所々田んぼが残っている。

 

 

 

 

 

写真は駅への途中で撮ったものだが、暮れなずむ夕景の中で、実った稲穂が垂れていた。

 

 

 

そういえば、早稲田大学ラグビー部のユニフォームの左胸にも「稲穂」が描かれている。

 

 

 

 

いい一日だった。