このゴールデンウィーク、ツレの留守に命の洗濯をとカズヒコを招いた。ガキの頃の友だちで囲碁を楽しもうという寸法である。ガキ友というのは、遠慮も何もいらないから楽しいもの。電力会社に勤めて、今富山市に奥方と二人きりで住んでいる。富山から、こんな在郷までやってくるには、小一時間ほど電車に揺られなければならない。朋あり遠方より来たり、また楽しからずやである。環境を変え、気持ちを切り替えるというのも、良いのだ。家に着くや開口一番、
「俺弁当を嬶に拵えさせて持ってきたよ。だから食事の心配はいらんよ」
ツレが、ゴールデンウィークを娘の所で過ごすと伝えてあったから、奥方が気を遣って持たせたのだろう。街の魚屋に行って旬の魚を求めたのに、口の肥えている彼には合わないらしい。
「平吾、ここより富山市は都会やから、新鮮なものはいくらでもあるよ。な~んかまわんといて」
どうもゴールデンウィークとあって、どれもこれも高かった。駄魚では、あいつが喜ばないと思って奮発したのに空振りだった。地元の朝採れの駄魚を買えば、良かったか。一番喜ばせたのは、何のことはない。ジャガイモを茹でて、皮を剥いて短冊に切って、アンチョビのオリーブオイル漬けを混ぜ込んだのを酒の肴に用意した。それを一口食べて、
「これちゃ、なんてうまいもんや。俺ぁの嬶にも教えてやってくれよ」 と。
楽しみは、家人の留守に何の気兼ねもなく囲碁を楽しむこと。ボクより少し強いが、まあ似たような腕である。囲碁のいいところは、囲碁と酒を楽しみと冗談を言えることである。
囲碁は、別称を手談とも言う、似ているが手話ではない。盤上に打った石が、何かを語りかけるからである、 例えば、
「おまえさん、いいのかい?石に囲まれて、隅に押し付けられ身動きを取れなくなるよ。さぁ、どうする?」
「何を仰る、ヘボ兄さん!あんたの足元は、ガラ空きよ。嬶の風呂を覗くアホ!」
まあこんな塩梅である
囲碁は、また烏鷺(うろう)も言われる。烏はカラス、鷺(サギ)である。黒石は烏、白石は鷺を指し、烏鷺を戦わすという。
カズヒコは、酒が好きなのだが、ちょっと困る癖がある。泣き上戸の上に酒が滅法弱いのである。我が家のミー子も猫好きを判別できる。ミー子が、客人の膝に乗ろうとする、
「家の母ちゃん、97歳なんよ。施設に入っている。でも元気なときは、独りで住む方が気楽だといって、長いこと猫2匹と住んでいた。ところが、少しボケてきたし、施設に入れたがよ。俺は、毎日飼っていた猫の餌をやり、水をくれてやったよ。そのうち、猫が死んでなぁ・・・」
それだけ言って、もう涙目である。
その後で、カズヒコに訊いた、
「あんた、俺のブログを読んだことある?」
「な~ん、パソコンは苦手やから、そんなもん持っておらん!」
ならば、もと泣かせてやろうと、『また酒を飲もうよ!』https://goo.gl/TPK9CV を読んで聞かせた。都会の病院にいるカズヒコの弟のクニヒコのことを書いたのだ。病状が必ずしもよくない。それを聞いて、おいおいと泣き崩れてしまった。囲碁には負けたが、泣かせてしまった。
終電に乗って帰るというカズヒコに、庭のミツバとウドを土産にした。無事着けただろうか。