ゴールデンウィーク前に、次々と気になる本が発売になり、まずは買って積んでみた。
本屋大賞も発表になり、凪良ゆう(1973年~ 50歳)が、「汝、星のごとく」で二度目の本屋大賞に輝いた。
凪良ゆうは、2020年の「流浪の月」で一度目の本屋大賞をとっており、今回、二度目の本屋大賞というだけでも大したものなのだが、一度目は、コロナの真っ最中で書店員さんが集まって祝う贈賞式が中止になり、二度目の本屋大賞で、ようやくお祝いしてもらえると喜んでいたところ、その日は、村上春樹の六年ぶりの新作となる「街とその不確かな壁」が売り出された初日に当たり、通常ならば世の中は本屋大賞で持ちきりになるべき日が、話題の半分以上は村上春樹に持っていかれてしまった。
そもそも凪良ゆうは、プロフィールの詳細がわかっていない作家なのだが、どことなく淋しげで幸薄い表情に見える作家である。
もともとは漫画家志望で、10年以上もボーイズラブを書き続けているというし、滋賀県生まれというのも地味だ。
今回の受賞が決まった週に、丸の内の丸善では、村上春樹の新作は店の外でも売っていたのに、本屋大賞の方は、その分、扱いが小さくなってしまっていた。
とは言え、さすが丸善で、著者のサイン本も同時に販売していたので、きっとこの女性作家は地味に丁寧なサインをするだろうと思って、サイン本を買ってみた。
本の表紙裏に、以下のようなサインがしてあって、「三島由紀夫」などと毛筆で書き上げた名前だけのサインよりずっとよいと思った。
連休前についつい気が緩んで、「汝、星のごとく」のみでなく、本屋大賞発表日に売り出された村上春樹の「街とその不確かな壁」もついでに買った。
さらに、平野啓一郎の「三島由紀夫論」がついに構想23年を経て出版されたので、当然買って、これが今一番読みたい本だ。
ずいぶん前から平野啓一郎は、三島由紀夫論を執筆していることを明らかにしていたので、私は出版を楽しみに待っていたのだ。
「仮面の告白」、「金閣寺」、「英霊の声」、「豊饒の海」という四つの代表的作品から、三島由紀夫全般を論じている。
さらにさらに、最近になって、いつの間にか世界的な評価が高くなっていることに気付いて、気になり始めた川上未映子の新作「黄色い家」も買わざるを得なかった。
川上未映子(1976年~ 46歳)は、若い頃、大阪北新地でホステスをやっていたり、売れなかったものの歌手デビューした経験もあり、そのルックスや独特の表現から人気が高く、2023年4月号の雑誌「ダ・ヴィンチ」では特集が組まれたりしている。
2008年に「乳と卵」で芥川賞をとって以降、いつの間にか作家としての地位を確立し、様々な賞を受賞して、私が気付かぬうちに、海外でも高い評価を受けるような作家に成長していたのだ。
彼女の小説やエッセイ、詩のタイトルとしては、例えば、以下のような独特な表現があり、それだけで印象に残る。
- 「わたくし率 イン 歯ー、または世界」
- 「先端で さすわ さされるわ そらええわ」
- 「そら頭はでかいんです、世界がすこんと入ります」
など。
今や世界40ヵ国で刊行が続いているようで、シンディ・ローパーから「夏物語」の読後感想の手紙(便箋4枚)が送られてきたり、世界で日本の現代作家というと、ムラカミとカワカミになりつつあるらしい。
知らなかった。。。
ベテランも頑張っていて、桐野夏生(1951年~ 71歳)の新作「真珠とダイヤモンド」は、私が経験した時代の金融物語が書かれていそうなので、これも仕方なく買った。
先日の第168回芥川賞受賞作である井戸川射子(1987年~ 35歳)の「この世の喜びよ」については、読んでいてどうも乗ってこないので、半分くらい読んだまま、読み途中になっているのだが、さらに積んだ本が増えてしまったわけだ。
こうして見ると、最近の女性作家の活躍はめざましいものがあるが、それにしてもどこか金に苦労する話が多い気がする。
さて、十分な本の蓄えをもって始まったゴールデンウィークであったが、いざ休みになってみると、ほかにやりたいことがいろいろあったり、山梨の実家の家じまいの準備をしたり、夜は早くからワインを飲んだりして、一向に読書ははかどらない。
せめて一番軽そうな本屋大賞の「汝、星のごとく」を読んでみた。
ところで、本屋大賞というのは、2004年から始まって、全国の書店員が一番売りたい本として投票で決めるらしいのだが、最近では、芥川賞よりもよほど本屋大賞を受賞した本の方がよく知られているし、経済的にも効果が大きい。
これはもともとベストセラーになっている本の中から本屋大賞が選ばれることが多いということもあるが、本屋大賞に選ばれると、さらに多くの読者を獲得し、その後、映画化・テレビドラマ化などもされやすいことがある。
最近では、アニメ風で視覚化しやすい小説がベストセラーになる傾向があるように思えるので、当然と言えば当然なのだが、とにかく本屋大賞を受賞するとよく映画化される。
ここでざっと、歴代本屋大賞受賞作品を見ておこう。
必ずどこかで聞いたことがあるベストセラーが並んでいるはずだ。
2023年 凪良ゆう 「汝、星のごとく」 (講談社)
2022年 逢坂冬馬 「同志少女よ、敵を撃て」 (早川書房)
2021年 町田そのこ 「52ヘルツのクジラたち」 (中央公論新社)
2020年 凪良ゆう 「流浪の月」 (東京創元社)
2019年 瀬尾まいこ 「そして、バトンは渡された」 (文藝春秋)
2018年 辻村深月 「かがみの孤城」 (ポプラ社)
2017年 恩田陸 「蜜蜂と遠雷」 (幻冬舎)
2016年 宮下奈都 「羊と鋼の森」 (文藝春秋)
2015年 上橋菜穂子 「鹿の王」 (KADOKAWA)
2014年 和田竜 「村上海賊の娘」 (新潮社)
2013年 百田尚樹 「海賊とよばれた男」 (講談社)
2012年 三浦しおん 「舟を編む」 (光文社)
2011年 東川篤哉 「謎解きはディナーのあとで」 (小学館)
2010年 冲方丁 「天地明察」 (KADOKAWA)
2009年 湊かなえ 「告白」 (双葉社)
2008年 伊坂幸太郎 「ゴールデンスランバー」 (新潮社)
2007年 佐藤多佳子 「一瞬の風になれ」 (講談社)
2006年 リリー・フランキー 「東京タワーオカンとボクと、時々、オトン」 (扶桑社)
2005年 恩田陸 「夜のピクニック」 (新潮社)
2004年 小川洋子 「博士の愛した数式」 (新潮社)
さて、「汝、星のごとく」であるが、作者がもともと漫画家志望だったという点もあるのか、どこか、アニメ的なものが感じられ、読んでいて、アニメを見ているように映像が浮かんでくる。
第一章「潮騒」などは、文字通り、三島由紀夫の「潮騒」の現代版かと思ってしまう。
瀬戸内海の小さな閉ざされた島社会で、複雑な家庭環境を持つ高校生二人が近付いて恋愛関係となり、やがて島を離れた男の子は東京で漫画家として成功し、母親を捨てられずに島に残った女の子は、いつまでも閉ざされた島社会にあって、次第にすれ違っていく。。。
ああどこかで聞いたことがあるような物語だと思いながらも、つい心がヒリヒリしてしまう。
そして二人は本心ではお互いを想いつつ、すれ違って、別々な道を歩んでいくことになる。
次第に不幸になっていく二人には、親と金の事情がある。
親の負担が重く、働いても金銭的に余裕はできずに追い詰められていく若者たち。。。
彼らはどこか優しいのだが、生きていく力が弱いと感じる。
弱く優しいものに、人は同情するが、強くなければ感動しない。
二人の生き方に感動するような強さは感じられず、はかなく物語は終わってゆくのだが、その読後感は、なんだろう、いつか、新海誠監督のアニメ「君の名は」を観たあとのような、優しくて、はかなくて、、、美しい物語ではある。
現代の若者たちをよく表現しているとは思うのだが、貧しさから抜けられない社会の中であがいて、追い詰められていく中で、生き方は軽く、弱く、どこか優しい。
昔の小説は、高橋和巳にしても、もっと強く生きて大きく破滅していったのだが。。。
金にまつわる話にしても、宮部みゆきの「火車」のようなすごみもない。
まあ派手に破綻すればよいというものではないが、どこか弱くて、なよなよしている現代の若者たちは、こちらの方がずっと共感できる物語のようにも思える。
こうしてゴールデンウィークは終わってしまったわけだが、この間、積んだ本はまだ残っていて、あと1、2ヶ月は十分もちそうである。
最近、自分の人生の残り時間と、何を読むべきかについて考えることがある。
どう考えても、今持っている本の全部を読むことは不可能なのだ。
かと言って、新しい本が出ると、それも読みたくなって、また積んでしまう。
本も選んで読まないと、時間が無駄になるだけである。
私の元勤務していた銀行は、つまらない仕事の本を書く人が多かったのだが、中でも印象的だったのは、Aさんの書いた本だ。
Aさんは、いつも明るくて人柄もよいのだが、あまり論理的な思考をするとは思えず、文章を書かせると面白そうで面白くないという特徴があった。
そのAさんから、本を出すからドラフトを読んでくれないかとゲラが送られてきたことがある。
その本は、内部監査に関する本で、Aさんは、それなりにわかりやすくしようと考えたらしく、問答形式も取り入れて書いていたのだが、その質問の一つにまず驚いた。
企業における「内部監査」と「リスク管理」の役割を説明したあとに、以下の質問があった。
質問: 「内部監査」と「リスク管理」はどちらが偉いの?
まずここでイスから転げ落ちそうになるのだが、こらえて答えを読むと、確実にイスから転げ落ちることになる。
答え: 水戸黄門で助さんと格さんのどちらが偉いの?と聞く人はいないでしょう。「内部監査」と「リスク管理」は、助さん、格さんと同じで、どちらが偉いとは言えないのです(助さん・格さん理論)。
私は、適当に何箇所か修正した上で、それとなく出版を断念するように進言してゲラを返したのだが、それからしばらく経って、忘れていた頃に、Aさんから、「無事出版されました。有難う。」という御礼のメールが届いた。
驚いた私は、すぐに本屋に行って調べてみると、確かに出版されていた。
さらに、まさかまさかと思って、助さん・格さん理論までページをめくってみると、そのまま掲載されていた。
この場で助さん・格さんを出す発想のユニークさはあるものの、そもそもそんな質問をする人はいないのである。
さらにこの本は金融監督当局の建物内の本屋でかなりの部数が売れて、改訂第二版まで出されたのであった。
そして、第二版でも「助さん・格さん理論」は健在だった。
この本を読んで金融検査に入る検査官たちは、内部監査部長やリスク管理部長に対して、こいつが助さんかとか、こいつが格さんかとか、思いながらインタヴューしているのだろうか?
そう思うと、検査官の剣先を鈍らせる、なかなか深慮遠謀のある企みだったのかもしれないと、改めてAさんの人間力の深さを思うのであった。
<了>









