二十歳前後の三~四年の間、水虫に似た症状で少し悩んでいたことがあります。

この時分には水虫が流行っていて、その典型的な症状は足先の指の間のかゆみでした。

かきすぎて指の間の皮がはがれ、指の股の骨が見えてしまうほど悪化してしまった症例も何件か報告されていました。

ただ、私の場合はそんなかゆみはなかったので、多分、水虫ではなかったと思います。

私の主な症状は、真っ白な新しい靴下をはいても、その日の夕方には靴下のつま先部分が黒ずんで汚れていることでした。

この汚れは靴下だけでなく、新しい靴をはいても、靴の奥のつま先部分がすぐに黒ずみ、一週間もするとつま先あたりには少し固い粘土状のものが1~2ミリメートルの厚さでへばり付いているというものでした。

靴下の先に付いた黒ずんだ汚れはコインランドリーで洗っても落とすことができず、いつも手洗いでゴシゴシこすらないときれいにならなかったのです。

そんなことで、いつも白い状態を保っている靴下にはあこがれを抱いていました。

ところが、こんな面倒な症状がある日を境にして突然消えてなくなり、その後現在に至るまで再発していないのです。

 

夏期休暇中のある日、大学の友人と三人で千葉県の御宿町に海水浴に行きました。

御宿町の海水浴場は、太平洋に面する外房に位置しているため、時々大きな波が打ち寄せて来ます。

そこで、海水浴以外にもこの波に乗るボディーサーフィンを楽しむことができました。

タイミング良く大きな波に乗ることができると、波と一緒に流されている間中、バシャバシャと波が砕ける大きな音が耳の周りから聞こえてくるのです。

この日には、三~四回はうまく波に乗ることができました。

 

この日、海水浴場の砂浜の中央部分には立ち入り禁止の区域がありました。

これは、この頃から明らかになっていた離岸流による水難事故の発生を防ぐためのものでした。

たとえば、湾の入り口の両側から湾内に潮が流れ込むと、二つの潮は海岸の真ん中辺りでぶつかります。

すると、行き場を失った潮は沖に向かって勢い良く流れ出すのです。

これが離岸流で、この離岸流に乗ってしまうと、いくら岸に向かって一生懸命に泳いでも、どんどん岸から離れていき、やがて力尽きて溺れてしまうという水難事故が多発していたのです。

そのため、こんな離岸流が発生しそうなときには、たいていは海岸の中央部辺りが遊泳禁止区域になり、その砂浜への立ち入りも禁止されていました。

ただ、歩いて通り過ぎることだけは黙認されていたのです。

 

人が立ち入らなくなった砂浜の砂は、強い夏の日差しを浴びて、素足で歩くとやけどをしてしまいそうなほど熱くなっていました。

うっかりそこに立ち止まると、すぐに足の裏がひりひりしてくるので、ピョンピョン飛び跳ねるような格好をしながら歩かなければなりませんでした。

たまたまそこを通り過ぎる必要があった私は、やはり初めのうちは飛び跳ねながら歩いていました。

ところが、何故かその熱さがくせになり、その後も好んでその熱い砂の上を何度も歩いていたのです。

もしかすると、足の指と指の間の隅々にまで入り込む熱い砂を、良い効果をもたらす心地良いものとして本能的に感じていたのかも知れません。

 

こんな体験をしてから間もなく、靴下が黒ずんで汚れることがなくなったことに気が付きました。

さらに、新しい靴の先が汚れることもなくなりました。

そして、それ以降は現在に至るまで、靴下が黒く汚れるといった悩みからは完全に解放されているのです。

 

今思い起こすと、靴下の汚れはやはり足の先に何かの細菌が付着していて、足の垢などを養分にして繁殖していたのだと考えられます。

それが原因で靴下や靴のつま先部分にその細菌が分解した物質のかすなどが溜まっていたのだと考えられるのです。

たぶん、熱い砂の上を何度も歩いたことで、熱い砂が足先のあらゆる部分に付着していた細菌をすべて死滅させたものと考えられます。

また、熱で弱った細菌は海水によっても殺菌されたのかもしれません。

いずれにしても、思いがけない荒療治となって、長い間続いていた悩みがこの日を境にして解消されたのです。

 

                              〔 カーネル笠井 〕