二人目の少女が依頼を終了させた日の夜、会社から帰った井上は、自分の部屋に隠しカメラや盗聴器のたぐいの機器が設置されているのではないかと部屋中をくまなく探し回っていた。

一時間近くも探したが、それらしきものは一切見つからなかった。

それならば、『やはり少女の持っていたスマートホンが何らかの連絡手段といった役割を果たしていたのであろう』と、考える以外にはこれまでの不思議な出来事を説明することができなかった。

 

『木枯らし一号が吹いた』との報道がされていた、寒い土曜日の昼の少し前のことである。

井上の住むマンションのインターホンが鳴らされた。

土曜日だがもう昼近くなので、また少女が現れるということはないだろうと、井上はそのときに着ていたパジャマの上にガウンを羽織って玄関に行った。

ドアカメラを覗くと、そこには配達人らしき二人の男と、大きな段ボール箱に入った荷物が見えた。

 

「何でしょうか?」

「宅配便ですから、印鑑をお願いします」

「わかりました。少しお待ちください」

 

井上がドアを開けると、二人の配達人は重そうに荷物を抱えて入ってきた。

 

「この荷物はどこに運びましょうか?」

「中身は何か、わかりますか?」

「伝票には“こわれ物”としか記入されていないので、詳しい内容はわかりませんね」

「それなら、申し訳ないけれど、リビングの入り口のドアの横まで運んでもらえますか」

「わかりました。谷君、そちら側をしっかり支えてね」

 

リビングの入り口に置かれた大きな箱を見て、井上は自分が何かを注文した記憶がないかを、もう一度思い返していた。

ところが、伝票の送り主の名前を調べると、住所は異なるが自分の名前が書かれていたのである。

井上はすぐにもその箱の中身を確かめてみたくなった。

 

カッターで結束バンドを切り離してフタを開けると、箱の中は厚い緩衝材で覆われていた。

それを少しずつ取り除いていくと、少女の顔をしたロボットが出てきた。

さらに周りの物を取り去ると、人の形をしたアンドロイド型のロボットであった。

 

アンドロイドの身長は百五十五センチメートル位で、足の下には車輪のついた台車のようなものが左右それぞれに取り付けられていた。

顔はやはり美菜子に似ているような気がした。

箱から取り出してイスに座らせようと抱え上げると、四十キログラム近い重さがあることがわかった。

このアンドロイドは腕や足を少しずつ折り曲げることができ、普通の人間と同じような格好でイスに座らせることができた。

 

井上はこのアンドロイドを少し離れた所から見て、顔つきは高校生の頃の美菜子に良く似ていると感じた。

そこで、ますますこのアンドロイドを自分に送り付けてきたのは一体誰なのだろうかと不思議に思った。

そして、こんなことをするのは二人のミナちゃんを依頼したのと同じ者に違いないと確信したが、これだけのことをする目的と言うものがどうしてもわからなかった。

 

しばらくこのアンドロイドを観察していた井上は、『もしかすると、このアンドロイドを動かせば今までのすべての謎が解けるのではないか』と、思い付いたのである。

そこで井上は、このアンドロイドの隅から隅まで探してみたが、残念ながらスイッチらしきものはどこにも見当たらなかった。

考えあぐねた井上は、自分のスマートホンの音声認識の呼び出し音を変更してくれたIT企業に勤める友人に頼んでみることを思い付いた。

 

すぐにスマートホンを使って連絡を取ってみると、幸運にもすぐに彼が応答してくれた。

 

「やあ河合。ちょっと困ったことがあるんだが、助けてくれないか」

「一体何があったと言うのだい。でも二時間後なら空いているから、何をすればいいのかな?」

「僕のマンションに来て欲しいんだ。君の専門の興味を引くものがあるんだよ」

「了解したよ。それなら、二時間後にお邪魔するよ」

 

井上はこれで何とかなると思った。

メーカーの決めた音声認識を変更することができるほどの知識があるのだから、アンドロイドを始動させるくらいのことは簡単にできるだろうと思えたからだ。

 

二時間後、約束通りに河合はやって来た。

そして、イスに座っているアンドロイドを見て驚いた。

 

「これは多くの企業などが実験的にPRで使っていたアンドロイドじゃないか。でも、それらと比べて顔つきが随分と変更されていて、だいぶ美人になっているようだね。それに昔の美菜子みたいな顔をしているじゃないか。こんなにすごい物、君が買ったのかい?」

 

河合も美菜子と同級生だっただけに、井上と同じ感想を持ったようだ。

 

「こんな注文をした覚えは全くないんだ。それだから、どうしたら動かすことができるのかが全くわからないんだよ」

「それなら、美菜子が『 ♡私のことを忘れないでね♡ 』と、君に送って来たのではないのかい?」

 

アンドロイドの各部を点検しながら河合はそんな冗談を言った。

 

「美菜子は今アメリカで幸せに暮らしているから、決してそんなことはないはずだよ…」

 

そう言いながらも、井上はその意見に真っ向から反対することはできなかった。

そのアンドロイドを調べていた河合が突然、『痛い!』と、小さな悲鳴を上げた。

 

「このアンドロイドの安全装置は今でもしっかりと作動しているようだよ。スタンガンみたいな電気ショックをあびせられてしまったよ😢」

「そんなことができるのかい?」

「それだけじゃないさ。そもそもこのアンドロイドはこの格好で送られて来たのかい?」

「それは僕がイスに座らせるために少しずつ折り曲げたんだよ」

「そんなことは、このアンドロイドが作動していなければできない構造になっているはずなのだが?」

 

河合は、少し不可解そうな顔をしてそんなことをつぶやいた。

 

「いろいろと調べてみたけれど、どこも悪い所はないね。これで動かないとすると、最悪でメインのCPUがこわれているのかも知れないよ」

「どうすれば動かすことができるのかな?」

「これを作ったメーカーに修理を頼まないと無理かも知れないね。でも、そのときには大金がかかると思うよ。それよりも、どうしてこんなアンドロイドを手に入れることができたのだい?」

「自分で買った覚えは全くないんだ。ただ、送り主が自分の名前で送られてきたんだよ」

 

河合の話だと、この型のアンドロイドは大きな電気メーカーで作られたもので、一年契約で何百万円ものレンタル料を取って多くの企業に貸し出されていたものなのだ。

AI(artificial intelligence)と呼ばれる人工知能が搭載されていて、あたかも自分の意思で会話や動きをしているかのように設計されているために、かなり高性能なコンピューターが搭載されているそうであった。

一時、かなり話題になったことで、多くの企業が高額なレンタル料を払って宣伝用に使っていたが、最近になってこの契約が更新されないことが多くなってしまっていた。

そのため、客先から戻された多くのアンドロイドが、うつむいた格好のままで倉庫の中に眠っているそうである。

恐らくこれはその中の一体と思えるが、これだけ上手に顔の形を変えることや、両足の下に取り付けられた移動装置を作るのには相当な費用がかけられているそうであった。

 

これを聞いて井上は“pepper”という名前のアンドロイドがあったことを思い出したが、それとは少し違うようでもあった。

 

「これはもう、このアンドロイド自身が自分で動こうと思わない限りは、このまま、止まったままかも知れないね…」

 

河合は少しあきらめ顔でそんなことをつぶやいた。

 

「それでも、これがあると美菜子と一緒にいるようで楽しいじゃないか」

 

次にはそんな無責任な事を言ったが、井上もその意見を否定することはなかった。

 

その後、出前の寿司を井上と一緒に食べた河合は、もう一度アンドロイドの顔をまじまじと見ていた。

 

「それじゃあ、また美菜子に会いに来るさ✌」

 

河合はそう言い残し、明日は朝早くから用事があるからと言って帰って行った。

 

翌日の朝、井上がシャワーを浴びてからもう一度アンドロイドの顔を確認していたときのことである。

そのアンドロイドの眼が突然開いたのだ。

井上は腰を抜かしそうに驚いた。

しかも、眼を開けると高校生時代の美菜子の顔に良く似ているのである。

 

「初めまして、アッ君」

「君は誰なんだ!」

「ミナちゃんと呼んで下さい」

「君はロボットじゃないか!」

 

こわれていると思っていたアンドロイドが突然しゃべり始めたのだ。

しかも、その話し声は高校生の頃の美菜子にそっくりであった。

動かないと思っていたものが突然これだけの変化を見せたので、井上はその後の対応に困惑していた。

 

「これからは、私のことを『ミナちゃん』と、呼んで下さい」

 

井上は、やはりこれは今までの出来事の続きで、二人の少女に続いて今度はアンドロイドが送り込まれて来たのだと思った。

しかし、何で三番目がアンドロイドなのだとも思った。

 

「君は誰から命令されてここに来たの?」

「私はミナちゃんとしてここにいるのです」

 

これは何か今までとは少し違っていると思えたが、いろいろ質問をしても余計に正しい判断ができなくなってしまうのではないかと考えた。

少し落ち着きの出てきた井上は、しばらくの間はこのアンドロイドの話すことを聞いてみようという気持ちになりかけていた。

 

「それなら、君は自分の自己紹介ができるのかい?」

「私はミナちゃんとして、アッ君の役に立つためにここにいるのです」

「役に立つといっても、それはどんな役に立つことなの?」

「アッ君は、前にいたミナちゃんのぬくもりが欲しいと言っていました。ですから、私だったらぬくもりを与えることができるのです」

「僕はそんなものが欲しいとは思っていないよ」

「私なら、抱きしめても構わないのですよ?」

 

思いがけない返答に、井上は動揺を隠せなくなっていた。

 

「何を訳のわからないことを言っているの!」

「あなたはそれを望んでいたわ?」

「君なんかじゃ、ぬくもりなんて感じないんだよ!」

「ぬくもりって、何ですか? わかったわ、熱の事ね!」

 

そう言うと、アンドロイドはゆっくりとイスから立ち上がり、足の下についた台車を動かせて台所に入って行った。

セグウェイという乗り物があるが、それに乗って移動しているような動き方であった。

何をするのだろうかと思って見ていると、ガスコンロの火をつけて自分の体をあぶり始めたのである。

 

「違う、違う!そういう熱ではないんだ!」

「違うのですか?私にはこれしか思いつきませんよ」

「もうそのことはいいよ。必要なら、そのときには僕が対応の仕方を教えるから戻ってよ!」

「そうなのですか?それでしたら、言われた通りにします」

 

アンドロイドは体を反転させてゆっくりと戻って来た。

足の下についた台車はそのアンドロイドの命令で動くらしいことがわかった。

イスの前に背を向けて立ち、膝と腰を少しずつ折り曲げて上手にイスに座った。

 

『やれやれ、これは大変なことになったな』と、井上は思った。

 

「ぬくもりと言うのは、金属やプラスチックに触れても感じないものなんだ。布とか肌とか、そういうやわらかい物に触れたときに感じるものなんだよ」

「そのことなのね。私は布でできた服と言うものを身に着けていないから、それを着ければいいのね」

 

アンドロイドは上手に表情を変え、少し笑顔を見せていた。

 

「もうそのことはいいよ。また後で考えることにしよう」

「でも、それなら今すぐに対策を取ることができると思うわ」

 

アンドロイドがやけに“ぬくもり”にこだわるので、井上は少し話題を変えようと考えた。

 

「それよりも、もうそろそろお昼の時間だよね。お役に立てると言うのなら、食事の準備のようなことはできるのかい?」

「私は食材の調理はうまくできません。でも、料理を注文することならすぐにできるわ」

「そういうことなら、今日のお昼は出前を注文してもらえるかな?」

 

アンドロイドの応対に合わせ、井上も注文を続けていた。

 

「アッ君、メニューを言って下さいね。すぐに注文しますから」

 

河合が言っていたように、どうやらこのアンドロイドには高性能なAIが搭載されていて、まるで自分の意思で井上との会話をしているようにプログラムされているようであった。

 

「それなら、中華料理の酢豚がいいね。焼売とライスとスープもつけて欲しいけれど…」

「わかったわ。はい、注文できました」

 

ほんの2~3秒後に、AIを持ったアンドロイドはそう答えた。

井上はこのAIをからかうつもりで言ったことだった。

 

「本当に注文が出来たの?」

「ネットで注文が出来て、配達もしてくれるお店を見つけました。支払いも終わっています」

「支払いも終わったって、一体どこからその費用は出ているの?」

「私の友人に頼んで私の銀行口座にお金を振り込んでもらい、それをネットで送金しました」

 

なるほど、と思った。

AIならこういったことはビットコインのようなものを使って簡単にできるのだろうと考えられるからだ。

でも、こんな一瞬でそんなことができるはずはないので、恐らくはそう答えるようにプログラムされているのだろうと思っていた。

ところが、三十分もすると井上のマンションに出前が届けられたのである。

井上の注文した通りの内容であり、しかも味はとても美味しいものであった。

 

「アッ君、お味の方はいかがですか。中々評判の良いお店でしたので、大丈夫だと思いますが」

「確かに、味はとても美味しいよ…」

 

その日の夕方、井上のマンションにまた宅配便が届いた。

その中身は女物の衣類であった。

 

「これも私がネットを使って注文しました。これで少しは私にもぬくもりが出ると思うわ」

「これを君が着るのかい?」

「私にはうまく着ることができません。アッ君、着せてもらえますか?」

 

それらの服は以前どこかで見たことのあるようなものばかりであった。

それは、高校生時代の美菜子が良く着ていたもので、美菜子がそれを着た写真がパソコンのメモリーの中にも何枚か保存されていることを井上は思い出した。

やはりここでも美菜子の存在が大きかったのである。

井上はその中から襟にフリルの着いたピンク色のブラウスとベージュ色のスカートを着せてあげた。

衣類を着けた姿を見ると、本物の人間の女子高生がそこにいるかのような錯覚を起こさせるほどの外観になっていた。

 

「ありがとうございます。アッ君にぬくもりを感じさせられれば良いのですが?」

「そんなことは期待していないから、もうそれで十分さ」

 

このときから、井上とAIを持ったアンドロイドの奇妙な生活が始まったのである。

 

「私にはうまく掃除ができませんから、友人にロボット掃除機を送ってもらいました」

「その友人というのは誰なんだい?」

「電気メーカーにいる友人です。私の言うことは何でも聞いてくれます」

 

数日後、井上のマンションに『ルンバ』という名前の床掃除機が届いた。

井上は、このアンドロイドを送り込んだ一味が裏であれこれと手を回し、このAIの得た情報を処理しているのだろうと考えていた。

それなら、一体どれだけ自分の注文を聞き通せるのか試してみたくなったのである。

 

「調理はできなくても、うまく冷凍食品などの食材を組み合わせて美味しいメニューを考えることはできないの?」

「それはすぐにできると思いますよ。好きなメニューを教えてください」

「それなら、ビーフシチューとフランスパンとチーズの盛り合わせが良いね。それに美味しい赤ワインも欲しいよ」

「わかりました。美味しいフランス料理ができると思うわ」

 

二時間後、宅配業者がクールパックなどで多くの食材を届けてくれた。

 

AIの指示通りに電子レンジにかけると、簡単に美味しい料理が出来上がったのである。

やはりこれくらいのことなら、これを操る連中には簡単にできてしまうのだろうと思えた。

 

数日後、井上のマンションのエアコンの調子が悪くなっていた。

 

「このエアコンも、もう何年も使っているからそろそろ寿命なのかも知れないね」

「それでしたら新しいものに取り換えましょう。すぐに注文しますね」

 

AIがそう言ったので、井上はその結果がどうなるのかを黙って見ていようと考えていた。

 

次の日、エアコンの取り付け業者が新しいエアコンを持って交換にやって来て、それを取り付けた。

 

「これで設置し終わりました。最新型で、かなり性能の良いエアコンですよ。代金は頂いておりますので、ここにサインだけお願いします」

 

井上はちょっとびっくりしたが、あの一味ならこれくらいのことはするだろうと考えていた。

 

「アッ君、私のことを『ミナちゃん』と呼んで欲しいのですが、だめでしょうか?」

「なんで『ミナちゃん』なのか、良くわからないんだけれどもね」

「アッ君は、スマートホンに対しては『ミナちゃん』と呼びかけているではありませんか」

 

井上はAIのくせに生意気なことを言うなと思った。

でも、自分も反撃をしているつもりなので、ここは少し我慢して相手の言うことも聞いてみようと考えた。

 

「わかったよ、ミナちゃん。これからはそう呼ぶことにするよ」

「アッ君、ありがとうございます。これからも頑張ります」

 

数日後、井上はAIに本を読ませてみることを思い付いた。

 

「ミナちゃんは本の朗読をすることはできるのかい?」

「それはすぐにできると思います。読む作品を指定して下さい」

 

井上は、高校の教科書に載っていた印象的な作品の名前を挙げることにした。

 

「それなら、北杜夫の『岩尾根にて』を朗読してくれないか」

「はいアッ君、準備ができました」

 

そう言うと、AIはすぐにその作品の朗読を始めた。

恐らくネットを使って検索してその作品を見つけたのであろう。

AIはこういうことは特に得意で、とても役に立つと思った。

AIは美菜子の服装と美菜子の声で、淡々とした口調でその作品の朗読をしたのである。

井上は、良い作品と言うものはこのような朗読の仕方の方がかえってその情景が頭の中に浮かんでくるものだと思いながら聞いていた。

 

「アッ君、次は何を朗読しましょうか?」

「ミナちゃん、ありがとう。とても上手な朗読だったので、もう満足したよ」

「では、次は何をしましょうか?」

 

井上は少し考えてから、次はこのAIに歌を歌わせてみることを思い付いた。

 

「それなら、何か歌を歌ってもらおうかな」

「それもできますよ。伴奏つきでも宜しいでしょうか?」

「それは任せるから、サザンオールスターズの『真夏の果実』を歌ってもらえるかい」

「わかりました。では始めます」

 

AIは、カラオケの伴奏を見つけてきて再生しながらそれに合わせて上手に感情を込めて歌い始めた。

井上は、AIの歌声はボニーピンクの歌声によく似ていると思いながら聞いていた。

当然のことなのだろうが、カラオケで得点をつけるのならば、ミスがないのだから百点満点だろう、などと考えていた。

 

次に井上は、このAIは上手に身振り手振りを加えて会話をしているのだから、その手で肩もみなどもできるのではないかと考えた。

 

「ミナちゃんの手と指で、僕の肩をもみほぐすことはできるのかい?」

「ちょっと待って下さい。はい、肩もみもできます」

 

何かを調べたのであろうか、少し間を置いてからそう答えたのである。

すると、AIはゆっくりと立ち上がってから動き出し、井上の座っているイスの後ろに回って来た。

そして両手を井上の両肩の上に置き、指で井上の肩の筋肉をつまみ、初めはゆっくりと井上の肩をもみ始めたのだ。

 

「アッ君、少しずつ強めにしていきますから、痛いときにはすぐにそう言って下さいね」

「肩もみの仕方はどこかで調べたの?」

「ネットを使って検索してみました」

「ミナちゃんの知能はインターネットにつながっているのかい?」

「私と直接につながっているというよりは、他のコンピューターを介してつながっていることの方が多いと思います」

 

AIはいつの間にかずいぶんと遠回しな言い方を覚えてきたものだと思ったが、井上は、やはりこんな事件を起こしている仲間と連絡を取り合って行動しているのだろうと考えていた。

それにしても、AIの肩もみがとても上手にできていることに感心したのである。

手と指を上手に動かして適度な力で肩をもんでいるのだ。

しかも、時間が経つにつれて指の動かし方も少しずつ上達しているようであった。

 

「ありがとう、ミナちゃん。ところで、一つ聞きたいのだけれど、ミナちゃんのエネルギーはどこから取り入れているの?」

「夜の間に、電気コンセントから充電しています」

 

これを聞いて井上は、やはり機械なのだから電気というありふれたものがなければ動かないものなのだと思い、このことから逆にAIに対して親しみを覚えるようになったのである。