今年の2月、羽生善治永世七冠が国民栄誉賞を受賞したときのことです。

これを祝うテレビ番組で、彼の対局を長年見続けてきた解説者Aが、司会者Bに対してこんなことを言っていました。

A「彼が勝つ対局では、彼の勝ちが確定する数手前にそれがわかるのですよ」

B「どういうことですか?」

A「それはですね、彼が将棋の駒を指すときに一度だけ指がふるえるのです」

B「そんなことがあるのですか?」

A「そうなんです。そして、そのときには必ず彼が勝つのですよ」

 

以前、棋界の第一人者である羽生善治選手は、投了する数手前に自分の勝ちを確信し、そのときに脳内にα波が出ているという趣旨の特集番組が放送され、それを私も観ていました。

ですから、α波が出ているのに指がふるえるというのは少し変だな?

と思ったのです。

α波には、心身をリラックスさせるという効果があるからです。

でもそのときにはそれ以上には考えることがありませんでした。

 

最近になってこのことを思い出すと、これはドーパミンの効果なのではないか?

と考えるようになりました。

ドーパミンとは、“脳内覚せい物質”とか“脳内モルヒネ”とか呼ばれています。

つまり、覚せい剤や麻薬に似た効果がある物質と考えられているのです。

一番の効果は、脳内でこれが放出されると『達成感』や『充実感』が得られるそうです。

ですから、羽生永世七冠の場合も、ドーパミンが放出されたのならその衝撃で指がふるえる、ということがあるのではないかと思えたからです。

 

私達の普段の生活の中でも、何の前触れもなく『達成感』や『充実感』を感じることが時々あります。

これはきっと、脳内でドーパミンが放出されたからなのでしょう。

 

人は何かにこだわると、それがつまらないことでも中々やめられなくなることが多くあります。

それにはきっと、その事をする中でドーパミンが放出されることがあり、またその『達成感』が味わいたくて続けてしまう、という理由があるからではないでしょうか。

 

すると、これは中学受験生にとっても特効薬になるのではないかと思えるのです。

それにはまず、“短期の目標” を決め、次に “それを達成するための努力” をすることが必要になります。

この2つができれば、意外と簡単にドーパミンが放出され、次のステップに進む意欲が湧いてくるはずなのです。

 

受験のためにした勉強も、自分で自分のために作るドーパミンも、決して無駄にはならないはずです。 〔 カーネル笠井 〕