ここしばらく、和歌山の資産家が覚せい剤の取り過ぎによる不審の死を遂げた、との報道が続いています。

この中で、覚せい剤を口にすると、とても苦くて飲み込めないとの報道もされていました。

覚せい剤が苦い、というのは私にはとても意外でした。

それまでは、“覚せい剤” という言葉の印象は“甘いもの”と思っていたからです。

そして、『苦い』 というのは『良薬』 の専売特許のように考えていました。

 

若いころ、ぜん息の発作で5~6回ほど苦しんだことがあります。

私の場合、ぜん息の発作が起きるきっかけは夜遅い夕食を目一杯食べるということでした。

息をするだびに喉がヒューヒューと音をたて、呼吸が困難になりました。

苦しくて横にもなれず、四つん這いになって妻に背中をさすってもらってやっと呼吸ができるといった状態でした。

「病院に行ったら」

という妻の言葉に、病院ぎらいの私は、

「これくらい大丈夫、すぐに治るから」

と言って、何とか発作がおさまるのを待ちました。

しばらくすると、私の背中をさすってくれていた妻はそのままの格好で寝てしまいました。

私はそれからも “水におぼれている” といった状態が3~4時間も続いたのです。

『 いつ死んでも不思議じゃないな 』とさえ思いました。

四つんばいのまま苦しみ続け、明け方になってようやく発作がおさまり、それからやっと眠りにつけたのです。

 

翌日、それでも病院には行きたくなかった私はさっそく薬局に行って、ぜん息に効く薬がないか尋ねました。

するとそんな薬があったのです。

市販の薬ですがかなり強い薬のようです。

子供などが間違って飲んだりしないようにフタには特別な工夫がされていました。

ただ回しても空回りして開かないようになっていたのです。

一旦フタを下に押し付け、そのままの状態で回すと初めて開閉できるといった仕組みでした。

 

薬があることに安心した私は、その後もこりずに食べ過ぎて発作をおこすことが何度かありました。

でもその薬を飲むと間もなく発作はおさまっていました。

 

ある日、またこの発作が起きてしまいました。

すぐに薬を飲んで楽になろうと思い、この薬を用意しました。

この薬は糖衣錠になっていて、口に入れたときには甘く、それをすぐに白湯で飲み込みます。

この日は、『こんなに良く効く薬はどんな味がするのだろうか?』と思い、すぐには飲み込まずに口の中で糖衣がなくなるまでなめていたのです。

すると間もなく、その薬本来の味がしてきました。

その味はあまりにも苦く、すぐに口から吐き出してしまいました。

それでも “口の中が曲がってしまう” という表現がぴったりするような、口の中がしびれてしまった状態だったのです。

『こんなものを体の中に入れても、本当に大丈夫なのだろうか?』

と、真剣に考えてしまいました。

しかしぜん息の発作も苦しく、新しい薬を出してすぐに飲み込みました。

 

それ以来、その薬を飲むことに大きな抵抗を感じるようになりました。

自然と、ぜん息を引き起こすような食べすぎも控えるようになりました。

ぜん息の発作もきついのですが、その薬の苦さはもっと強烈に思えたのです。

そのうち胃腸の方も弱くなり、もう以前のように食べ過ぎることもなくなりました。

ぜん息の発作もそれ以来おこしていません。

“良薬は口に苦し”と言います。

この薬が良薬かどうかはわかりませんが、確かに良く効く薬でした

 

この薬の苦さは、子供の頃にお腹をこわしたときに飲まされていた『クマの胃』という薬の味と少し似ているのです。

『クマの胃』という薬は、クマの胆のうからつくられた薬でした。

一時中国でもこの薬を作る目的でクマを飼育しており、“動物ぎゃく待だ!” と言ってさわがれたことがありました。

恐らく、強いアルカリ性のクマの胆液をかためたものなので、苦い味がするのだと思います。

 

最近では胃酸過多になり胸焼けがするときにはアルカリ性の重そうを薬の代わりに飲んでいますが、これもかなり苦い味がします。

どうやら私は、アルカリ性の苦い薬との縁は切り離せないようです。 〔 カーネル笠井 〕