駅に向かう歩道のわきには、たくさんのカラスノエンドウが生えています。

この時季になってカラスノエンドウが、かわいい実をつけてきました。

この実のことを、子供の時には『 シビビー 』と呼んでいました。

他にも、『 スイッチョン 』や『 ジンケン 』など、地方特有、あるいは地方の子供達特有の呼び名がたくさんありました。

 

『 シビビー 』

大きくなったカラスノエンドウの実を半分に切り、背を割って中の実をほじくり出して笛を作って遊びます。

つめを立てて、さやの中をきれいにすることがうまく鳴らせるコツです。

そして、口にくわえて吹くのです。

このとき、あまり強く吹くと入り口がつまってしまい鳴りません。

そこで、初めはそっと吹くのです。

すると、“シー” と息のもれる音がします。

この状態で、はく息を少しずつ強くしていきます。

すると、まず1回 “ビッ” と鳴ります。

このときのはく息の強さを覚えておき、その強さでもう一度吹くと “ビービービー” と長く鳴らすことができるのです。

子供達の間でこの笛を上手に鳴らせる方法を示した言葉として伝わったのが『 シビビー 』なのだと思います。

 

『 スイッチョン 』

子供の頃の、まだ秋には程遠い夏のさかりの午後のことです。

秋の虫であるウマオイが、すずしい家の中によく入って来たのです。

たいていは、裏庭につながる開け放たれたガラス戸からです。

そして、部屋につるされたすだれなどに止まり、余程気持ちがいいのでしょうか、昼間のうちから “スー、イッチョン” と鳴くのです。

きっとこの鳴き声からくるのでしょうか、ウマオイのことを『 スイッチョン 』と呼んでいました。

 

『 ジンケン 』

子供の頃、川魚のハヤ(オイカワ)のことを『 ジンケン 』と呼んでいました。

川に魚釣りに行ってこの魚を釣り上げても、フナのようにあばれたりしないので、手ごたえがなくてつまりませんでした。

さらに、釣り上げたハヤをバケツの水の中に入れおくとすぐに死んでしまうような弱い魚でした。

ですから、子供達にとってはあまり面白味のない魚だったのです。

 

『 ジンケン 』という呼び名は、ようやく出回り始めた化学繊維のことを人絹(じんけん)と呼んでいました。

そして、そのころの化学繊維はまだ質が悪くて弱いものだったので、すぐに切れてしまうものでした。

この弱さが魚のハヤの弱さと重なって『 ジンケン 』と呼ばれるようになったようです。

 

そして “ハヤ” と聞くと、ある事件を思い出します。

 

以前、民主党の顔となっていた鳩山由紀夫氏が、菅直人氏らとともに民主党を立ち上げようとしていた時のことです。

同じ志を持つ仲間を鳩山氏の別荘のある軽井沢に招き、川魚のハヤ料理を食べに行ったときのことです。

そのとき、鳩山氏らは出てきたハヤを頭と身に分け、身の方を自分達で食べ、頭の方を招待客達に食べさせたのです。

 

これを取材していたマスコミ関係者たちはびっくりしてしまい、さっそくその夜のテレビニュースや、翌朝の新聞などでこのことが報じられていたのです。

「あいつ達はびどいやつらだ。自分達は魚の身を食べ、お客には魚の頭を食べさせていた。」

といった内容のものでした。

 

民主党の立ち上げには好意を持っていた私は、このニュースを観て

「ひどい人達ね。」

という妻とは一線を画していました。

きっと何かの理由があるのではないかと慎重に考えたからです。

 

この真相は、翌日の夕方には判明したのです。

実は、ハヤ料理は頭を食べる料理なのでした。

ですから、美味しくない身は自分達で食べ、美味しい頭を招待客達に食べさせていたのです。

夜にはおわびの放送もたくさん流されていました。

 

相手の荒さがしにやっきになっていると、思わぬ落とし穴にはまってしまい、きついお灸をすえられてしまう、という典型的な事件でした。

 

私もこのときからは、

『 自分の常識の及ばぬ所の事はあわてて判断せずに、むしろ好意を持ってもう一度立ち止まって考えることにしよう。』

と心がけるようになりました。 〔 カーネル笠井 〕