おもえば私は嘘からできていました。


あの日、冗談のように口から溢された言葉、自分を守る為に吐いた言葉、誰かの為と偽って小さな自尊心を満たした言葉。どれもがうそで言葉の通り目に見えないまま放たれた嘘たちは空気に溶けて、消えたかのように思われました。それは思い違えでした。何もないところから起こった言葉たちはずっと私にまとわりました。一度起こった言葉たちは私というかたちをかたどって構成しました。

嘘は私になりました。
私はなにもないところから出来ていました。私の仲間内での立ち位置も溺れるように依存した恋人も、酔っ払って泣きながら笑って語り合った親友もわたしが作り上げた私のものでした。居もしない私はあまりにも脆くて、快活で友人を大切にし、人の輪の中で弁舌巧みに皆の笑顔を受ける人間を保つことは簡単ではありませんでした。得る為についた嘘より多くの嘘をまとうことになりました。甘い夢にたゆたって多くの幸せを得たと、私はわらって錯覚しました。その頃にはあまりにも私と嘘とは境目を失って自分でさえその異常性を意識することはなくなっていました。
ある日私はついに自分の人生の書き換えに手をつけてしまいました。恋人を繋ぎ止める為でした。恋人は私を愛してくれていました。

はじめての恋人でした。友人よりも近く、家族のように一緒にねむり誰よりも近く寄り添う存在に私は狂うようでした。それまでの生き方ゆえにどこか周囲の人に対して俯瞰的で、愚かにも騙されているとどこか自分より下にみていた私はその誰よりも愚かでした。辛いことに出会えば虚勢を張り、傷つけられるような場面に出会う前に嘘をついて自分を隠した私は、辛いときには側で私を認めてくれて、傷ついた時には抱きしめて一緒に泣いてくれた恋人に強く依存していきました。ふと、この人が側にいてくたなら私は私を捨てられるのかもしれないと思いました。ひとつひとつまとってきた嘘を精算してその時、それを許して傍らにいてくれるこの人がいたら、私はもう罪を重ねずに本当に幸せになれるのかもしれないと小さな希望が芽生えていました。あまりにも傲慢。あんまりな自己愛。なによりもあんまりに不誠実な思いでした。

もしもこの時私が全てを正直に恋人に話していたなら彼女は強く私を叱って私から離れたでしょう。でも優しい元恋人は友人として私を支え、自業自得に多くのものを失って誤りながらも普通のわたしを思い出そうとする私の側に居てくれたのかもしれないと都合の良いことをかんがえるのです。乾いた指先であたたかさを求めるように無為に腕をさすっても嘘は恋人を繋ぎ止めてはくれなかったなあと、ピアノ線がくい込むような痛みを心臓が思い出すだけでした。

結果として私は最愛の恋人を失いました。とても美しくてなぜだかいつも悪ぶっているのに他人を放ってほけない、優しくて聡いひとでした。私の一目惚れでした。