絶好調『半沢直樹』
視聴者心理に働きかけるカット割りの妙
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、7月にスタートした日曜ドラマ『半沢直樹』(TBS系)について。
期待通りというのか、期待以上というのか。前作の2013年の放送同様、7年ぶりとなった今回の続編もテレビにかじりつき、ワクワクしながらドラマの世界に引き込まれていく。堺雅人さん主演の『半沢直樹』に、なぜこんなにも惹きつけられてしまうのか。
今回は作家・池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』が原作。東京中央銀行の銀行員だった半沢直樹が、出向を命じられた子会社「東京セントラル証券」で営業企画部部長として、手がける買収案件で親会社である銀行相手に奮闘している。組織の理不尽にやり返す爽快さが魅力の「勧善懲悪」ドラマだ。コロナ渦で溜まったストレス発散、鬱憤を晴らしたい今にぴったりのドラマと言える。
平均世帯視聴率は初回22.0%、第2話は22.1%、第3話は23.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と右肩上がり。前作でも、初回から視聴率は好調で、最終回では平成のドラマでトップとなる42.2%を叩きだした。半沢の決め台詞「倍返しだ」は社会現象を巻き起こし、それだけに今回の続編への視聴者の期待は相当大きかったと思うのだが、それを裏切ることなく、回を重ねる度に高視聴率を記録している。
ストーリー、シナリオも良く、個性派揃いの俳優陣は役にぴたりとはまっている。悪役は、時代劇の悪徳代官のようだし、正義側は、真面目で一生懸命、スラリと爽やかな印象を与える配役だ。「この人本当は悪役・正義どっちなの?」と、今のところ迷うことがなく分かりやすい。
主演の堺さんは、銀行員らしい滑舌明快なセリフ回しと、剛柔で緩急を付けた迫力ある演技で魅了するし、半沢の宿敵・大和田常務役の香川照之さんは前回と変わらぬ怪演を見せつける。証券営業部部長・伊佐山泰二役の市川猿之助さんも香川さんに負けないアクの強さで、金融庁主任検査官・黒崎駿一役の片岡愛之助さんはオネエ口調で前回以上にイヤミさを炸裂させている。
見ているうちに目が離せなくなるのは、俳優陣の熱演だけでなく、ドラマの中で独特の臨場感や緊迫感を生み出している演出の効果もある。展開の早さやテンポの良さ、効果音、テーマ曲の挿入箇所の妙など。またそれだけでなく、各シーンの「カット割り」も心理的に盛り上げる効果を作り出していると思う。
悪役は、悪役らしい演技の時ほど顔がアップで映し出されるものだから性悪ぶりがさらに強調されるし、追い詰められる正義側は、状況が切迫するほど顔のカットが切り替わり、切り替わるごとにアップになっていく。これから闘いが始まるというシーンでは、対立する相手を歩かせカメラに寄らせていくことで心理的な緊張感を生み出し、視聴者に緊迫感と期待を感じさせる。
敵同士火花を散らせるシーンでは、鼻先がくっつくぐらいの距離で互いにセリフを投げ合い、その距離の圧倒的な近さが徹底的にやり合っている印象を強くさせる。味方同士のやり取りでは、聞き手側の肩や後頭部を画面片隅に映し、肩越しから話し手の顔を映し出す。まるで自分がその場で相手と話しているような臨場感と、秘密の会議を覗き見しているような感覚も味わえる。
また、敵として対峙している時は、互いの顔を交互に正面からアップで映して敵対関係を強調し、敵から味方へと変わっていく時は、少しずつ身体や肩越しからのカットが入り、関係や気持ちの変化を表している。
敵の正体を暴こうという時は音声を先に入れたり、背後からのシーンで始まったりと、視聴者が一瞬「???」となる。こうしたさまざまな演出や凝ったカット割りを施すことで、俳優陣の視線の動きと視聴者の視線がリンクするような視覚効果があるのか、いつの間にか、ドラマの中に引き込まれてしまうのだ。
次に何が起こるのか?次の展開への期待が大きく膨らんでいく。やっぱり『半沢直樹』は面白い。
08/09 07:05 NEWSポストセブン