レイ・カーツワイル 2030年「ハイブリッド人間」が誕生!?第二の頭脳をクラウドに持つ | ◆渡辺正弘のセレクトニュース◆

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 ロボットは幾何級数的に縮小を繰り返し、赤血球ほどの大きさになり、ヒトの体内で機能を発揮する。人工知能がヒトのインテリジェンスを追い超し、我々は体内のロボット経由でアクセスする。つまり、近未来の人類は、自分の頭脳とクラウド上の人工知能を兼ね備えたハイブリッドになる──。


生物学的な頭脳と非生物学的な人工知能

 ロボティックスのカンファレンス「RoboBusiness」で、未来学者レイ・カーツワイル Ray Kurzweilはこう語った(上の写真)。ロボットと生物学と人工知能についての基調講演だが、SF映画のように余りにも現実と乖離した内容に感じられた。

 しかし実際、この主張の裏には、Kurzweilのテクノロジーに関する深い理解がある。

 Kurzweilの主張をまとめると、次のようになる。テクノロジーは幾何級数的に進化する。しかし、ヒトは生物で、その進化は緩慢である。その結果、人工知能がヒトのインテリジェンスを追い超す。高度に進化した人工知能は、クラウド上に実装される。同時に、ロボットは幾何級数的に形状が小さくなり、赤血球程の大きさとなる。これは「Nano Bot」(ナノロボット)と呼ばれ、ヒトの体内で機能する。ヒトはナノロボットを介して、クラウド上の人工知能にアクセスする。つまり、ヒトは生物学的な頭脳と非生物学的な人工知能を併せ持つハイブリッドとなる。

 Kurzweilは、これが実現する時期についても明確に予言した。2029年、人工知能がヒトのインテリジェンスを追い越す。これは従来から主張している内容だ。そして2030年、ヒトはハイブリッドになる、と付け加えた。

テクノロジーの幾何級数的進化

 Kurzweilの主張には、テクノロジーの進化は幾何級数的(「The Law of Accelerating Returns」)であるという基底概念がある。簡単な事例で示すと、1を30回足すと30だが、幾何級数的に進化すると30ステップ目では10億になる(2の30乗、倍々に進化した場合)。コンピューター素子は加速度的に進化している。IC素子のトランジスター集積度が2年で倍になるとは、余りにも有名な話で、これをMoore's law(ムーアの法則)と呼ぶ。ただ、ムーアの法則はトランジスターについて語っているが、ディスク容量などそれ以外の素子についても当てはまる。

 幾何級数的進化はコンピューターだけでなく、遺伝子解析にも当てはまる。ヒトの全遺伝子を解読する研究「Human Genome Project(HGP)」は、幾何級数的に開発速度を上げた。HGPは米国政府の威信をかけた世界最大規模のプロジェクトで、1984年に始まった。しかし、開始後7年間で、ヒトの遺伝子の1%を解読したに過ぎなかった。

 多くの科学者は、全遺伝子を解読するまでには700年かかるとし、プロジェクトは失敗だとた結論付けた。一方、Kurzweilはこの時点でプロジェクトは完了したと宣言。実際に7年後の2003年に、全遺伝子の解読が終了した。この事例は遺伝子解析技術が、幾何級数的に進化していることを示すものである。



 同様に、ロボット技術も幾何級数的に進化する。ただ、Kurzweilの視点は進化の方向に向けられ、ロボットは幾何級数的に小さくなり、最終的には赤血球の大きさになるとみている(上の写真、イメージ)。このNano Botを体内に注入し、体内の動きを監視させ、健康管理に役立てる。

 例えば、がん細胞に対しT-Cell(リンパ球の一種)が正常に働き、がん増殖を抑えているかを確認する。糖尿病患者に対しては、適量のインスリンが注入さえているかをモニターする。さらに、Nano Botが医師に代わって手術する「Microsurgery」構想も描いている。Nano Botが血管にできた血栓を取り除き、脳溢血を防止するというわけだ。

 Nano Botはロボットであるが、遺伝子を組み合わせた生物体であるとしている。具体的な説明はなかったが、遺伝子編集技術(Genome Editing)の進化で、遺伝子にDNAを組み込んだり、置き代えたりする操作が可能となり、目的の機能を持ったロボットができる。事実、今年のノーベル化学賞の受賞候補に、UC Berkeleyなどが開発しているGenome Editing研究が入っている。

VRとARが完成する



 Nano Botは健康管理に留まらず、ヒトの視覚を補完する。Nano Botをヒトの脳内で使うと、本当の意味での「Virtual Reality」(VR、仮想現実)が完成する。現在はVRや「Augmented Reality」(AR、拡張現実)を実現するには、Oculusなどのゴーグルが必要となる(上の写真)。これからは、コンタクトレンズがこの役割を果たすとも言われている。

 Nano Botが脳内で神経システムとリンクすることで、外部の情報を直接脳にインプットできる。Nano Botが脳の視覚を司る部分とリンクすれば、裸眼で映画の世界に飛び込める。また、裸眼で見ている風景に、補足情報が付加され、本当の意味でのARが完成する。つまり、ヒトは裸眼(これをReal Realityと呼ぶ)に加え、常にVRとARを兼ね備えるようになる。



 Kurzweilが最も力を注いでいるのは、Neocortex(大脳新皮質)をソフトウエアでシミュレーションすること。つまり、ヒトのインテリジェンスを構築することで、究極の人工知能開発への一歩となる。実際に、Kurzweilはこのプロジェクトを、Googleで進めている。上の写真は脳内の構造をMRIで解析しているイメージ。解析データ量と精度は幾何級数的に増加している。

 プロジェクトでは、完成した人工知能(これを「Neocortex Simulator」と呼ぶ)を、クラウドに展開する。ヒトは脳内で稼働しているNano Botを介して、クラウド上の人工知能にアクセスする。脳が人工知能に直接リンクを張る構造となる。ヒトは“第二の頭脳”を持つハイブリッドとなる。第二の頭脳は、ヒトの頭脳よりはるかに高度な機能を持つ。

 ハイブリッドとなった人類は、何ができるのか、その一端が紹介された。我々の頭脳の性能は限られており、言語を習得するのに時間がかかる。外国語の習得に10年以上時間を費やすが、それでもマスターできない。クラウド上の第二の頭脳を持てば、瞬時にマスターできる。Google Glassでスペイン語のメニューを見ると、目の前に英語の翻訳が表示される感覚なのかもしれない。


Neocortexとは

 Neocortexの仕組みを解明すると、ヒトのインテリジェントに迫れる。Neocortexは、3億個のモジュールから構成される。言い換えると、3億個のプロセッサを持った並列計算機である。これらモジュールが、パターン認識の機能を持ち、学習を重ねていく。

 高機能なプロセッサーであるが、制限もある。3億個あれば言語を習得できるが、上述の通り、新しい言語を学ぶには時間がかかかる。Google代表Larry Pageは3億個ではなく、数十億個のモジュールにアクセスしたいと述べている。

 Neocortexは、02億年前に誕生したとされる。哺乳類だけがNeocortexを持っている。例えば、ネズミのNeocortexは切手ぐらいの大きさと厚さだ。このNeocortexが、新しい思考の方式を生み出した。イノベーションはNeocortexで生まれる。反対に、Neocortexを持っていない動物の行動は固定的で、決められたパターンに沿って生活する。

 Neocortexが急速に進化したのは6500万年前。地球環境の変化で恐竜が絶滅(「Cretaceous Extinction Event」と呼ばれる)。それだけでなく、75%の動物や植物が絶滅したが、哺乳類は生き残って繁栄を始めた。これは、哺乳類がNeocortexを持っており、環境の変化に柔軟に対応できたためとされる。

ヒトの頭脳の進化

 Neocortexは表面面積が増し、体の大きな部分を占めるようになった。特にヒトにおいてはその成長は急で、Neocortexはテーブルナプキンくらいの大きさと厚さになった。複雑に曲がった形状で、脳の80%を占める。上述の通り、ここに3億個のモジュールが詰まっており、我々はここで考える。



 一つの事例が、イメージ認識である。文字の認識には100個のモジュールが必要とされる。例えば、「A」という文字を認識するには、モジュールは線や折れ曲がりなど、文字の特徴量を認識する(上の写真)。上位層に行くにつれ、抽象的な概念を把握できるようになり、「A」という文字や「Apple」という単語を認識する。現在ブームになっているConvolutional Neural Network(CNN)の基礎概念である。

 さらに5階層上ると、抽象度のレベルも上がる。香水の香りや音声のトーンなどを理解できるようになり、これらの要素を総合的に判断して誰が部屋にいるかを把握する。さらに10階層上がると、高度な抽象レベルに達する。面白い、かわいそう、美しいなどの感情を理解する。

 Kurzweilのビジョンは壮大で夢物語のようにも聞こえるが、既に研究開発が始まっている。Googleは、Kurzweilの指揮の元、頭脳をソフトウェアでシミュレートする研究を進めている。これがNeocortical Simulatorで、ロボットなどへの適用を目指している。今のロボットは動きを事前にプログラムされ、あくまで定められた行動を取る。これに対し、Neocortex Simulatorを使うと、状況に応じた柔軟な対応ができる。ロボットが、ヒトのようにインテリジェントになる。



 例えば、Google Glassはヒトの頭脳を補完する目的で開発された。音声で指示すると人類の知恵にアクセスできる。ヒトのインテリジェンスを補完する一つの事例だ。また、パーキンソン病の患者は、脳へのインターフェイスを実装し(上の写真)、外部のシステムと連携する。今は外科手術が必要であるが、赤血球くらいの大きさになれば、これを脳内に注入して利用できる。

学会の反対意見


 Kurzweilが描くビジョンは壮大であるのに加えて、高い精度で実現されている。Kurzweilは、未来を予測する確かな目を持っていると評価されている。その一方で、多くの研究者がKurzweilの考え方に異議を唱えているのも事実だ。ヒトがハイブリッドとなるとの考え方は、頭脳を正しく解釈していない、との意見も少なくない。

 人間の価値は抽象的な思考、推論、計算能力で判断すべきでなく、人間であるゆえんは「Consciousness」(自覚、自分の存在を意識すること)を持つことにある、というのがその理由だ。Consciousnessがあるからこそ、人間は厳しい環境を生き抜いてきた。子供を生み、教育し、文化を継承してきた。そして、家族や友人と社会生活を共にしてきた。人間は生物体であるからこそ人間であるという考えだ。

 ハイブリッドになったら、人間とは定義できない。脳の進化はゆっくりだが、人間として進化すべきという意見もある。頭脳は身体の一部で、全体から切り離すことはできない。頭脳が身体を制御するコンピューターで、頭部に実装されているという考え方は間違いだ、という声も聞かれる。

 10年ぶりにKurzweilの講演を聞いたが、我々が進もうとしている近未来に驚かされた。Nano Botが脳の中で稼働するのは怖いが、それ以上に第二の頭脳を試してみたい衝動にかられる。もはやヒトではなくなるのか、それとも感情は自分の脳に宿り、第二の頭脳はウエアラブルの拡張となるのか、興味は尽きない。

 Kurzweilは、年を取っていないようにも感じた。目の前で見ると(年齢は67歳)肌の色つやが良く、健康なミドルエイジと変わらない。Kurzweilはサプリメントを“主食”としており、250錠のサプリメントを飲むと言われている。米国を代表する頭脳は、私生活でも一般社会からかい離しているようだ。



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