父は朝目が覚め、看護師さんに「今は何時?」と聞いた。
「6時過ぎですよ。」
父は窓の外の空を見て、夕方だと思っていた。
記憶が1日ズレている。 それでも私が昨夜来たことは覚えていた。
私たちは5時過ぎに起きて、いつもどおりの朝食に準備をした。
初めてではない。先月と同じ。 母の指示を受けながら準備をする。
寮生たちを送り出すと、急いで掃除をして食事の買出しに出かける。
それから病院へ3人で向かった。
もう点滴も外されていて、昨夜より顔色のいい父。
まだ少し左手足に違和感があるものの、妹も父の顔を見て一安心した。
起き上がるとクラクラするので、朝食はほとんど食べられなかったと言っていた。
私たちは新聞と携帯電話を持って行った。
記憶が一日ズレている父は何度も「今日は13日か?」と聞いた。
「また夜来るね。何か欲しいものがあればまたメールちょうだい。」
と言って、私たちは夕食の準備をするため、寮に戻った。
14:30から夕食の準備。
17:30を過ぎると新入生たちが続々と帰って来る。
「お帰りなさーい」
いつもどおりの食堂のカウンター。
女3人、テキパキと笑いながら作業をしている。
「寮管さんは大丈夫ですか?」
寮生が食べ終わった食器をカウンターに戻しながら聞いてきた。
寮生が食べ終わった食器をカウンターに戻しながら聞いてきた。
「昨日はありがとうね。」母は答えた。昨日部屋まで父を運んでくれた人だった。
「ちょっとまだ左に違和感があるけど、意識もしっかりしてるし大丈夫よ。」
いつもどおりの笑顔。
母は泣かない。
波乱万丈な父を笑顔で支え、私たち3人の子供を優しく包み、育て上げた強い女性だ。
不安がないわけではない。私も妹もいつまでもここにいるわけにはいかない。
本当に父が完治するかは分からない。
寮に住んでいるからには、退職した場合、家を失う事になる。
80を過ぎたおばあちゃんもいる。
それでも母は笑う。
腹が決まっているのだ。
そして私たちはお互いに家族を、例えようがないほど深く深く信頼している。
だから母が大丈夫だと言えば、絶対に大丈夫なのだ。
夕食の準備が終わると、メニュー会議。
明日は金曜日。朝食はパンの日だ。 ホットドッグに決定。
そして夜は寮食史上初! 生春巻きにチャレンジする事にした。
夕方弟が父に電話した。母も私も「大丈夫だから帰ってこなくていい」と言っていた。
どうしても心配で直接父に電話したらしい。
研修中の同僚にも帰ったほうがいいと勧められ、父の声を聞いて週末戻ると決めたようだ。
「先週福島でみんなで会ったのに、今週また家族全員揃えるなんて思わなかったねーo(〃^▽^〃)o」
と私たちは笑った。
夜の面会は妹が友達と行った。
ちょっと熱があるので、早めに切り上げて寮に戻ってきた。
翌日、3人で作った朝食を父にメールで送った。
アホ顔は妹。父からの返信は
「来る時携帯の充電器を持ってきてくれるかな、よろしく!」
スルーか∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
そして3日空いてしまった透析に向かったのでした( ̄ー ̄)
透析に行くと普段でも微熱が出る父。久々の透析は体に応えるはず。その日の午後は私たちも病院に行かずに休んだ。
そして夕食は初チャレンジの生春巻き(・∀・)/
父からの返信はない。まだ寝てるんだろうか。
夜病院へ行くと、高熱でうなされていた。
38.9℃もある。
久々の透析のせいだろうか。 氷枕をして毛布と布団をかぶっていた。
通常4時間かかる透析に耐えられず、2時間で切り上げたらしい。
声もカラカラで随分衰弱している。
食事ものどを通らなかったそうだ。
私たちは早めに病院を出た。
寮に戻ると妹の友人がカンボジア行きの便の延長を調べてくれていた。
妹は渡航を1週間延期する事にした。
名古屋のいとこが心配してくれていたので写メを送った。
土曜日と日曜日は寮の食事は作らなくていい。
少し遅めに起きて買出しに出かけようと玄関を出た。
小柄な男性が封筒を持って現れた。
その人は朝、父の病室に行ったそうだが、透析に行った後だったらしく、病室にはいなかったので、わざわざ寮へ足を運んでくださったのだった。
男性は言った。
「コレは師匠からの激励です。どうか早く元気になってください。」
封筒を開けるとお見舞いが入っていた。そしともうひとつ。
「健康長寿」という字が目に飛び込んできた。
B5ほどの和紙の真ん中に堂々と印が押されていた。
買出しを終えて病院へ。父にそれを見せると、
「申し訳ない。申し訳ない。」と声を詰まらせた。
そして「額に入れてそこに飾ってくれるか。」と言った。
私と妹は母を病室に残したまま、額を買いに行った。
弟は午後3時までの研修を終え、浜松に向かった。
母は一日中病室にいた。
お見舞いに何人も訪れていた。
20:33 弟が浜松駅に到着。 額に入れた「健康長寿」を携え、弟を拾って病院へ。
面会時間は過ぎていたが、個室だったので大目にみてもらえた。
父は弟の顔を見てホッとしたようだった。
その日は朝から熱が下がらず、もう夜にはぐったりしていた。
弟が着たばかりではあったが、顔だけ見せて帰宅した。


