単純でストレートな答えだった。しかしその言葉とは裏腹に、言葉の裏に隠れた想いは決して生易しく決断されたものではないのが伝わってきた。どうしてその決断をしたのか、わかる気もするし、わかっちゃいけない気もした。

 

1月末、とある街の交差点で佇む女性に目が止まった。おそらく年齢からして女子高生もしくは女子大生くらいなのだろう。視線が見つめる瞳には力がなく、どこか空虚さを感じる眼差しだったのが印象深かった。

 

「儚げだな」

 

僕が抱いた印象はそんなものだった。その瞬間は。刹那、2人には自分たちが感じるものがわかった。

 

「私がわかるの?」

 

「ああ」

 

それが答えだ。彼女はもう旅立った人だった。僕はいつもの様にそのままその場を立ち去ろうとした。身も知らずの人に関わって何かできることなどないから。いやできることはあるが、それをしていたらキリがないからというのが正しいのかもしれない。そして、大抵は、相手も諦めるのが常だった。でも今回は違った。

 

「私がわかるんでしょ!なら話を聞いて!そこの哀しい瞳をしたお兄さん!」

 

哀しい、、、その言葉が無ければ何も響かなかったのかもしれない。思い当たる節はある。とはいえそんな表情をしている自覚はない。だからこそ、そこに引っかかってしまった。何を感じ取ったのだ、彼女は。仕方ない、歩きながら話を聞くことにした。彼女はそれまで虚な表情だったのだが、嬉々として話し始めた。誰にも気づかれない毎日は相当寂しかったのだろう。しかし今日は話を聞いてくれる人が現れた。

 

僕も彼女の話に夢中になった。他に考える事がなかったわけじゃない、忘れたいこと、考えたくないことから逃れられるなら、その話を聞くのも悪くない。しかし、聞くのが辛い話だった。殊更明るく話そうとする彼女が切なさを呼び込むのだ。心が締めつけられる様な感覚を人の話で感じるのは、今の僕には辛い。

 

話しながら歩いてきたら、いつの間にか僕の家に着いてしまった。当然の様に彼女も一緒についてくる。ただ、話の途中ということもあり僕はそれが気にならなかった。普通なら、そんなお方に家に入ってほしくはないのだけど。今回はなんだか、さも自然の流れのように事は進んだ。

 

話はこうだ。

 

彼女は付き合っていた彼氏と親友に裏切られ、更には企てに嵌められ、女性として、人間としての尊厳を傷つけられたそうだ。壮絶だっただろう。その時の悔しさ、悲しさは想像に難くない。ただそれを殊更に明るく話をする彼女に僕が悲しかった。

 

「んで、もうここにいる必要はないかなと思って、、、。」

 

「だけど、旅立ったにも関わらず、中途半端にここに残っちゃったんだよね。だから誰も私に気づいてくれない、誰も私を自由にしてくれない。ここで私はどうしていけばいいの?って思案にくれてたの。」

 

「どれくらいの時が経ったんだい?」

 

「わかんない。1週間前なのかもしれないし、10年前からなのかもしれないし。ここは時間の概念がなんかおかしいんだよね。」

 

「そっか」「で、どうしたいんだい?」

 

「さっきまではここからも早く離れたいなぁと思ってたの。ここにいても辛いだけだから。でも、今はね、わかってくれる、話を聞いて、してくれる貴方がいるからもうちょっとだけここに居たいなぁって思うんだよねぇ。」

 

「そっか」

 

「いい?」

 

「ま、少しなら。俺も時間はあまりないからさ。」

 

「ありがと」

 

こうして、次元の違う2人の奇妙な同居生活が始まった・・・。

 

 

続く

 

 

 

 

かもしれない、、、。