「Hurry up!!!!!!!!!(急げ)」

コンビニやファミレスのレジで、

支払いのやり取りをするとき、

必ず店員さんから受けとる”無言の圧力”。

 

後ろに人が並んでいるか否かは

あまり関係ないらしく、いつだって

「次の動作は準備済みですけど、

まだでしょうか?」と無表情で迫りくるアノ感じが、どうにもこうにも苦手である。

 

お金を支払い、お釣りを受け取ったら、客は素早く2つの動作を完了させなければいけない。

ミッション①財布にお金をしまう

ミッション②財布をカバンにしまう

 

だが、ミッション①を終える前から

店員さんは商品を詰めた袋の持ち手をご丁寧に持った状態で「今か、今か」と無表情でこちらを見つめてくるのである。

 

店員さんに悪気はないし、

心中「急げ」と思っているかどうかも

定かではない。

 

それでも、”次の動作を準備済み”で

じっと待たれるアノ感じに私は弱い。

 

だから、レジに挑む前にバッグの右と左のどちらが財布を滑り込ませるスペースか確認をするし、並んでいる時間があるならば、お札と小銭の事前チェックも忘れない。

 

片手に財布を握ったまま、ひとまずレジ前から足早に退散し、入り口付近の邪魔にならないところでようやっとミッション①②を行うこともしばしばである。

 

 

そうしていつの間にやら身についたのが「as soon as possible」の習慣。

 

しかし先日、そこまで準備万端にする自分の滑稽さにはたと気づかされる出会いがあった。

 

浅草雷門で「揚げ饅頭」を買ったときのことだ。


隙間なく小店が並ぶメイン通りは大勢の人で賑わい、目当ての饅頭屋の前にも人だかり。中では白衣姿のおばちゃんたちがハキハキと威勢のいい声をあげながら手際よく商いしている。湯気がモクモク立ち上る店内はとても暑そうで、三角巾から少しばかり覗くこめかみにキラリと汗が光る。

 

私「揚げ饅頭をひとつください」

 

店員「こしあんでいいの?あいよ!100円ね!」 


おばちゃんに500円を支払うと、

紙に挟んだ一口サイズの揚げ饅頭が先に出てきた。直後、お釣りが出てくるも、片手作業に手こずりそう。小銭を握りしめて通りの脇にでも行ってから‥といつもの調子で考えていると、

 

店員「饅頭、持っててやるからしまっちゃいな!」

 

とまさかの提案が飛んできた。”饅頭を一旦預かる”という優しさに恐縮しつつ、お言葉に甘えて小銭をしまう。混雑していたし、財布をしまうのは流石に後まわしにしようと判断。慌てて礼を言って饅頭を受けとろうと手を伸ばすと、

 

「ダメよ、そいつもしまっちゃいなさい。いいから!

ダメよ〜ダメダメ♪」

 

と、私の急ぐ動作を制するおばちゃんの一声。無邪気な笑顔のおまけ付き。

 

そういえば「ゆっくりなさい」の優しさを久しくもらっていなかったなぁと懐かしい気持ちになる。

 

幼少期。何でも「自分でやりたい」と駄々をこね、パジャマのボタンをかけるのも、靴を履くのも、時間がかかって仕方ないのに意地を見せたあの頃。どんなに手間取っても「ゆっくりでいいよ」と笑って気長に待ってくれた母を思い出す。

 

ちょっぴり古くなった「ダメよ〜ダメダメ」のフレーズを得意気に付け足したおばちゃん。急かさない優しさに加え、その愛嬌たっぷりな感じにハートを射抜かれて以来、コンビニでもファミレスでも「無言の圧力、ダメよ〜ダメダメ♪」とか何とか言い聞かせながら、堂々と財布をしまうようになりましたとさ。

 

 

 

 

 

 片付けても、片付けても、
ふわりふわふわ手元に仕事が
舞いおりる。塵がつもって
お山の完成である。
 
そうなると、バリケードをはって
直ちに自分の世界に立て籠る。
背中にはいつの間にやら「話しかけ
ないでください」の張り紙が貼られ
ているらしく、周囲を寄せ付けない。
 
社内を小走りでパタパタ駆け回り、
ノンストップで手も足も動かし続け
る。「無心」こそ、我流お片付けの
魔法なのだ。
 
しかし、世の中にはどうやら別の
籠り方があるらしい。
 
しかも、周囲を寄せ付けない‥
という点は同じなのに、何だか
断然こちらの方が素敵なのである。
 
その方法を知ったのは、先日行われた
取引先と打ち合わせの最中。ちなみに相手は女性で、まだ3回ほど会っただけの、大して親しくない間柄だ。
 
締め切り30分前の「商品サンプル」を前に、最後の注文を検討する場だった。
逸る気持ちを抑えつつ、冷静な笑顔を保とうとソワソワする私の横で、なんと彼女はサンプルを手に鼻歌を歌い出したのだ。
 
タラリラリラリランンンン〜フフ♪
 
同じ状況に追い込まれているはずなのに、余裕の鼻歌‥。唖然とする私など全く目に入らぬ様子で、しばらくすると何事もなかったかのように打ち合わせの続きが始まった。
 
「忙しいときこそ鼻歌」
 
そんな心くすぐられるお片づけの魔法
を得て、いつか私も‥と想像する。
恥ずかしさが勝り、すぐに真似することは難しそうであるが、いつか必ず。
 
1度だけ、忙しく駆け回る私をみた後輩が「セーラームーンみたいですね❤︎」と言った。瞬間的に苦々笑いをつくったが、言い得て妙だと感心したのを覚えている。
 
いつか私にも「ローラみたいですね❤︎」と言われる日がくるだろうか。彼女はテレビ出演中、所構わず鼻歌を歌うという噂である。
 

仕事の電話は基本的にくすぐったい。

マニュアル通りの言葉をスラスラ唱えるときは、

呪文を間違えやしないかと変なプレッシャーで

頭がいっぱいになるし、決まり文句をぶつけ合うのは

身につけた技を交互に繰り出すようで何だか窮屈だ。

 

だからこそ、敬語が完璧な訳じゃないけれど、

自然と相手に好感を与える丁寧な”我流電話術”で

ペランペラン喋る人に出会うと本当に感心してしまう。

 

水族館の事務をする水川さん(仮名)もその一人。

首をうんうん動かしたり、ペコペコ頭を下げたりする仕草まで

受話器越しに伝えてしまうような声の持ち主だ。

                           *

「はい!▲▲水族館の水川(仮名)です!」

受話器に花が咲くんじゃないかと思うほどの

明るさでその女性は電話に出た。

 

時々、「〇〇ですねっ!」「かしこまりましたっ!」

と明らさまに語尾をぴょんぴょこ躍らせちゃう

ぶりっ子風の女性がいるけれど、水川さんはそれとは違う。

小さな「つ」のそのまた半分くらいの大きさのハネを語尾に

くっつけるので、嫌な感じがまるでない。

例えるなら、お仕事ドラマの主人公で描かれるような

「人のいい頑張り屋さん」。それを電話の第一声で

感じさせるのだから、すごい。

 

「仕事の問い合わせを昨日からしていたのだけれど、

やりとりをしていたそちらの担当者と電話が2度もすれ違っちゃって

云々カンヌン‥(省略)」と、要するに困っている旨を伝えた私に対して、

水川さんは絶妙なタイミングで首を縦に動かしながら、うんうん耳を傾けて

聞いてくれた(多分)。

 

結局、お目当ての担当者は今日、明日とお休みだから、3日後に連絡を

もらうという流れになり、「電話番号」を尋ねてくれた水川さん。

 

「それでは復唱させていただきます」だとか「お電話番号を頂戴しても‥」

とかいう定型文はもちろん想定通り出てこなかったのだけど、驚いたのは

戸惑いと笑いを誘うフリーダムな電話番号の聞き方だった。

 

(水川さん)「ご連絡先とお名前を聞いてもいいですか?」

 

(私)「はい。よろしいですか? 060の1234」

 

私が番号を口にしたあたりで、ハモるように小声で復唱を始めた

水川さん。「060の1234。あ、会社名とお名前を!」

 

電話越しにメモを取っている様子なのに、何故だか前半4桁だけ

聞いた後で、続きを遮るように変化球「会社名とお名前を!」ときた。

あまりのイレギュラーな電話対応に戸惑いつつ、そこは投げられた

球を返すことを優先しようと咄嗟の決断。

 

(私)「『株式会社月夜』の、あかりと申します」

 

またまた軽いハモリを入れてくれた後で、ハッと思い出したように

「あ、番号半分しか聞いてなかったですね!」と水川さんが照れ笑い。

「5678です!(笑)」と”待ってました”の速球を投げ返した。

 

電話を切った後で、前代未聞の不思議な電話対応に

「好き」の気持ちがクスクスこみ上げる。

 

きっと電話に出る前、ペンギンに餌をあげていて、

「334」「335」「336」と脱走した奴がいないか

念入りに出席をとっていたに違いない。