「いーぱいうー」


広州の空港から走り出してすぐ、

そのタクシーの運転手はちらちら振り返りながら、手振りを交えて話しかけてきた。


いーぱいうーとはこの場合150元のことを言う。

僕の感覚ではちょっと高いと感じたので「だめ!メーターの通り」と

メーターを指差して言い返した。


白タクではないのだが、早くメーターを戻して自分のポッケに入れようという算段だ。


高速に入り(料金所で15元支払う)、距離的に半分ぐらい走ったかなぁと思える時点で

メーターは60元を超えていた。


「いーぱいうー」


彼はタイミングよくまた交渉してきた。

高速料金も入っているんだ!と身振り手振りで。

僕はそう高くもないかなと思い始めていたので、

彼の要求に応じた。


実は、もうその時点で彼が並みの運転手ではないと感じ始めていた。

何が並みじゃないかというと、


”その走り”

がだ。


とにかく早い!

すり抜け・幅寄せ、パッシング・クラクションの嵐・・・・

彼はその車の持てる能力をフルに使い、高速道路を疾走し続けたのだ。

(唯一スピードが緩んだのは、携帯で話している時と、高速上で仲間のタクシーと並走しながら窓越しに話していた時だけ。)



彼は誰にも抜かれなかったし、

彼を追随するものも現れなかった。



さらに途中でタバコを吸う時、僕にきちんと断りを入れるという紳士でもあったのだ。





今夜食事を共にしたHAKUさん曰く、

「ホテルに着いたと連絡をもらったときはかなりびっくりした」

ということだった。

空港を出たときに入れた連絡で僕の到着時間の検討をつけていたのだが、

それよりおそろしく早かったという。






広州のアイルトン・セナ。

彼の150元は

誇り高き150元だったのだ。



「いーぱいうー!」












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