去年の夏は新盆で人が来ることを想定して、私はせっせと家の片付けと掃除をしていました。

とにかく気になるのが、壁の汚れ。

さすがに天井は無理だと思うけど、壁はなんとか塗り替えられそう?

そう思ってネットで壁の塗り替えの方法を調べました。


ルンルン♪したBGMと共に若い女の子が楽しそうに壁にペンキを塗る塗料会社の動画を見て、「できるかも!」と思い、壁のペンキ塗りに挑戦することにしました。


ここで亡き父が登場。

父の仕事は建築塗装業でした。平たく言うとペンキ屋さん。

夏は暑く、冬は寒い、雨の日は外の現場は仕事にならず、天候にも左右されるし

その上父は重度の腰痛持ちだったので、体力的にも相当キツかったと思います。

炎天下の屋根の上で作業をしていて倒れ、緊急入院をしたこともあります。


仕事が無いときは、いつも自分の家のペンキを塗っていました。

それで実家は築ウン十年でも今もピカピカです。


私も作業的なことは嫌いではありません。

ただやはり父親譲りの腰痛が・・・。

だけど結局業者に頼んでも、作業中は家にいなくてはならないし、神経も使うだろうし、だったら自分でやってみようと思い、ペンキ塗りに挑戦することにしました。


ホームセンターに行って材料と道具を買ってきて、家具をどかして脚立を立て、マスキングテープで養生をして・・・

猫を2階に避難させ、窓を全開にしていざチャレンジ


腰は痛いし汗だくで、ネット動画のように簡単にはいきません。

当たり前じゃ~(^o^;)


でも、なぜだかやる気満々の自分がいました。


その頃の私は娘のことで生きているのもやっとで、毎日泣いて過ごしていました。


それでも目標ができてスイッチが入った私は、ペンキ塗りに没頭したのでした。


作業しながら「お父さんは大変だったんだな。からだ一つで家族を養っていかなくてはいけないと、重圧を感じていたんだろうな。」と思いました。


いつもイライラしていた父・・・。

父は若い頃からずっとうつでした。

人間の器も小さかったのだと思うのだけど、家族は随分と とばっちりを受けてきました。


でもペンキを塗っている時の私は、父が一緒に手伝ってくれているような気がしたのです。

大変だけど、部屋がきれいになるのってすごく楽しいし気持ちがいい。

これが「やりがい」ってことなんだな。


いろんな思いが湧いてきました。


それまで父に対しては恨みや憎しみ、寂しさしか感じてなかったのに

いつの間にか、今まで父がしてくれたことを懐かしく思い出している自分がいました。

たろうのために立派な犬小屋を作ってくれたこと、

高校生の時、現場に行くついでに学校まで送ってくれたこと、

家の台所に棚を作ってくれたこと・・・

様々なことが思い出されました。


腰痛や病気を抱えて生きるのに精一杯だった父。

父自身もアダルトチルドレンで、寂しい子供時代を送っていたようです。


私の心の中に、不思議と温かい気持ちが芽生えてくるのを感じました。


初日は一日かけて、部屋の8分の1くらいの面積を塗りました。

着ていた服は白い点々だらけ・・・。


毎日、ソファ、仏壇、ダイニングテーブル等を移動させ、ペンキを塗り続けました。

7日間かけて居間は見違えるように真っ白になりました。

あと一日で完成・・・というところで、猛暑になってしまい・・・

結局その後は天候にも恵まれず、仕事も始め、そのままになっています。

あと一面だけ・・・今年完成させる予定だったけど、まだ手つかずのままです


久しぶりに家に帰ってきた息子が、キレイになった壁を見て

「おじいちゃん降臨だね。」と言いました。

うん、おじいちゃんと同じ作業をして、おじいちゃんの気持ちが少しわかったような気がしたよ。

それと、ど素人の自分がこんなにきれいに塗れたのは、父の応援があればこそだと思いました。

父の魂を感じられたような気がしました。


父に対しての寂しく冷たかった感情が温かいものに変わった気がします。

父が亡くなって7年経って、何かが変わったのをはっきりと感じました。


あんなに憎んだ父、葛藤があった父、

その父の事を今はプラスに受け止めている。

これが「とき薬」というものなんだろうか?


マイナスの気持ちを手放すのって、何て気持ちが良いのだろうと思いました。

娘がいなくなって悲しくて仕方のないときに感じた新しい気持ち。


私は「どうかお父さん、娘のことを守ってね。」と心の中でつぶやきました。

その時私は、温かい涙を流していました。


今年になってから他のブロガーさんの記事で

「いい思い出だけが残ること、それを成仏というんです」

という言葉を目にしました。


まさにそんな感じでした。

その言葉が私の心にスっと入ってくるのを感じました。


娘のことは恨みの様なマイナスの気持ちは全く無いけれど、

ずっと悲しい気持ちでいっぱいです。

7年経ったら、娘を想うときもこんなふうに穏やかになれるのかも知れない。

あんなに嫌いだった父でさえ、こんなに温かい気持ちになるんだもの、

愛しい娘だったら尚のこと、穏やかな気持ちになれるに違いない。

何年かかるかわからないけど、そうなることを信じて生きようと思うのです。